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21話 少女と銃使いの男は工房へ走る

 ――――だったら、あの力を使おう。


 そしたら、今の状況が変わるかもしれない。

 私は、建物の隙間から覗く月を見上げた。

 

 ルークの魔法の音、グラットの銃声の音が響いている。その中で、私は月に手を伸ばした。


「――――ダメだ!」


 ルークが私のしようとしていたことを、止める。


「ティアラ、まだ、その力を使う時じゃない!」


 空中戦を広げるルークが、私に向かって叫ぶ。


「魔法使い、なに、よそ見している」

 

 ルークに向かって一直線に加速する敵に、炎の魔法を連射してぶつける。

 だが、魔法が効かず、さらに加速してルークに突撃した。


 ルークは間一髪で、敵の鋭い爪による攻撃は躱す。

 だが、敵は空中で素早く回転した。

 次の瞬間、ルークの体に強烈な一撃が入れられる。


「ぐっ……!」

 

 ルークは勢いよく落ちてくる。

 轟音とともに地面にひびが走る。


「ルーク!」


 私は、走ってルークの方へと駆け寄った。


「だい、丈夫だ……」


 ゆっくりとルークは立ち上がり、空を飛ぶ敵を睨んでいた。

 

 こんな状況で私は、やっぱり何もできない。

 武器を手に入れても私は……。


「ティアラ……」


 ルークが私にだけ、聞こえる小さな声で耳元に囁いた。


「これから、何とかグラットと一緒に、工房に向かってくれ。僕は、この悪魔を何とか抑えるから」


「で、でも……」


 私は、不安に思いながら震える口調で言葉を繋げようとする。

 だけど、ルークは食い気味に言って、笑う。


「こんぐらい平気だ。だから、僕を信じて!」


 そう言ってルークは、足から炎を出し空へと飛んでいく。

 その背中は、勇気と自信に満ちていた。

 

 正直、信じてと言われて心配しないなんてことは、私にはできない。

 だけど、兵器を取られたらまずいことも事実。

 私は、考えるよりも先に、言われた通りに動くことにした。

 

「グラット! 工房へ行きましょう! だから、その悪魔を何とかしましょう!」


 さっきからずっと、距離を取りながら銃を撃ち戦っていたグラットは、何言ってんだと言わんばかりの表情で、私に向かって叫ぶ。


「何言ってんだ! こんな強い奴、俺に何とか出来ねーよ!」


 グラットのごもっともな発言を聞き流して、同じことを叫ぶ。


「何とか、しましょう!」


 女の悪魔は、グラットの方に近づこうとしていたが、足を止めて、赤い瞳で私を睨んだ。


「そんなことが、できると思っているのですか?」


 グラットが、魔法で出したスタングレネードやスモークグレネードで足止めしていたが、そろそろ手数が尽きてきているようだ。

 それでも、私は呟くように言った。


「できる……」


 はっきりとは言えない。だけど、ルークが信じてと言ったんだ。

 だから、やってみるしかない。


「あなたが、この中で一番弱いから狙わないであげたけど、仕方がない。あなたから殺す」


 悪魔は私にそう告げて、さっきと同じように一直線にこちらに突撃してくる。


 くる……。


 距離はある。魔法を使う時間もある。

 私は弓を握っていない方の手を前に出し、詠唱する。


「ウォーターボール!」


 私へと一直線に駆けてくる敵に向かって、魔法を放つ。

 

 私の魔法は攻撃魔法のような威力はない。だけど、一瞬だけ視界を塞ぐことができる。

 

 魔法は敵にぶつかり、弾ける。

 その瞬間、私は敵の軌道から避けるように横へとずれる。

 横薙ぎの剣が、私の髪を掠めた。


 危ない……。


 敵は、勢いを止めるために、地面に剣で線を引きながら止まる。

 その間に、私はグラットに駆け寄った。


「死んだと思ったぜ」


「なんとか、しましたよ……はあはあ」


「でもよ、ここからどうするんだって話だぜ。あの女の悪魔が道を塞いでやがるからな」


「一応、作戦はあります。やる覚悟はありますか?」


「覚悟なんて、あの悪魔と戦ってる時から決まってるぜ」


「そうですか」


 苦笑いを浮かべるグラットに、私も笑みで返す。

 工房にたどり着けるどうかは五分五分だが、やるしか選択肢はないのだ。


 私は弱い。だから、頭を使って戦うしかないんだ。

 必ず、工房に行ってみせる。


 グラットに作戦を耳打ちして、私たちは道を塞ぐ女の悪魔に向き合った。


「道は通しませんよ」


「グラット、では行きましょう」


「おう。やるか」


 私とグラットは悪魔に向かって、同時に走り出す。

 二手に分かれて、大通りの両端から二人で同じ方向へと向かう。私が右側、グラットが左側から攻める。


 敵は道を塞がないといけない。

 だから、さっきのような速い攻撃はしてこないはず。

 

 今回は、私たちが先手を打てる。

 

 敵に向かって、私は矢を構える。

 

 その時、グラットがスモークグレネードを投げて敵の視界を狭める。

 さらに、銃声が二発響く。


「また、同じようなことを……」


 いとも簡単に悪魔は二発の銃弾を剣で弾いてしまう。

 女の悪魔はグラットの方を睨み呟いた。

 

 それでいい、のだ。


 私は、足を止めて狙いを定める。


 銃と弓には明らかに、違う部分がある。

 それは、音だ。

 

 銃は撃てば音が出る。だが、弓から音は出ない。


 ――――今だ!


 敵が私ではなく、グラットの方に気が向いているその瞬間に、矢を放った。


 放たれた矢は、悪魔の太ももの部分に刺さる。

 さらに、続けて私は矢を撃つ。

 その矢も、片方の足の膝の部分に刺さった。


「お前、やったな……」


 赤い鋭い瞳がこちらを睨んだ。


 背筋が凍るような、殺意を向けられ思わず固まってしまう。


「ティアラ、行くぞ!」


 グラットの声に背中を押される。


「は、はい……!」


 大丈夫、さっきも見たけど敵はすぐに足を治すが、少し時間がかかる。

 その間に、行ってしまえばいいのだ。


 私とグラットが、全力で走り悪魔の横を通りすぎた時だった。


 白い光が一瞬、視界を埋める。


 ――――ドゴンと爆発音のような轟音が響く。


 振り向くと、ずっと握っていた剣を落とし、その場で白目を向いていた。


「ティアラ、先へ行け!」


 空中で戦っているルークが、大きな声で言った。


 どうやら、ルークの雷の魔法を食らったことで、女の悪魔は気絶したようだ。

 

 やっぱり、ルークはすごい。

 最初からサポートするために、私に先に行けって言ったんだ。

 

 これなら、確実に工房にたどり着ける。


「急ぎましょうグラット」


「おう!」


 私とグラットが、そのまま行こうとすると、さっき感じた殺意の視線が、背中に突き刺さる。


「……い、行かせない」


 振り向くと、白目を向いていたはずの女の悪魔が剣を握り、赤い双眸でこちらを見ていた。

 足に刺さった矢を抜いて、悪魔は私たちに向かって剣を構えていた。


 ルークの魔法が直撃したのに、立ってる!?


 嫌な予感がした。

 その瞬間だった。

 悪魔は、姿を消した。

 

 まばたきを一度した一瞬で、悪魔は目の前にいた。

 私とグラットを同時に斬ろうという、考えなのだろうか。

 悪魔はすでに、横薙ぎで剣を振り始めていた。


 ……躱せない。


 私はもう一度、まばたきをした。

 すでに、私は死を悟っていた。


「させない!」


 その時、鋭い金属音が響く。


 次に目を開いたとき、私の目の前には猫耳の獣人が立っていた。


「フィスト!」


「ティアラ、こいつは私が何とかするから、先に行って!」


「うん!」


 フィストの力強い言葉に頷き、大通りを足を止めずに走った。


 信じる。

 必ず、ルークもフィストも悪魔に勝利するって、だから、工房は私とグラットに任せて!

 

 心の中で、自分を鼓舞するようにそう言った。

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