18話 少女たちは慌ただしい夜に目覚める
――――てぃ、ら、おき、く、さい。
あの声だ。
綺麗で透き通るような、落ち着いた声。
ゆっくりと瞼を開けると、目の前には長い青髪をなびかせ、綺麗な顔立ちの女の人が羽を動かし、飛んでいた。
途切れ途切れに聞こえてくる言葉に、耳を傾けた。
――――てぃあ、おきて、ください。
起きる? どうして? と心の中で唱えても声は届かない。
――――いま、くに、あぶない。
国が危ない?
――――あくま、せめて、き、ます。
悪魔が攻めてきている……。
このピスタニア王国に、悪魔が……。
――――だから、おきて!
そんな必死の声と同時に、私は高いところから落ちていき、青髪の女の人が遠ざかっていった。
☾ ☾ ☾ ☾
――――ガタン!
「いった!」
高いところから落ちて、私は体を思いっきり打ち付けた。
体をゆっくり起こし、状況を確認する。
どうやら私は、寝床のベッドから落ちたらしい。
原因は、隣で寝ているフィストの寝相の悪さだ。
私がベッドから落ちたというのに、フィストは気持ちよくいびきをかいて寝ている。
「はあ……気持ちよく寝てたのにな……」
ベッドに名残惜しい思いを感じながら、私は部屋の外に耳を傾ける。
「た、大変だ! ウーランド参謀が殺された!」
「どういうことだ」
「わからない。だけど、近くにまだ殺した敵がいるかもしれないから、兵士の俺たちが招集されてるんだ!」
そんな、慌ただしい外の声を聞いて、私は思考する。
今、ピスタニア王国では何が起こっているのだろうか……。
夢の中で起こしてきたあの女の人は、どうして危険を私に知らせたのか……。
何か、あの女の人と関わりがあるってことなのかな?
考えてもわからないので、私はとりあえず行動に移す。
「フィスト起きて!」
「ん……うん……」
「いいから、早く起きて! 今、危険なことが起きてるかもしれない!」
「危険って……何?」
「わからないけど、外が騒がしいの!」
ゆっくりと起き上がり、目を擦りながら、寝間着姿のフィストは寝ぼけながら言葉をゆっくり紡ぐ。
「それで……どうしたの?」
これは、どうしよう。今のフィストに状況を説明しても、頭に入ってこないだろう。
だったら、無理やり動かそう。
私は寝ぼけて、まだ頭が回っていないフィストに近づき服を着替えさせる。
「きゃあ!」
フィストが女の子らしい悲鳴を上げるが、関係ない。
着替えた頃には、目が覚めたのか、不機嫌にフィストが言う。
「いきなり何よ。まだ夜じゃない」
「外が騒がしくて、危険らしいの。だから、無理やり準備させてもらったよ。とりあえず、ルークの部屋にも行こう」
「う、うん。わかった」
まだ、納得できてないフィストを連れて、ルークたちがいる部屋に向かった。
☾ ☾ ☾ ☾
私は優しく扉をノックする。
――――コンコン。
「誰ですか?」
中からルークの声がして、私は扉を開く。
部屋の窓際で外の様子をうかがうルークの姿を見つけて、声をかける。
どうやら、ルークは危険を察知したのか、外の騒がしさに気が付いたのか、すでに準備ができているようだ。
とんがり帽子が、こちらを向いた。
「ウーランド参謀って人が殺されちゃったみたいです」
「うん。僕もそれは知ってるよ。一応、耳で情報収集はしたからね。で、僕たちはこれから、どうしようか……僕も、これ以上の情報がない」
「私は、一つあります。悪魔です。この国に悪魔が攻めてきています」
本当なのか、嘘なのかはわからない。だけど、夢の中で女の人が言っていたことは信憑性が高い。
現に今、騒動が起きている。
私の言葉に、ルークとフィストが静かになる。
「悪魔か……」
「悪魔……」
みんな、一度は相手にしたギルガッドという悪魔の存在を知っているからか、一気に表情が強張る。
「はい……」
だけど、情報が少なすぎる。
悪魔の目的がわからない。
夢の中で女の人が危険と言ったのは、私にも影響があるのかもしれない。
その状況を打破するための手段が私たちには、わからないのだ。
私は、思考を巡らせる。
この国だけではなく、私たちにも危険があるとしたらなんだろうか……。
頭の中で、一つの大きな物が浮かび、どんどん不安が大きくなっていく。
だとしたら、悪魔の行く場所は……。
嫌な予感がした。その予感が的中したらまずいと思い私は一つルークとフィストに提案する。
「グラディオおじいさんの工房に行ってみません?」
確信はない。だけど、悪魔の狙いがこの国に隠された兵器の存在なら、 国が危険に晒される理由も、私たちが危ない理由もわかる。
どこから情報を得たのか、わからないが、国の参謀が殺されたというなら、悪魔はそこから何か情報を得た可能性はある。
参謀なら国の重要な情報を知っていても、おかしくはない。
もしかすると、兵器の存在も知っていたかもしれない。
「なるほど……」
私の考えを簡潔にルークとフィストに話すと、二人はより深刻な表情をする。
「正直、憶測でしかないのですが、もしかしたらがあるので、私たちだけで、兵器の確認をしに行きませんか?」
憶測は当たってほしくない。だって、兵器の隠し場所にはグラディオおじさんだっている。
悪魔がそこに向かっているなら、一番危険なのはグラディオおじいさんだ。
「なら、急いで工房に急ごう」
「はい」
私は、ルークの言葉に返事した。
その時だった。ルークの部屋のベッドの布団がもぞもぞ動く。
「な、なんだ?」
どうやら、グラットが目を覚ましたらしい。
「ちくしょう。頭がいてえ……」
頭を手で押さえて、苦しそうに起き上がる。
呑みすぎて、頭が痛いのかもしれない。
「ん? てか、ここはどこだ?」
「ここは、ピスタニア王国の城の中だよ」
「……は!?」
ルークの返答に、大きな声を上げて驚くグラット。
「な、なんで俺がそんなところにいるんだよ。意味わかんねぇ」
酒で酔って記憶がないのか。
自分で、気分良くいこーとか言ってたのに。
ルークの返答に、グラットは大きな声を上げる。
「なんで、俺が嫌いなあいつの城にいるんだよ。くそ!」
なんだか、怒っているようだが、なんで怒っているのかは、私たちには全くわからない。
私とルークとフィストは三人で目を合わせた。
そして、頷き私たちは動き始めた。
「お、おい! 何するんだ!」
ベッドからグラットを無理やり動かし、私たちは部屋の外に出た。
幸い着替えずにそのまま寝ていたので、グラットを部屋から引きずるだけで助かった。
戦力は多い方がいい。
私たちは、グラディオおじいさんの工房に向かって動き始めた。




