奴隷少女は温かさを知る
レインボーサンドを食べ終え、私とルークは次に予定を立て、移動を始めた。
雑踏の多い道を掻き分けながら歩き進む。
私たちは次に、靴屋に向かうことにした。
ぼろぼろの靴のままでは、歩くのはきついというルークの考えから、の提案だった。
確かに、ぼろぼろの靴のままじゃ、これからの旅大変そうだ。
ルークに手を引っ張られ人の多さに圧倒されながら、しばらく進むとすぐに目的地に到着した。
「着いたよ」
人の波から外れた静かな道。遠くから、雑踏が聞こえてくる。
人影も少なく、建物の隙間に作られたお店。
看板が立てられたお店に近づき、ドアを開く。
ちりんとベルの音がする。
建物が木造だからなのか、木と革の匂いが重なった独特な匂いがした。
見渡すと、店内にはたくさんの新品の靴が並んで置いてあった。
「さて、どれを買うか」
「こんなに置いてあると困りますね」
「まあでも、一旦旅用の靴だよな」
「そうですね。旅用の靴ってどんな靴なんだろう?」
「一旦、お店の人に聞いて見るね」
ルークは店内の奥にいるおじさんに近づいた。
そして、慣れない感じで、話しかけた。
「あの……」
「なんだ?」
鼻からちょびっと髭をはやし、険しい顔をしたおじさんが反応する。
「これから、長旅をするんですけど、僕ではなくティアラの靴が欲しくて、どれが良いのかなって探してて……」
「なるほどな」
そう呟き、おじさんは重そうな腰を上げた。
「こっちだ」
「は、はい……!」
おじさんの圧にルークも怖がっているのか、遅れて返事をする。
その気持ちはわかる。私も少し怖い。
「この辺の靴が旅をするのにおすすめだ」
棚にはたくさんの革靴が置いてある。
「あ、ありがとうございます」
「旅をするなら、底が分厚くて、足を守ってくれる固い素材の靴が良い」
顎に手を当てて考えた後、ルークはおじさんに尋ねた。
「あの、一旦履いて選ぶってできますか?」
「良いぞ」
「ありがとうございます! なら、ティアラが履いて選ぼう」
「わかりました」
そうして、おじさんがおすすめする靴を何個か選び履き比べすることにした。
「よし、この三つから選ぼう」
私は、おじさんの持ってきた台の上に座り、ぼろぼろの靴を脱いで新しい靴に足を通そうとすると、ルークが止めた。
「ティアラ、足に傷が……大丈夫? 痛くない?」
そう言われて気づく。
足の皮膚が剥がれていたり、擦り傷のような跡があったり、足もぼろぼろになっていた。
痛くはない。だって、もっと痛いことを知っているし、この痛みには慣れた。
「あまり痛くはないです」
「そっか……でも言わないとダメだよ」
「なんでですか?」
「だって、この傷が痛くないわけない。僕なら痛くて歩けないよ。だから、我慢する必要はないよ。言ってくれたら治すから、こんなふうに」
ルークが手を足に添えると、緑の円が光る。
見たことがある。これは、回復魔法だ。
ルイス様が一日の終わりに必ずかけてくれる縛りの魔法。
でも、なんだろう……今は、とても温かい。
緑の光に片足が包まれ、傷が癒えていく。
気づくと足の傷が綺麗に消えていた。
「今度から、傷は治すから言ってね」
ルークの笑顔にドクンと鼓動が弾ける。
今まで、痛いと言っても、黙れと冷たい言葉で返される環境にいた。
けど、今は言えばちゃんと直してくれる温かい場所に私はいる。
心がぽかっと温まり、私は笑みを零す。
「わかりました。今度からちゃんと言います!」
「うん。いつでも直すから頼りにしてね」
優しい笑みが返ってきた。
「は、はい……」
少し、目を逸らすように私は答えた。
視線を逸らした先で、おじさんの方を見ると光るものがきらりと落ちる。
「そっか、この子は……足を痛めないように自分に合う靴を選べよ」
おじさんは背中を向けて、さっきの位置に戻った。
あの人も、見た目が怖いだけで、良い人なんだ。
☾ ☾ ☾ ☾
たたんと地面を蹴る。
新品の靴はぴかぴかと光沢で輝いている。
「軽い!」
おじさんがおすすめしてくれた三つの中から、私は軽くて底が厚い物を選んだ。
歩くたびに、ドアをノックするようなリズミカルな音が響く。
「良い靴選んだね」
「はい! これで、旅をするのが楽しみです!」
「そっか!」
微笑みながらルークは、私の頭にぽんっと手を置いた。
顔に熱くなって、俯く。
「あ、あの……」
「ん、なに?」
「私、子供じゃないです……」
「ご、ごめん。つい……」
すぐに頭から手が離れて、私はルークの顔を見上げる。
顔を赤くして、ルークは頬を掻いていた。
ルークは私のこと、どんなふうに思っているのだろうか。幼い子供のようなふうに思っているのだろうか。
頭の中で、ルークが言っていた言葉が蘇る。
――夢だ!
そうだ、私と旅をするのが夢だと言っていた。それは、なんでだろう。小さい頃に約束したからかな? それとも、他に理由があるのかな?
「あ……」
「よし、予定通り宿を探そう」
気になって聞こうとしたら、ルークが先に口を開いた。
私は、ルークの言葉に頷き答える。
「そうですね。今日は疲れました」
また聞くチャンスがあったら聞こう。
でも、なんでかわからないけど、ルークが笑うとなぜか、鼓動が高鳴る。
この気持ちはなんだろう?




