奴隷少女は食べる
「でかい……」
都市の入り口の大きな門を見上げて、口をついた。
歩いてきた森の方からくる川が街の中を流れている。
その川を、大きな橋で渡ると大きな門が私たちを見下ろしていた。圧倒された私は、開いた口が塞がらなかった。
たくさんの人や種族が出入りする大通りの玄関口に、私はルークと手を繋ぎ一緒にくぐった。
「ここが、商業都市ウェルト……」
四方八方に視線を向けて周りを見る。
たくさんのお店の看板や店引きをする人が目に入った。
第一印象は、ルークが言った通り、とても楽しそうで賑やかな場所だなと思った。
さっきまでいた、森の中とはまるで世界が変わったように違う。
「まずは、どこに行こうか……」
ルークが独り言のように呟いた時だった。
なんだか、よだれが垂れてきてしまいそうなぐらい美味しそうな匂いが鼻を撫でた。
その匂いに釣られるように、私のお腹がぐう~と鳴った。
「まず、ごはんから食べようか」
私は、恥ずかしく思いながら静かに頷いた。
「なに食べる?」
ルークの問いに、私は甘い匂いの方に視線を向けて、指をさして答える。
「あれが、気になります」
「あれは……」
私と同じように、匂いに釣られた人たちが長い列を作り、赤と白が特徴的な出店に向かって並んでいる。
美味しそうな匂いがするから、食べ物系だと思うけど、どんな物を売っているのか皆目見当もつかない。
「多分、パン屋じゃないかな、あれ」
「え、あんな、甘い匂いがするパンってあるんですか?」
「あるよ。朝と一緒だけど、並ぶ?」
「並びたいです!」
あのお店の正体がわかって、なおさら気になってしまった。
ルークと一緒に長い列に並び、わくわくと子供が新しいなにかに出会う瞬間のような、心持ちで、順番を待った。
だんだんと出店に近づくと、甘い匂いが強くなっていく。
頭の中がその匂いでいっぱいで、もうこれじゃないと満足できない体になってしまっていた。
ようやく、順番が私の前を並んでいた女の人の番になる。
「レインボーサンド、一つください!」と女の人が注文する。
レインボーサンドってなに? 気になる。
前の女性が注文を受け取り、私たちの番がきた。
大柄の男の人が、店の中から笑顔で顔を出し、聞いてくる。
「お嬢ちゃんは、なにが欲しいかな?」
私は迷わずに答える。
「レインボーサンドください!」
「じゃ、僕もそれを一つ」
「はいよ!」
ちょっと待つと、すぐに二つのレインボーサンドが店と同じ色合いの紙に包まれて渡された。
二つで銅貨六枚の金額らしい。
高いのか、安いのかわからない。
少しずつ、硬貨の価値も学ばないといけないなと思いつつ、そんな考えは手に持ったレインボーサンドによってすぐに、塗りつぶされた。
☾ ☾ ☾ ☾
お店から少し離れた場所にある噴水広場にやってきた。
噴水を中心に開けていて、緑の芝生がある。そこで、子供たちが楽しそうに走り回り、遊んでいる。
ふんわりとした芝生の上に、私とルークは座った。
「ティアラ、はいこれ」
さっき並んで買ったレインボーサンドを受け取り、さっそく包まれた紙の中を見た。
「うわあ……美味しそう……」
それは、朝食べたような柔らかいパンを半分に切って、その間にたくさんの彩とりどりの果実と白いクリームが挟んである物だった。
この赤い果実は、森の中でよく採れるルンゴの実だ。それに青い果実の、少し酸味のあるラビーの実も入っている。
さらに、他にも黄色のナバの実に、紫色のラームの実まで……こんな贅沢に果実が使われてるサンドが美味しくないわけない。
唾を飲み、一口食べる。
かじると、クリームが溢れて口の周りにつく。
「んー!」
私は言葉を出すよりも先に、もう一度かじっていた。
そんな、私の姿を見てルークは微笑みながら、食べ始める。
口の中で、色んな果実の甘みが広がって……なにこれ……。
クリームもふわふわで甘くて美味しいし、パンも柔らかくて美味しい。いや、美味しすぎる。
口の中がふわふわして、まるで雲を食べているかのように感じる。
食べる手が止まらなくて、気づいたら自分の手にはレインボーサンドがなくなっていた。本当に雲を食べていたのかもしれない。
「食べちゃった……」
あっさり、食べてしまった少し名残惜しい気持ちがある。
食べ物にこんな感情を覚えるのは初めてだ。いつもなら、ただ食べるだけで終わっていたから。
それだけ、このレインボーサンドが美味しかったということだろう。
でも、もう一個食べたいなあ。
そんなことを思いながら、ふと横を見るとルークがまだゆっくり食べている。
「ん、もしかして足りない? 半分食べる?」
こっちの様子に気づいたルークが言った。
「え、良いんですか!」
「良いよ。僕、小食だからさ」
言いながら、半分に分けて、優しく私に渡した。
「はい、これ」
「ありがとうございます!」
すぐに受け取った半分のレインボーサンドを一口で食べる。
やはり、すぐに手からなくなってしまう。
「ふふ、クリームここについてるよ」
微笑みながら、ルークは自分の頬のあたりに指をさし、教えてくれる。
「え、どこですか?」
手でクリームの位置を探るがなかなか取れない。
すると、ルークが手を伸ばした。
「ここだよ」
私の頬を親指で撫でた。
「ん!」
「はい、取れたよ」
「あ、ありがとうございます……」
なんだか、今の状況が恥ずかしくて、私はルークから目を逸らす。
ルークは笑顔で、どういたしましてと答えた。
ルークと同い年ぐらいのはずなのに、私すごく子供みたいになってる……。




