奴隷少女は叫ぶ
ルークは私の横に並び、視線の先にギルガッドを捉える。
「ティアラ、いける?」
そのルークの言葉に、私は頷く。
「もう大丈夫です。私、もう怖いものなんてありません」
そう言って、私は笑みを返す。
今までの私なら、立ち向かうなんて選択肢はなかったかもしれない。
だけど、ルークに出会って、楽しい毎日を知って、魔法を教えてもらって、勇気をもらった。
だから、もう一人でも大丈夫。
けどやっぱり、ルークがいると安心する。
「なら、決着をつけよう!」
「はい!」
私もルークと同じように、ギルガッドを睨む。
「何、勝った気でいるんだ? お前らはこれから死ぬんだよ!」
ギルガッドは、怒りに震えながら、そう叫ぶ。
いつもなら、委縮するその叫び声も怖くない。
「じゃ、いくよ!」
言って、ルークは私を抱えて、足から炎を出し空へと飛ぶ。
「魔法使いなんて、魔法を封じればこっちのもんだ!」
ギルガッドの赤い眼光がこちらを睨む。
だが、魔法が封じられる前に、煙がギルガッドが操るベルガンドの体を覆った。
「な、なんだ。この煙は!」
「おい、敵はルークとティアラだけじゃないぜ!」
グラットが手で、スモークグレネードを弄びながら、言う。
ギルガッドが気づかないうちに、ルークが魔法でグラットとフィストを植物から解放したのだ。
「くそ! でも、それだけで勝った気になってるんじゃないよな?」
言いながら、ベルガンドは魔法を発動する。
周りの植物が一つの場所に集まり、巨大なゴーレムを作り出した。
「これで、お前らを一網打尽にしてやる! たくさんの人間を蓄え、魔王にもう少しで進化できる私が、負けるはずはない。舐めるんじゃないぞ」
「ギルガッド、あなたはここで終わってもらう」
「うるさいぞ。道具ごときがなにを言っても、私には勝てない」
「私は勝つ!」
そう言い放ち、私は枝葉の隙間から覗いている月を見上げた。
私の生まれた国には、月の女神様がいた。
悪から人を守り、魔を払う女神が……。
その力が私にはある。
力は、月が出ている夜と私の強い意志が発動条件。
――今、私はすべてを救うため、ギルガッドを倒して、旅を続けるために、私は戦う!
強い光が胸のあたりを中心に、広がってく。
月明かりよりも強く、輝く私の意思が夜空に輝いた。
「あなたは、自由な世界を作りたいと言った! けど、それは、私からしたら醜く、汚い自由だ! 私の望む自由は――」
「ティアラ」
抱えるルークが優しい笑顔で、私の名前を呟く。
私は頷き、ギルガッドを捉える。
「私が望むのは、みんなが楽しそうに、笑っている優しい自由だ!」
私は小さい頃、親に読んでもらった本を思い出す。
月の女神様が、悪魔を倒すときはいつも……。
「うるさい。ただの私の奴隷が道具がなにを言っても意味はない」
ギルガッドは、赤い瞳を光らせ、睨み返してくる。
月に手を伸ばし、三日月のような形の弓が私の手に生成された。
これが、この力の正体。
私の故郷に伝わる、月の女神様の力。
「行くよティアラ!」
「はい。いつでも、行けます!」
頷くとルークは、一直線にゴーレムの方に突っ込む。
私は光の弓を構え、ベルガンドを狙う。
「ティアラぁぁぁぁ! 私の力になれぇぇぇぇ!」
ゴーレムの拳を避け、ルークが魔法を放つ。
矢のように鋭い炎がゴーレムの胸付近を貫き、穴を作る。
そこから、私は本に出てくる女神様と同じように、詠唱する。
真っ直ぐと、標的を捉えて、矢を放つ。
「ムーンアロウ!」
一本の光の矢が、目に見えぬ速さでゴーレムに空いた穴を通り、その奥に立つギルガッドに突き刺さった。
「私は、奴隷でも道具でもない。私は私だ!」
「ぐあああああああ!」
断末魔を上げ、その場に倒れる。
私のこの力で効果があるのは、悪魔だけ、本体のベルガンドは無傷のはずだ。
すると、黒い靄が出てきて、それはだんだんと形を作り悪魔の姿が露わになる。
「ま、まだ私は負けてない……まだ、逃げれば!」
「逃がさない」
私はもう一度、詠唱し光の弓を放つ。
背中を見せ、逃げ出そうとする悪魔の体を光の矢は貫いた。
「うがああああああ!」
悪魔は叫び声と共にやがて、消滅した。
決めたんだ。
私はもう、村の神様として信仰されていた過去も、ルイスの奴隷として生きてきた過去も、私はもう振り返らない。
前を向き、私は今を見ると。
だって、それを教えてくれて、ついていきたいと思った人がいるから。
ルークを見上げて、私は微笑んだ。




