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奴隷少女は王の間に向かう

「な、なんで、私の家に魔物がいるの⁉」


 フィストは目を丸くした。


 しかも、足音が一つだけではないことに気づく。

 オークの後ろから、続々と魔物が現れる。


 ベアウルフ、ゴブリン、ホーンラビット。

 目の前の光景に私も呆然と立ち尽くした。


 村を襲った魔物の群れと似ている。

 やっぱり、そうだったんだ。魔物が統率をとれていたのは、ギルガッドが操っていたから。

 つまり、あの襲撃は私の予想通り、戦争を起こすための一歩だったんだ。


「おい、どうするんだ! フィスト! ティアラ!」


 グラットの必死の叫びに、気づく。


「フィスト、三人じゃこの数の魔物は相手にできないよ! 急いで、王の間まで行こう!」


「わ、わかった。王の間はこの上だから、こっち!」


 入り口のすぐ横にある、階段を駆け上がる。

 すると、魔物たちが一斉に動き始め、私たちを追ってきた。


 多分、ギルガッドに潜入したことが、バレたか。

 

 さっきのスモークグレネードで異変を感じ取ったのかもしれない。

 大きな大樹の枝葉の隙間から見下ろす月を見上げるが、まだその時じゃないと我慢する。


 あの力には、制限時間がある。今、使ってしまうと、ギルガッドの前で使えなくなってしまう。

 でも、このままじゃ追いつかれる。

 振り向くと、ベアウルフとホーンラビットが同じぐらいのスピードで駆け上がってくる。


「あッ……!」


 よそ見をしていたせいで階段に足を引っかけ、私は倒れる。


 ぴょんぴょんと跳ねて、二匹のホーンラビットが壁を蹴り、倒れる私の方に突進してきた。


 その瞬間、フィストが私の前に立つ。


「うぐ……」


 体についた傷の痛みに顔を歪めるが、フィストは剣を横に薙ぐ。

 二匹のホーンラビットが真っ二つに切られて、絶命する。


 安心する暇もなく、があ! と気づかぬ間に一匹のベアウルフが目と鼻の先にいる。

 フィストはもう一度剣を振ろうとするが、動きが少し止まった。

 私は、巻いた包帯に血が滲んでいるのを見つけて、傷が開いたんだと気づく。


 このままじゃ、ベアウルフの攻撃を受けてしまう。

 私は思わず目を閉じた。


 ――パン、パンと二発の銃声が響く。


 瞼を開くと、ベアウルフの頭と胸に穴ができて、その場で倒れた。

 グラットが、銃で撃ちぬいたのだ。


「まあ、ここまで登れたなら、いいか」


 そう呟きながら、魔法でなにかを作るグラット。


 スタングレネードにも似ているし、スモークグレネードにも似ているが、なにか違う。

 グラットは迷わず、慣れた手つきでカチリと留め具を抜く。


「これでも喰らってろ、魔物ども」


 振りかぶって、それを投げると数秒後、ドカンと地が揺れるほどの爆発が起こった。

 登ってきた階段が、崩れ魔物たちが落ちていく。

 数匹が残って、階段を上ってくるがグラットが銃で仕留める。


「よし、これで……」


 ――――パンッ!

 

 銃声が響き、グラットの頬から血が流れる。

 何かに気が付いたグラットが、必死に叫ぶ。


「みんな、伏せろ!」


 言われるがままに、私とフィストはその場に伏せる。


 その瞬間、たくさんの銃声が響き、周りの壁や窓ガラスを割ったり、穴をあけたりしていく。

 

 銃声が収まり私は、ゆっくりと階下を見る。


 え……ゴブリンが銃を構えてる。


 瞬間、また銃声が響く。


 飛んでくる弾の風切る音が耳元を掠めた。


「くっそ、銃を扱うゴブリンなんて聞いたことがないぜ。しかも、いっちょ前に威力の高い銃を使ってやがる」


 止まらぬ発砲音が鳴り続ける。


 銃を持つゴブリンも、ギルガッドに操られているからこそなんだろう。

 でも、このままじゃ、動くことができない。


 てか、この国はどこから銃を収集してるんだ?


 ま、まさか……カリオッドの街。


 それなら、説明がつく。ギルガッドは元々、カリオッドの街の領主ルイスに憑いていた。

 それに、戦争を誘発させようとしていたという噂もある。

 もし、その戦争が人間と獣人のものだとしたらありえない話じゃない。


「まずい、落ちきれてないオークが上ってきてる」


 フィストのその言葉に、私は崩れた階段の方を見た。

 巨体をゆっくりと揺らし、オークがこっちに向かってきている。

 グラットがオークに銃を撃つが、効いている様子はない。


「くっそ、効かねえな」


 もし、カリオッドの街から来ている銃なら、ゴブリンが撃っている銃の種類はマスケット銃。


 マスケット銃は一発の威力は高いが、装填するのに時間がかかる銃である。

 よく観察すると、撃つたびにゴブリンが後ろに下がり、前後の入れ替えをして、火薬を入れている。

 それが、四列になってこっちの動きを止めている。


 でも、マスケット銃なら私の魔法が刺さるはず。

 

 私はそう考え、魔法を撃つ準備をする。

 タイミングは、後ろと前で入れ替わる一瞬の隙。


 ――今だ!


「ウォーターボール!」


 階段から少し顔を出して、叫ぶ。

 魔法陣から、水の球が出る。


「グラット、私の魔法を撃って!」


「なにがなんだか、わからないがわかった」


 言って、グラットは水の球を打ち抜いた。


 すると、水の球は破裂して、雨のようにゴブリンたちを濡らしていく。


 それを、私は繰り返す。

 

 マスケット銃は、鉄の鎧すら貫通する威力を持つが、水に濡れただけで、撃つことができない銃だ。


 私は、それを奴隷の時、知ったのだ。

 当時は役に立たない情報だと思ったけど、今となっては、知っていてよかったと思う。


 濡れたマスケット銃をこちらに構えるがゴブリンは打つことができない。

 まだ、濡れていない銃で撃ってくるゴブリンはいるが、これぐらいなら進めるだろう。


 それを確認して、立ち上がる。


「今なら、いけます。上に急ぎましょう」


「うッ……」


 痛みに耐えるフィストが立ち上がる。


「大丈夫フィスト、肩かそうか?」


「うん。お願い」


 フィストの手を私の肩に回して、階段を一段、一段上がってく。

 背中にバックパックとフィストを背負い私は進む。


「大丈夫か?」


 グラットの声にフィストは笑みを浮かべて、答える。


「私はもう、動けないけど、国のために戦いたいから大丈夫」


「そうか、まあ、後は任せとけ、俺とティアラでなんとかしとくからよ」


「うん。それを信じているよ」


 前までのフィストなら、そんなこと言わなかっただろう。


 胸の奥が熱くなる。

 すべての思いを背負って、みんなと一緒に戦う

 私は、階段上の方を睨むように見つめる。


 私たちが負けるはずない。

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