奴隷少女と猫耳少女
私は、焚火の近くで膝小僧に顔を埋めてただ燃える火だけを見つめるフィストに声をかける。
「どうしたのフィスト?」
ぱちぱちと火花が散る焚火の音を聞きながら、私は返事が来るのを待つ。
数えて、十回程度だろうか、ばちばちと音が響きフィストが口を開いたのは。
「……すごいね。ティアラは勇気があって」
「それって、どういう」
「私って本当は弱い人間なんだろうなって思うよ」
「そんなことは、ないと思うけど……」
「それは、ティアラが本当の私を知らないだけだよ」
私はそこで、いつかの夜みたいに聞くことに徹すことにした。
フィストは、今まででは考えられない弱々しい声で話す。
「本当の私は、弱くて、誰かに縋ることでしか生きられない獣人なんだよ」
「うん」
初めて出会った時はもっと固い口調で話していたフィストは、今、年頃の女の子のような口調で言葉を紡ぐ。
「私は結局、誰かの助けがなかったら生きれないんだよ」
なんとなく、その言葉の意味がわかる。
私も一人じゃなにもできなかったから。奴隷だった時も、迷子の時も、さっきだって、なにもできないでいた。
「国を助けるために一人で戦うと決めたのにティアラたちに頼っちゃうし、さっき戦った時もティアラの助けがなかったら私は死んでた。私は一人じゃなにもできないんだよ」
「それは違うよ」
否定したかった。それだけは絶対に違うと。
「だって、さっきの戦いはフィストがいたから、私は戦えたんだよ。だから、決してフィストは弱くないよ」
「そんなことない! そんなことないよ……」
まるで、私を突き放すように、自分をそうなんだと言い聞かせるようにフィストは言った。
「なんども殺すって言葉にしたのも、そうして自分を鼓舞してないとなにもできそうになかったからだよ」
気づくとフィストは火すら見ていない。
初めて会った時、どうしてそんなに自分を謙遜するのかわからなかった。
けど、今ならわかる気がする。
フィストはずっと、誰かに愛されて生きてきたんだと思う。
だから、一人ぼっちになって、寂しくて不安で、どうしようもないのかもしれない。
今まで見てきたフィストを思い返す。
あんなに強い殺意を向けるほどの、大切なものを失って、それでも守りたいもの、取り返したいものが、国に残っているから焦っていたんだ。
「でも気づいたよ。私は一人だと逃げることしかできない獣人なんだって……」
「そんなことない」
私はすっとフィストの片手を両手で包み込むように、握る。
「逃げることだって、重要な選択だよ」
私は知っている。
自分には勝てないとわかっていながら、魔法を使って私を縛っていた元凶をぶん殴った姿を知っている。
そして、私の手を握り、一緒に逃げ出したあの夜を、今でも覚えている。
だから、逃げることも必要な選択だと私は思う。
「逃げたって、負けたわけじゃない。逃げたからって、自分の弱さが誰かに知られることだってない。フィストこれからだよ」
膝小僧に顔を埋めていたフィストが、ゆっくりと私の顔を見る。
「これから、勝つんだ。弱い同士力を合わせれば、さっきみたいにきっと勝てる。だから……」
私は、フィストの手を放し立ち上がる。
そして、また手をフィストの前に差し出す。
恐怖を隠すように私は、笑顔を作った。
「一緒に戦おうフィスト」
「うん……」
フィストは小さく頷き、ゆっくりと私の手を握った。
虚ろな瞳に確かな、火がつくように赤い瞳が輝く。
「私、戦う。国のために、家族の助けるために」
強く握られて、私も優しく握り返す。
すると、ふふっとフィストが微笑む。
「ティアラも震えてるよ」
「私もうまくいくか、わからなくて怖いから」
「そっか、一緒だね」
「うん」
うまくいくかなんて、わからないけど私たちは一人じゃない。
だから、きっと大丈夫。




