奴隷少女は決意する
気づけば太陽の位置が下がり、空が今日の終わりを告げている。
胸のざわめきが、私を襲っていた。
あれから、なにがあったのかグラットは話した。
足止めをしていた二人は、後から追いかけてきたベルガンドによって魔法を封じられ、逃げることしかできなくなった。
だが、ベルガンドはルークがこっちで捕虜になるなら、グラットが助かるという提案を出し、ルークはそれを承諾したのだ。
「なんで、ルーク……」
「俺もわかんねーよ。けど、ルークは迷ってなかった。だから、なにか考えがあると思うんだ。ティアラ、お前はわからないか?」
「わからないです……」
今、ルークがいない。だから、私はどうすればいいのかわからなかった。
どんな時も、一緒にいたルークがいなくて、私はまた路頭に迷う一人の少女に戻ってしまった。
「少し、一人になりたいから、外出ますね……」
「お、おう」
☾ ☾ ☾ ☾
洞穴の外に出て、私は川へと近づく。
川のせせらぎが、月に照らされきらきらと流れていた。
静かな夜が嫌いだ。
冷たくて、痛くて、辛い夜を思い出すから。
でも、最近はそれが塗り替わろうとしていた。毎日が鮮やかな色で塗りつぶされ、嫌いな夜だって、明日を考えると楽しく感じた。
けど、ルークがいなくなっただけで、私は……。
やっぱり、まだ弱いままなんだ。
強い意思があったはずなに、今は見えない。
私は誰かに引っ張られて動くことしかできない道具でしかないんだ。
川の水面に反射する私の今の表情は似ている。
虚ろな目で、ただ日常をなにも思わず感じない、あの時の私に……。
なんで、ルークは迷わなかったの?
なにか、自分で抜け出す方法があるの?
こんな時、ルークだったらどうするの?
「教えてよ……」
そんな、私の声も儚く風に消えていく。
――前を向け!
「誰……」
振り向くが誰もいない。
――膝をついている暇があるなら、前を向け!
また、声が聞こえた。
心に直接、叫ぶような声が響いてくる。
――下を向いている暇があるなら、前を向け!
「知ってる……」
この声を私は知っている。
ルークがみんなを鼓舞するために叫んだ言葉。
この後は……。
「――絶望している暇があるなら、前を向け」
――僕たちは。
「私はまだ、負けてない」
噛み締めるように発した言葉に、私は微笑む。
そうだ、ルークなら諦めない。
私の中にも、未だに沁みつくあの声が残っている。
だったら、諦めない。
私は、私の意思で戦う。
だって、私はまだルークと旅をしたい。一緒にいたい。
「こんなところで、足を止められてたまるか」
国も、ルークも、今まで出会ってきたすべてを助ける。
「やってやる……戦ってやる」
☾ ☾ ☾ ☾
私は、しばらく洞穴に戻らず思考した。
どうやったらベルガンドを、悪魔を倒すことができる?
どうすれば……。
「そういえば」
村を襲った魔物たちが、私の光を浴びて仲間割れを始めた時とルークが助けに来た時、私の光を浴びて倒れた兵はどこか条件が似ている気がする。
全部、私の光によってなんかしらの力が解除された。
スリグラ村を襲った魔物たちは操られていた。
だから、統率がとれた動きをしていた。
それなら、ベルガンドの動きすべてに説明がつく。
もし、あの魔物たちを操ってスリグラ村を襲うことが、戦争の一歩目だとしたら。
私たちは、一度戦争の火種を止めたことになる。
そして、失敗したが私の神の力に気づいて、ベルガンドがわざわざ私の存在を確認しにきていたなら、今、ベルガンドの目的は戦争じゃない。
――私だ。
しかも、そこからわかることはもう一つ。
私の力は悪魔に対抗することができる。
後は、発動条件は……。
ふと川に視線を向けると、綺麗な月が水面に反射していることに気づく。
木の枝の隙間から、月が私を見下ろしていた。
もしかして……。
「そうなの?」
確信したわけじゃない、でも、確かな手応えが胸の奥に残っていた。
私は手を強く握った。
もしかして、本当にやれるかもしれない。
「ティアラ、ちょっと遅いから様子見に来たぞ。大丈夫か?」
グラットが後ろから、声をかけてきた。
私は振り返って、真っ直ぐとした視線を向けて告げた。
「もう大丈夫です。それよりも、ギルガッドに勝てる方法を見つけられるかもしれません」




