奴隷少女と猫耳少女は戦う
フィストが一歩踏み出し、敵に向かって加速する。
そして、強く柄を握りしめ、横に剣を薙いだ。
――キンっとフィストの剣となにかが、ぶつかる音がした。
「――――⁉」
獣人は後ろに一回転し、川の向こう岸まで下がった。
ナイフを両手に握りしめ、笑っている。
あの二本のナイフでフィストの不意打ちの攻撃が防がれてしまった。
暗殺者だけあって、戦いなれている。
私だって、足にナイフを刺して動きを鈍くしたはずなのに。
「ふっふっふ、もしかして、今ので勝てる予定でした? 甘いですね。まだまだ、これからですよ」
ナイフを逆手もちに変え暗殺者の獣人は、追撃に向かうフィストに向かって飛ぶ。
「くッ!」
川の真ん中で、剣とナイフがぶつかる。
また、金属の音が響き、フィストが力で押し返す。
また敵は距離を取る。
すると、次はフィストの周りを、円を描くように走り始めた。
「次に、この攻撃を防げるかな?」
戦いを楽しんでいるかのような声色で、獣人は攻撃を始める。
暗殺者の獣人の残像がフィストを囲うように回っている。
そして、ナイフを中心にいるフィストに向かって投げた。
一つナイフを剣で弾く。
が、すぐに背後からもう一つのナイフを投げられ、次はギリギリで躱す。
だけど、フィストの頬に一つの切り傷がつけられた。
「どこから、飛んでくるかわからない……」
「ふっふっふ、あなたじゃ、私には勝てない」
さらに、数多くのナイフが投げらる。
どこから、投げられてくるかわからないナイフに対応するのに必死なフィストは、受けるだけで、反撃に出れない。
何とか、剣で弾くがすべてを防ぎきれていない。
気づけば、体中に切り傷ができている。
どうしよう、どうしよう。私は今、円の外で見てることしかできない。
このままだと、フィストがやられてしまう。
フィストが攻撃をなんとか防いでいる横で私は必死に思考する。
そうだ……。
できるか、できないかわからないけど、私も魔法で敵の動きを少しでも止めることができるなら、フィストが決着をつけてくれるかもしれない。
ルークが言っていた。水魔法は敵の動きを止めたり、する魔法だって。
だったら、できるか、できないかじゃなくてやるしかない。
そしたら、フィストが攻撃する隙を作れるかもしれない。
まずは想像しないと。
私は、手に魔力を溜める。
私はどんな魔法を想像するのが正解だ?
使えるのはウォーターボールだけ……。
魔法は想像次第で形を無限に変えることができるってルークが、言ってたけどウォーターボールももしかしら形を変形できるのかな?
考えろ……考えろ……。
――はっ。
わかった!
これなら、やれる。
「すう……はあ……」
深呼吸した後、私は魔法を発動するために想像する。
いつもの水の球体じゃなくて、触れたら簡単に弾ける膜をその中にいれるんだ。
奴隷の時、毎日のように見てきたあの、風で飛んでいく泡……。
胸のあたりから手にかけて、魔力が流れていき、魔法陣が光る。
私は、フィストの方に手を向ける。
そして、私は叫んだ。
「――ウォーターボール!」
いつもと変わらない水の球体。
だけど、それは触れたら……。
水の球体が早くも遅くもないスピードで暗殺者の獣人の残像に触れる。
そして、ぱっと水球体が弾けた。
細かい水しぶきが獣人を濡らした。
「な、なんだ⁉」
敵は私の魔法に驚く。
さらに、私はそれを何度も連射する。
この魔法は、水球体の中に泡よりも少し分厚い膜を張り、丸い膜の中に大量の空気が入っている。
そして、触れると大量の空気が水球体の内側から爆発し、水が弾けるという仕組みだ。
それを、数を打てば必ず、敵の邪魔になる。
「邪魔ですね。この水……」
敵は、私の魔法を躱しながら動くが、数が多くて躱し切れていない。
弾けた水滴が、敵の視界を奪った時、それは……。
獣人はついに足を止めて、目の周りについた水滴を拭いながら、舌打ちする。
「チッ……邪魔です。まずは、あっちの魔法使いの動きを止めるべきか……」
暗殺者の鋭い視線が私を捉えた。
だけど、私はその視線に怯えることなく、睨み返す。
「私たちの勝ちだ」
私はそう宣言した。
「なにを言っているのですか」
その疑問に、私はそれ以上答えなかった。
だって、足を止めてしまえば隙ができる。
一瞬の隙だけど、フィストなら十分だろう。
「なに⁉」
動きの止まった獣人に向かって、力強い一歩を踏むフィスト。
川に大きな波紋が広がり、獣人に向かって一直線に水しぶきを上げて、フィストが目に見えぬスピードで走る。
また、ナイフでその攻撃を受けようとする。
だが、フィストの攻撃は明らかに最初よりも重かった。
「ふ、防ぎきれない⁉」
その大きくて、早い一振りでナイフは、砕ける。
そして、フィストの渾身の横切りが、獣人の腹部を横一線に切り裂いた。
敵が血しぶきを上げながら倒れるのを確認して、私は思わず安堵して膝つく。
「はあはあ……勝てた」
フィストは剣についた血を一振りで飛ばし、鞘に納めた。
「ベルガンド様……」
そう呟きながら倒れた暗殺者の獣人に、フィストは見下ろすように言った。
「これが、お父様に教えられてきた剣の重さだ」
☾ ☾ ☾ ☾
決着がつき、私は座り込んだままゆっくりと呼吸する。
「はあ……はあ……」
魔法をいつも以上にたくさん使ったから、疲れた。
でも、これで、後はルークとグラットを待つだけだ。きっと、ルークなら笑顔で戻ってくる。
そんな、確信ができるほど私はルークを信頼していた。
その時、森の中から叫び声のような声が響いてきた。
「大変だ! 大変だ!」
振り返ると、そこにはぼろぼろの体でグラットが立っていた。
「た、大変だ! ルークが、ルークが!」
「落ち着て、ルークがどうしたの?」
嫌な予感がした。
ぼろぼろの姿で、必死になにかを伝えようとしているグラット。
聞き返すとグラットは言った。
「ルークが、あの野郎に攫われた」
「え?」
それを聞いて、私の視界は一気に暗闇に変色した。




