奴隷少女は作戦を立てる
必死に森を駆けていた。
青空は見えるのに、森が深いせいで日差しが入らず暗い中を必死に走っていた。
さっきまで、銃声と爆発音が響いてくる。まだ、ルークとグラットが粘っているのだ。
大丈夫かな……。
「ティアラ、あそこでルークたちを待ちましょう」
フィストが見つけたのは川の近くに、ある洞穴だった。
中を覗いてみると、そこまで深くないのか声はあまり反響しない。
でも、身を隠すのには丁度いい場所だ。
「わかった。そうしよう」
フィストが先に、洞穴の中に入ろうとして、姿勢が低くなる。
そんな瞬間のことだった。
森の中から、なにかが光ったのが見えた。
あれは……。
視界の横をなにかが、一瞬通っていく。
「いッ!」
「え?」
中に入っていく、フィストのふくらはぎの部分に刃物で切られたような傷ができていた。
気づくと足元には鋭利なナイフが落ちている。
「ティアラ! 早く、穴の中に入って!」
フィストに促されるように、急いで私は奥へと入る。
なにが、起きたのか全く分からなかった。
状況を見るに、誰かが私たちを狙って投げたナイフがフィストの脚を掠めったことだけだ。
とりあえず、手当てしないと。
こういう時に、ルークがいれば回復魔法ですぐに直せるのに。
私はそんなことを思いながら、ルークから渡されたバックパックの中から、奴隷の時に着ていた服をちぎる。
「今、なんとかするから待って」
痛そうに顔をしかめるフィストが頷く。
「急がないと、敵が来るかもしれない」
「わかった。急いでやる」
私は、ウォーターボールで布を濡らし、そのまま、フィストの傷の部分に縛る。
「これで完了」
私は、一息ついて次に洞穴の出口の方を見る。
誰もいない。攻めてはこなかった。
「多分、攻撃してきたやつは、ベルガンドに使える暗殺者だ……」
「暗殺者……」
私は、この状況をどう切り抜けるか思考を始める。
敵の狙いは確実に、私だ。
ギルガッドが私の中にある力を求めているから、そこは確実に間違いない。
狙いは私として、フィストはどうなる?
敵は洞穴の外にいるが、どの位置にいるのかわからないから、こっちも反撃に出られない。
フィストが外に出たとしても、さっきみたいにどこからともなく、ナイフを投げられてしまう。
「しばらく、ここで隠れて、あっちからくるのを待とう。ティアラを狙いに来てるなら、必ず洞穴の中に入ってくる」
「うーん……どうだろ」
私よりも先にフィストが提案する。
確かに、傷を包帯で巻いたし、待ちの方がこっちに利がある。
でも、ここでずっと待っていても、らちが明かない気がする。
相手が簡単に姿を現すなんて思わないし、簡単に洞穴の中に入ってくるとも思わない。
だったら、こっちが先手を打った方が良い気がする。
「フィスト、私に作戦があるから協力してくれない?」
☾ ☾ ☾ ☾
私は、洞穴から十歩ぐらい歩いたところまで出る。
やっぱり、攻撃してこない。
次に、私は叫んだ。声が隠れている暗殺の人に届くように。
「私はティアラ、あなた達の王が欲しがっている神の力を持ってます。私は、諦めてあなた達に従います」
静かな森の中に、私の声が響きわたる。
誰もいないなら、それでいい。
でも、いるなら……。
「おや、そうですか」
すると、全身黒服を着た、獣人が一人姿を見せる。
「あなたは往生際が悪い人に思えたのですが」
話しながら、一歩一歩近づいてくる。
「さっきの攻撃で、フィストが動けなくなったから、あなたに抗うすべがありません。だから従うと言ってます」
「うむ。確かにフィスト様が、いますね……」
「だから」
私が話そうとすると獣人は足を止めて、でもと先に続ける。
「さっきの傷は浅かったと思うのですが、もしかして……嘘をついてますか?」
頬を伝って汗が流れた。
大丈夫、どんな形でも作戦通りになるはずだ。
後、三歩こっちに近づいてきてくれれば。
「確かに、傷は浅かったけど、こっちにはもう戦う気力がないんです」
フィストが一歩踏み出し攻撃できる位置まで、私が誘導すれば。
怖がるな、震えちゃだめだ。私は戦うんだ。
私は、足を止める獣人を動かすために、一歩引く。
「フィストもここまで、休みなしで歩いてきたんですよ! だから」
「――知ってるでしょうが、我々は、別にフィスト様に興味はないのですよ。だから、フィスト様は死んでもらって良いのですよ」
目の前の獣人は素早く、さっき投げられたナイフと同じ物をどこからともなく取り出す。
まずい……。
「後、あなた。だから、だからってうるさいですよ。それは、嘘つきの証だ」
仕方ない。プラン変更。
「ウォーターボール!」
私の魔法発動と同時に、ナイフがフィストに向かって投げられる。
ウォーターボールは獣人の顔に直撃し、投げられたナイフはフィストが剣で弾く。
顔に水がかり前が一瞬見えない隙を突き、私は距離を詰めて、獣人の脚を狙い体の中に隠していたナイフで刺す。
ホーンラビットにナイフを刺す感覚と同じ感触を味わう。
少し、不安だったけど、刺してしまえば簡単だ。
よし、これで動きの制限ができた。後は任せたよフィスト。
「ティアラ、後は私に任せろ」
洞穴あら、敵を睨みつけるように捉えて、フィストが一歩を踏み出した。




