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奴隷少女は逃げたい

 蔓に強く縛られ、私の頭の中は、疑問ばかりが浮かんでいた。


 気づけば、その疑問は口から出ていた。


「どうして、私を狙うの? どうして、私はこんな思いしなくちゃならないの? 私は、夢を追いかけることすら許されないの? 私はずっと、奴隷なの?」


 自分に問うように、私はただ嘆いていた。

 私はただ、自由に旅をしたいだけなのに、許してくれないこの世界に、ただ絶望した。


「いいぞティアラ。お前のその絶望の叫びが、最高に似合っているよ」


 嘲笑うように、ガルギッドは言う。


 そんな時だった。

 

「おい……」


 縛られてもなお、諦めていないルークは悪魔のガルギッドを睨んだ。

 怒っている。

 

 普段絶対に見せないルークの表情。

 鋭く睨む視線に、口は笑みを見せない。


 そんな、怒りが滲むようにルークの顔は真剣だった。


「お前ら、悪魔の目的はなんだ? どうして、ティアラを狙う?」


「そうか、これから死ぬのにそんなことが気になるか。なら、話してやろう」


 ガルギッドは、不敵に笑う。


「奪うことも! 殺すことも! 罪を犯すことも! すべてが自由にできる世界を作ることだ! それが悪魔の目的だ!」


 がはははと悪魔のような笑い声をあげる。

 次に、ギルガットは私の名前を出した。


「そして、私がティアラを狙うのは、私の進化のためだ」


「進化……?」


「まだ、悪魔だが、ティアラの中に眠る神力を奪うことで、私は悪魔から魔王に進化する。それで、俺様は世界を征服するのだ! さらに、悪魔の上にたって、俺が一番の世界を作るんだよ!」


 私から突然出るあの光が、神の力……。


 どうして、私にそんなものが……。


 あ、そうだ……。


「気づいているだろうティアラ。あの光は私の求めていた神の力が目覚めたってことを」


 そんな話を聞いていると、私はとあることを思い出す。

 

 そうだった。私が生まれた村には、月の女神を信仰する風習があった。


 そして、私はその村の信仰対象である神だった。


 なぜなら、私が似ていたから、月の女神様に……。


「私は、ずっと気づいていたぞ。だからお前を奴隷として買って、毎晩のように拷問した。けど、力は覚醒しなかった。けど、そこの魔法使いが現れて、お前は力を解放させた。そこで気づいたんだよ。ティアラの自由への渇望が力を解放させたんだってな、だから、俺様は今、お前を求めて自分でここに来たんだ」


 ――――そうだ、なんで忘れていたのだろう。


 親が死んで、一人ぼっちになった私は、みんなから神のように扱われるのが嫌で、村から逃げたことを……。


 頭の中でフラッシュバックする過去に、私はさらに絶望する。


 私は、一人の人として生きたくて、自由になりたくて、ただそれだけを望んでいたのに、村の人も、目の前の悪魔も、私を人として見ていない。


「私ってなに? 本当は道具なの……?」


「そうだ。お前は私の道具だ」


 私って、最初から道具として生まれてきたの?


 村の信仰する道具として、悪魔が進化するための道具として……。


 ベルガンドの笑い声が、どんどんと遠くなっていく。


 ――ティアラ!


 もう嫌だ……。


 私は今まで、なにを目的に生きていたのかわからない。


 ――ティアラ!


 私が描いていた夢も全部、作り物だったの?


 自由に生きたいという意思も全部、最初から作られて……。


「ティアラ!」


「――――ッ!」


 私はルークの呼び声に気づく。


「ティアラ、君は道具なんかじゃない! 君にはしっかり、強い意志があるじゃないか! 世界を旅したいって意思が!」


 ……私に、強い意志?


 ルークはギルガットをまた睨みつけた。


「ティアラは、道具なんかじゃない! 一人の人間だ!」


 気づけば、私は真っ直ぐルークを見ていた。


 ルークが、私を見て微笑んだ。


「ティアラ、君は人だ! 決して道具なんかじゃない。自由に生きて、夢を追いかけてもいいんだ。だから、自分を道具なんて思わないで!」


 そんな、優しい言葉に私は思わず目頭が熱くなる。

 

 そうだ、私が世界を旅するって夢も、自由に生きたいって思う意思も、全部自分の意思だ。決して作られた物じゃない。


 涙を堪えて、私は口を開く。


「ルークの言葉で私、救われました。もう大丈夫です」


「そっか、なら逃げよう!」


 そして、ルークは叫ぶ。


「グラット、今だ!」


「おう。みんな目を閉じろよ!」


 縛られたグラットから、なにかがぽろっと落ちる。

 その瞬間、閃光が走り、視界が白い光に包まれた。

 眩しく閉じた目を次に開いた時、グラットが自分を縛る植物から抜け出し、ルークの方に走っていた。


 グラットの手には、どこから出したのかわからないナイフがあった。


「今、植物切るから待ってろ」


 ルークの手足を縛る蔓状の植物を切る。


「グラットありがとう」


「おう! 任せろって!」


「これで、自由に動ける。あれ、今なら……」


 自分の掌を見た後、ルークは私とフィストの方に向けて魔法を放つ。

 少し驚くが、弱めの炎が私とフィストの体を縛る植物を燃やし、簡単に解ける。


 フィストは素早く、着地して落とした剣を拾い上げて、またベルガンドを睨む。


「目が、目が、前が見えない!」


 目を擦りあたふたと馬の上で暴れるベルガンド。

 それを見て、ルークは叫ぶ。


「ここは、一旦逃げる! 走れ!」


 その言葉で私はすぐに走り出していた。だけど、フィストは戸惑いを見せる。

 まだ目を擦るギルガットを前に、剣を構える。


 フィストは迷っている。今が最大の隙である。

 剣で切りつければ、それは確実にギルガットにダメージを与えることができるかもしれない。


 だけど、それはフィストの死を意味する。

 周りには、銃を構える獣人族がたくさんいる。蜂の巣である。


「フィスト、逃げよう! 今の私たちじゃ勝てないよ!」


「そんなことない! 今がチャンスなんだ!」


「ダメだフィスト、そいつを殺せても中の悪魔がなにをするかわからない。だから、逃げよう」


 悪魔の存在だってある。

 ルークの説得で、フィストは悔しそうに剣を鞘に納める。


「次は必ず……」


 そう呟いて、フィストは四足歩行で私たちの後を追ってくる。


「簡単に逃がすと思うか!」


 背中の方で、思わず耳を塞ぎたくなるような叫びが聞こえてくる。

 一瞬、後ろを振り向くと、獣人が私たち追ってきているのが分かった。ギルガッドの命令によって、人形のように操られている獣人が馬に乗って走ってきている。


 やっぱり、周りの獣人もカリオッドの街の兵士達みたいに、操られてるんだ。


 まずい、このままじゃ追いつかれちゃう。


 その時、ルークとグラットが逃げ足を止めた。


「フィストとティアラは先に行って」


「俺たちが時間を稼ぐぜ」


 思わず、私も足を止めてしまう。


「ダメです! 一緒に」


「大丈夫、僕たちは必ず後を追いかけるから。だから、バックパック持って先に行って」


 やっぱり、ルークには敵わないよ。

 そんな顔で、そんなこと言われたら、私は信じることしかできない。


「わかりました。先に行って待ってます。だから必ず」


「うん」


 私はルークが落としたバックパックを背負い、全力で走って逃げた。


 ☾ ☾ ☾ ☾


 ティアラとフィストが、森の中へ姿を消した後すぐに、ガルギッドは一人の獣人を呼び出した。


「おい! ベルガンドの騎士!」


「……なんでしょうか、悪魔様」


 どこからともなく、ギルガットの前に黒いマントに身を包んだ獣人が現れた。

 

「お前は、あの道具と王女を追いかけろ! 王女は殺していい。だが、道具の方は生かして、俺様の前に連れて来い!」


「承知いたしました。必ず、ご命令通り任務を達成しましょう」


 そう言って、黒いマントの獣人はすぐに、姿を消した。

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