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奴隷少女は絶望する

 「どうしたんですか⁉」

 

 走ってルークに近づくと、血の匂いがすることに気づく。

 よく見ると、ルークは肩を抑え、顔を歪めている。


「撃たれた……肩を……」


「え……」


 そう言われて、ようやく気づく。

 ルークの肩から血が出ている。

 

「誰から撃たれたんですか⁉」


「わからない……けど、森の中から」


 どうやら、弾はルークの肩を貫通していた。

 ルークは急いで、回復魔法を肩にかける。


「やあ、久しぶりだねフィスト」


 森の影から、馬に跨った獣人族の軍勢が姿を現す。

 一人一人、武器を構えて私たちを狙っている。そんな獣人たちはみんな、銃を持っていた。

 

 そして、その先頭にいた獣人をフィストは睨み、怒りのこもった声で叫ぶ。


「な、なんで、お前がここにいる、ベルガンド!」


 こいつが、ベルガンド……。

 

 見下すようにこっちを見る赤い瞳、鼻下に髭を生やし、絞まったような体つきをしている。


 私は、そのたたずまいに既視感を覚えた。


 そして、ベルガンドは私に気づく。


「お前も久しぶりだな、ティアラ」


「な、なんで私の名前……」


「わからないのか?」


 ベルガンドの口半分の口角が歪む。


 心から見下すような顔を見せる人は一人しか、私は知らない。

 ぞわっと背中に冷たい風が吹いた。


「ルイス……」


「様だろティアラ。まあ、いいか今は別の体にいるしな」


 でも、ルイスとは全然容姿が違う。


 なら、なんで……あ、まさか……。


 私はルークが前に言っていた悪魔の存在に気づく。


「もしかして、ルイスの体に憑いていた悪魔……?」


「ようやく気付いたか。あ、そうか、お前は俺の本当の名前を知らないな?」

 

 ベルガンドの中にいる悪魔は、笑いながらはっきりと言う。


「俺様の名は! 七大悪魔の一人、ガルギッドだ!」


 ど、どうして……こんなところにいるの?

 

 払拭していたはずの過去が一気に蘇り、本能的に体が動かなくなってしまう。

 どうして、どうして……もう、私はコイツの奴隷じゃないのに、どうして私はまた……。


 たくさんの疑問が頭の中を埋めていく。

 

 奴隷の時に戻ったような、恐怖の感覚が私をまた縛っていく。


「お前、なにしに来た? ティアラはもう、お前の奴隷じゃないぞ」


 痛みに堪えながら、ルークは睨む。

 そんな、ルークの言葉に私は少しの安心を取り戻す。


「そうか、そうか……だったら、こうやって言うのが正解かな、俺様はティアラを返してもらうためにここに来たんだ」


「返す? お前はなにを言ってるんだ? ティアラは道具じゃないぞ!」


 ルークは立ち上がり、肩を押さえつけていた真っ赤な掌をベルガンド向けた。

 血で赤い掌に、魔法陣の白い光が輝く。


 そして、魔法は……。


「でない……」


「がはははは!」


 当惑するルークの前で笑い声をあげるベルガンド。


「前みたいに魔法を放って、勝てると思ったのか? 残念だな! がははは!」


「な、なんで!」


「マジックアイテム魔法封じの目、これで、お前の魔法を封じさせてもらったよ」


 ガルギッドは、目の形が入れられた丸い球体を見せつけた。


「これで、お前はなにもできないだろ魔法使い。後、ティアラお前もだ。あの時のように変に魔法を発動されても困るからな」


 本当だ……水の魔法が出ない。

 ガルギッドが手に持つ、ぎょろぎょろと動く目が私とルークを交互に見ていた。


「ベルガンド! 私を無視するな!」


 声を荒げてフィストは、ガルギッドに剣を振る。

 けど、その刃は敵に届くかなかった。


「あがっ……」


 手から、剣が落ちる。

 フィストの体を周りの植物が伸びて、体を縛っている。

 

「こっ、殺す。絶対の殺してやる」


「いいねその絶望に怒り狂った顔」


 ――――パン、パン!


 二回の銃声が響く。

 音の方に視線を向けると、グラットの銃口から硝煙が舞っていた。


「くっそ……」


「俺様が、バカの存在に気づかないとでも思ったか?」


 どうやら、グラットはガルギッドを銃で狙っていたようだ。が、知らぬ間に伸びていた植物が手首に絡まり、手元を狂わせて、外してしまった。

 そのまま、グラットとルークが植物に縛られ、動けなくなってしまう。


「これで、全員か……弱いな。まあいいか、ここに来た目的を達成しよう」

 

 私の方にもまた同じように植物が伸びてくる。

 無抵抗のまま、簡単に私はみんなと同じように、蔓に縛られた。

 

「はあ、はあ……」


 息が苦しかった。


 目の前の存在に、私は抗うすべがない。

 魔法を習ったのに、それすら使うことができない。

 私は、どれだけ弱くて小さい存在なんだろう。


「お前は、本当に可愛いよティアラ。俺様の言うことは昔からずっと聞いてくれるからな。だから、逃げ出したことも許してやろう。お前は、これから私の力になるのだから、それで最後だ」


 心がアイツに支配されていく。

 足が、腕が、心臓が、アイツの言葉だけで縛られる。


 いつまでも、私はあの牢で一人ぼっち月を見上げることしかできないルイス様の道具なのだ。

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