奴隷少女は猫耳少女と似ている
スリグラ村から出て、一日が経過した。
私たちは今、険しい森の中を歩いている。
太い木の幹が道を邪魔していたり、大きな岩を登ったりと、とにかく大変な道のりだ。
どうやら、スリグラ村からビスタリア大森国までは三日かかるらしい。
距離だけなら、二日で到着できるのだが、いかんせんたくさんの魔物が存在する危険な森と、険しいこの道のりのせいで、時間がかかってしまうのだ。
多分、今日の夜までには着くことができるだろう。
ここまで、私たちは陣形を組んで歩いた。
先頭にあらゆる不意打ちも対応ができる剣士のフィスト。
その後ろに、魔法でサポートができるルーク。
さらにその後ろに、水魔法しか使えない私。
そして、一番後ろにあらゆる角度からの攻撃を銃で対応できるグラット。
この順番で、私たちはビスタリア大森林の中を進んでいた。
「ストップ」
フィストが、突然足を止めて、指を差す。
その方向には、ゴブリンの群れがたむろしていた。
ざっと見た感じでも、十匹ぐらいだろうか。
「私が、突っ込むからサポート頼む」
それだけ言って、フィストは群れの中へと突っ込んでいく。
「おい、ちょっと待て!」
グラットの呼びかけにも、振り返らない。
「仕方ない、僕たちはサポートしよう。ティアラはグラットの横にいて」
「わかりました」
フィストの背中を見ながら、私は頷いた。
なんだか、昨日からフィストが焦っているように見える。
四足歩行で走り、腰に下ろした鞘から剣を抜き、風を切るように近くのゴブリン二匹の首を同時に飛ばす。
そこで、ゴブリンがフィストの存在に気づいた。
遅れて、飛び出したルークが数多くの石の礫を魔法で放ち、弓を構えるゴブリンに当てる。
的確に頭を狙い貫通していくその魔法に、私は驚く。
「やっぱ、ルークの魔法はすごい……」
小さい魔法のはずなのに、威力が高いし、その上それを数多く操っている。
私のウォーターボールももしかしたら、そういう工夫ができるのかもしれない。
それにしても、やっぱりフィストも強い。
知ってはいたけど、十体近くいたゴブリンが一瞬で全滅している。
「俺の出番はないな、まあ、温存できるしいいか」
周りのゴブリンが倒れているのを確認して、私とグラットは二人の方に近づいた。
剣を鞘に戻し、フィストは息を吐いた。
「ふう……では、先を急ぎましょう」
「あの……少し、休憩しませんか」
時間帯的には昼だ。
朝起きてから、ここまでノンストップで歩いてきて私は疲れたのだ。
「でも、先を……いや、そうしましょう」
どうやら、わかってくれたらしい。
私は、その場に座り込んだ。
「ティアラ、大丈夫?」
「はい、少し疲れただけなので」
「そっか、なら僕はあたりを警戒しておくから、みんな休憩しといて、呼べば戻るから」
「俺も、一緒に警戒するぜ」
そう言って、ルークとグラットは行ってしまった。そして、二人の背中が見えなくなって気づく。
フィストと二人きりだ……気まずい。
別に仲が悪いわけではないはず。
向こうが私をどう思ってるか知らないけど……もしかしたら、行く前にあんな質問したせいで、厄介に思われているのだろうか。
元奴隷だった私と現在王女のフィスト、身分が違いすぎてなにを話していいのか、わからないのも、気まずい理由の一つである。
「そ、そいえばグラットって酒場の美人なお姉さんに振られたから、可愛い獣人の女の子もとめて、こっちに来たんだって、面白いですよね。あははは……」
ちらりと、フィストの方を見るが一切笑っていない。
昨日の夜、落ち込んで話していたグラットが、笑い話にしてくれと言ってたから話してみたけど、効果なし。
どうしよう……私、仲良くしたいんだけどな、歳近そうだし。
「ねえ、ティアラ、あなたって夢ってある?」
「え?」
フィストからの突然の問いに固まってしまう。
「夢?」
「うん」
なんで、いきなりそんなこと聞いてきたんだろう。
少し、考えそうになるが思考を止めて、夢の質問に答える。
「えっと、今の私の夢はたくさんあるけど、まずは月に手が届くぐらい高い塔に登ることと、後は、世界をたくさん旅して、色んな景色見たりするとかかな」
「……良いね」
ほんのわずか、フィストの口角が上がったような気がした。
「じゃあ、私も聞いていい?」
「うん、いいよ」
「フィストも夢ある?」
私がそう聞くと、フィストは寂しそうな顔をしながら、言う。
「あるよ……私の夢はティアラと同じ」
「え、そうなの?」
「そうだよ。私も世界を旅したい。けど、ダメなんだ」
「ダメって、どうして?」
「……私かグレイスト兄様どっちかが王を引き継がなきゃいけないのに、片方が夢のためにそこから逃げ出せないでしょ。兄様も旅したいって言ってるのに、私だけ行けるわけないよ」
その理由を聞いて、どこか似ていると私は思ってしまった。
まるでそれは、小さな牢の中で毎日、夢を見続ける私と似ている気がする。
「ティアラはいいな」
その言葉は心の底から、フィストが私を羨ましいと感じていることがわかった。
「なら、私たちが国を助けたらフィストは自由になれるんじゃない?」
「それでもダメ。グレイスト兄様が王になるなら、私も一緒に残らないと」
そっか、フィストのお父さんは死んでいる。だから、今はベルガンドが王を引き継いでいるが、もし、私たちがベルガルドから国を助ければ、確実に王になるのはフィストの兄になる。
多分、フィストは同じ夢を追っている兄を気にしているんだ。
「大切なんだね。フィストは、家族が」
「うん……。だから、早くベルガンドから助けないと」
その言葉を聞いて、私はフィストが焦っていた理由がなんとなく想像がついた。
私も同じ立場なら、焦っていただろうと思う。
「大丈夫、必ず私たちが助けるよ」
「うん……」
私は、フィストの震える手にそっと触れようと手を近づける。
フィストも私と同じ、夢を追いかける一人の女の子なんだ。
そう考えると、なんだか、心と心の距離が近づくような気がいた。
フィストの手に、もう少しで触れられそうになった時だった。
――バンっと銃声が響いたのは。
フィストはすぐに立ち上がり、音の方向に走って行く。
私もすぐに、その後を追いかけた。




