奴隷少女は考える
私は、ルークを起こし酒屋に戻ってきた。
寝起きで、少しふわふわとした感じで、ルークはぼーっとしている。
促すようにルークを席に座らせ、私はその隣に座った。
「ティアラから、大体は聞いたよ。けど、細かいところがよくわからないから、そこを話してほしい」
フィストの前に座ると、ルークのふわふわとしていた表情は真面目になる。
「わかりました。少し長くなりますけど、いいですね」
「いいよ。食べながら聞くから」
ルークは私のを含めて、二人分のハンバーグを注文する。
注文が終わったのを確認して、フィストは話し始めた。
「ビスタリア大森国は今、王が変わり、国の方針が変わりました。前までは、どんな種族にも優しく、平和で、笑顔が溢れて、楽しい国を作ることが私の父が目指していたことでした」
表情が暗く曇りがかり、フィストは話を続ける。
「けど、方針に納得していなかった父の兄であるベルガンドが、父を殺し、今の王になりました」
「それでベルガンドってやつが、人族に戦争を仕掛けようとしているってこと?」
確かめるようにルークは、聞き返す。
フィストは視線を下に向けて、頷きながら答える。
「そうです。私と兄でベルガンドに挑み王の位置から下ろそうとしましたが、ベルガンドに手も足も出ずに、敗北しました……」
唇を強く噛み締めるフィスト。
「このままだと、スリグラ村から商業都市ウェルトを自分の支配下にしようと動きだすと思います。だから、私にどうかお力をかしてください」
また、フィストは悔しさを噛みしめて、冷静な態度で頭を下げた。
ルークは、私の方を見る。
「ティアラは、どうしたい?」
「私は……」
あの夜の力の正体が未だにわからない。魔法だということはわかったけど、発動条件がいつも突然でわかっていない。けど……戦争は止めなければいけないと思った。
私は頭の中に、スリグラ村の人たちや商業都市ウェルトで出会ったシャーデや色んな人たちの顔が浮かべる。
答えは一つだった。私はフィストを見る。
「私、力になるか、わからないけど、引き受けます」
「いいの、ティアラ?」
「私は、この村も商業都市ウェルトもそんな王に支配させたくない。だから、戦います。それに、ルークがいれば怖いものなんてないですし!」
「そうだね。僕もそれだけはさせたくないし、一緒に戦うよ。僕だって守りたい物があるからね」
商業都市ウェルトを支配されたら、次はルークの故郷がそうなってしまうかもしれない。
そんな理由から、ルークも同じ考えなのだろう。
「僕たちは決めたよ。それで、実際なにをすればいいのかな?」
ルークがそう聞くと、フィストは眉を寄せて、刺すような赤い瞳でこちらを見た。
「ベルガンドを殺してほしい」
「え……」
強い憎しみが込められた声に、私は唖然とした声が喉から自然と出た。
「今の国は、ベルガンドが支配しているせいで、笑顔がありません。だから……だから……」
「殺してほしいというわけだね」
涙を流し、怒りを訴えるフィストに、私は同情してしまう。
そこで、私は甘かったのかもしれないと思った。
ルークがルイスをぶっ飛ばした時のように、同じような方法を考えていたが、今回はそれじゃ多分ダメなんだと気づく。
私は、どうすれば……。
頭の中にたくさんのことが浮かび、ぐるぐるする。
「話しは聞かせてもらったぜ!」
カウンターでずっと酒を飲んでいたおじさんが、話に割って入ってきた。
「俺も、その話に乗る。女の涙を見たらやるしかないだろ! がははは!」
フィストの涙をおじさんは拭う。
「誰ですかあなた」
「俺の名は、銃使いのグラットだ。人数は多い方がいいだろ」
「確かに、僕たちだけじゃ不安だし、僕は良いと思うよ。その人、銃の腕前はすごかったから」
「なら、決まりな! これで獣人の女の子たちも俺にモテモテだ!」
「おじさん、心の声もれてるよ」
「俺はおじさんじゃねぇ。まだ、二十二だ! 後、グラットな」
そんな、ルークとグラットのやりとりの横で私は、頭の中で答えを探していた。
言われた通り、私は人を殺すことはできないだろう。だけど、そこは避けて通れない道なのかもしれない。
でも、私に殺すことはできないし、殺したところで本当にそれが正解なのかもわからない。
……そうだ。
答えが出た私は口を開いた。
「フィスト、ごめんなさい」
私がフィストの目を見て、謝罪を口にするとルークとグラットは静かになる。
「私、殺しはできない……」
「え、どうして?」
「私の力では、ベルガンドを殺す方法がないから」
フィストは、昨日の夜、私の力を見て、頼んできたんだろうけど、あの力で、人を殺すなんてできないと思った。
魔物を倒すことはできる。
だけど、人相手にはあの力は、意味をなさい。
だから、殺すのは不可能だ。
「だったら、私がとどめを刺します。だから、ベルガンドに隙を作ってください。確実に仕留めます」
「ね、フィスト少し考えて欲しいことがあるんだけど」
「なに?」
未だ残る殺意の瞳が、私の方に向き、フィストは疑問気に聞き返してきた。
「私、殺すことは否定しない。だけど、それは本当に合ってる選択?」
私の問いに、フィストは言葉を詰まらせた。
殺す、殺さないは私にとって、どっちでもいい話だ。
だけど――――
「フィスト、あなたはベルガンドを殺したとして、その後、笑える?」
「それは……」
悩むということは、フィストの中にも迷いがあるのだろう。
私は、ある時のお父さんの言葉を思い出していた。
それは、狩りの最中に、盗賊に襲われ、返り討ちにしたお父さんが言っていた。
――――人を殺すことは、たとえ悪いやつでも、気持ちよくはないと。
その言葉の意味は、人を殺したこともない私が知ることはできない。
だけど、初めて見たお父さんのあの暗い表情は小さい頃の私の脳裏に焼きついている。
だから、私は国を救った後に、フィストにそんな顔をしてほしくないのだ。
「私は、フィストに頼まれた通り、笑顔で楽しい平和な国に、戻すために頑張るよ! ね! ルーク!」
隣に座るルークに笑顔を向ける。
少し、困ったような表情をするけど、ルークはすぐにフィストを見て答える。
「僕たちが必ず、前と同じような国に戻してみせるよ」
「俺もやってやるぜ!」
グラットも酔いながら答える。
「わかりました……」
今日、殺す殺さないの選択の答えはフィストから出なかった。
が、それぞれが準備し、戦いに備えていた。
☾ ☾ ☾ ☾
そして、次の日の朝。
私たち四人は、スリグラ村の東門を出てビスタリア大森国へと出発した。
冷たい風が胸の奥をそっと撫でるような、嫌な予感がした。
けど、ルークがいれば怖くない。




