奴隷少女は平和な村に目を覚める
――あ、たには、ごがあり、す。
声が聞こえた。
目の前には、青い瞳の美しい女の人が羽を生やし、青い髪を揺らして、飛んでいた。
この人……なんだか、私に似ているような気がする。
――めが、の力のか、があり、す。
綺麗で透き通るような、声が途切れ途切れに頭の中に聞こえてくる。
私は絞り出すような、小さな声で聞き返す。
「あなたは、誰ですか?」
――わた、はティアラ、あ、たの、からです。
力……?
「てか、なんで私の名前……」
――そ、は、そのうちわか、ます。それでは。
「ま、待って!」
青髪の女の人は微笑みながら、そのまま飛んで行ってしまった。
手を伸ばしても、その手はなにも掴まなかった。
☾ ☾ ☾ ☾
「――――はっ!」
勢いよく目を覚ますと、私は天井に向かって手を伸ばしていた。
なんで私……天井に手を伸ばしてるんだろう……?
ゆっくりと体を起こし、窓の外を見る。
そっか、助かったんだ……生きてるんだ。
「よかった……」
なぜだか、目頭が熱くなってしまう。
我慢しようと頑張るが、やがて決壊して、ぽつぽつと涙が掛け布団を濡らした。
「なんで、泣いてるんだろう私」
私は掌に落ちた一粒の涙を見て気づく。
そっか、私は誰よりも怖くて、不安だったんだ。
せっかく牢から出たのに、あっけなく旅が終わってしまうかもしれない。
そんな不安を無意識に感じていたのかもしれない。
だから今、まだ旅を続けられる嬉しさと安心で涙が出ているんだ。
ひとしきり泣いた後、私は目元を拭い立ち上がろうとする。
「ん……?」
足のあたりに重みを感じて、視線を向ける。
「あれ、ルークがいる」
丸椅子に座り、ルークがベッドに俯せて寝ている。
そういえば昨日、ルークに抱えられながら魔力の使い過ぎで、気絶しちゃったんだ。
思い出すと、顔に熱くなってしまう。
ってことは、ルークがここまで連れてきてくれたってことかな。
私は、もう一度ルークの寝顔を見る。
乱れた髪がルークの顔を隠していたから、指でなぞって髪を避ける。
気持ちよさそうに寝ている顔に、私は微笑む。
ルークの頭をそっと撫でて、囁くように私は言う。
「ありがとうございます。ルーク」
私は、ルークを起こさないように静かにベッドから起き上がった。
いつもの旅服に着替え、私は外に出る準備をし、そっと音が出ないように扉を閉じた。
少し、外を歩こうと。
☾ ☾ ☾ ☾
外に出ると、澄んだ青い空に雲がぷかぷかと浮いている。
その雲が、昨日食べたハンバーグに見えて、お腹が減ってきてしまう。
「美味しそう……」
ぽたっとよだれが、土の上に垂れる。
ダメだ。
今は、硬貨がないからなにも食べられない。ルークが起きるまで待つか……。
「はあ……でも、お腹すいたな」
まあ、村でも歩いてルークが起きたら、昨日の酒屋でまたハンバーグ食べよっと。
私は、まずスリグラ村の中心の方に向かって歩みを進めた。
すると、人とすれ違うたびに、私に向かって感謝の言葉が飛んでくる。
「青髪の姉ちゃん! 昨日はありがと!」
「ど、どういたしまして」
「姉ちゃん、昨日は大活躍だったな!」
「そ、そんなことないですよぉ……」
「昨日の魔法すごかったぞ!」
「は、はい……」
村を歩くと必ず、声をかけられ感謝されたり、褒められる。
こういうのには、慣れてなくて少し照れてしまう。
ど、どうしよう。村の視線がみんな私を見てる……。
悪い気はしないけど、恥ずかしい。
だって、実際頑張っていたのはルークで、私はほとんどなにもしてない。
ルークがいなかったら、私は諦めていただろうし、その感謝の言葉はルークに伝えて欲しい。
そんなことを考えながら、村の中心の方に進んでいくと、優しく叩かれる。
「あの……」
振り向くとボロボロも襤褸を着て、昨日剣でオークの首を何個も切り落とした人が立っていた。
襤褸で顔が隠れていて、異様な圧を感じる。
「な、なんですか?」
「話があるので、酒屋に来てくれませんか?」
「わ、わかりました……」
私はその圧に押されて、断ることができずに、ついて行くことにした。
まあ……村を守るために一緒に戦った人だから悪い人じゃなさそうだし、大丈夫だろう。




