奴隷少女は村を守るために戦う 3
「うそだろ。まだ魔物が森から……」
「いくら何でも、多すぎるだろ……」
「流石に、もう……」
上で集中砲火を続けていたが、未だに森から姿を現す魔物の姿に絶望していた。
圧倒的な魔物の数の上に、銃弾も弓も後わずかしかない。
下で戦う人たちも、疲弊している。
魔法を撃ち続けるルークですら、普段見せない疲れを見せていた。
「はあはあ……」
そして、私も未だに飛んでくる火矢の対処に限界がきていた。
魔法を捻り出すのがやっとだった。
「あんだけ、攻撃したのに、まだ……」
木壁上から、見張りをする人は膝をつき、枯れたような声でこぼす。
「まだ、終わってない……森からまだ魔物が出てくる……」
涙目に言い放つその言葉は、私たちに絶望を与えた。
森の方向に皆が視線を向けると、確かに魔物が続々と姿を現す。
ホーンラビット、ゴブリン、ベアウルフ、オークが合わせて百体以上はいる。
「もう無理だ……」
「終わりだよ」
「ここで死ぬのか、俺たち……」
とっくに疲れ果て、魔物たちと戦う体力を残している人はいない。
私も、目の前の容赦のない現実に膝をついていた。
せっかく自由になれたのに……ここで終わるの……。
そんな時だった。
「――――まだ、諦めるな!」
声が、響いた。
見上げると、赤い光が一つ燃えていた。
とんがり帽子を風で揺らし、未だ諦めず、魔物を睨んでいた。
「まだ、終わってない! まだ、僕は戦える!」
空にまだ、諦めないとメラメラと燃える炎が輝いていた。疲れているはずなのに、そんなのを感じさせないような叫びが耳に届く。
ルーク……!
「膝をついている暇があるなら、前を向け! 下を向いている暇があるなら前を向け! 絶望している暇があるなら、前を向け!」
そんな、誰よりも強く、誰よりも私に力を与えてくれる声に、私は少しづつ背中を押されて、立ち上がる。
「僕たちはまだ、負けてない!」
そう叫びながら、ルークは魔法を放つ。
丸い炎が魔物にぶつかり、轟音を響かせて爆発した。
私は、ルークがどういう人なのか、知っている。
普段は焚火の炎のように温かく優しいけど、時にメラメラと熱い炎のように諦めの悪い人なんだ。
そんな人を目の前に、私は簡単に諦めちゃダメだ。
何度、あの姿に救われるのだろう。
私は、ゆっくり立ち上がり、真っ直ぐとルークを見た。
大きな深呼吸をした後、私は月にも届くような声で叫んだ。
「まだ、私は立てます!」
――私は、まだ戦える。
その時だった。私の体を光が包んだのは。
「な、なんだ、なんだ」
「この光は……」
「眩しすぎて、目が開けられない」
周りの人が、あまりの眩しさに目を細めた。
これって、あの牢の時と同じ光だ。
あの時は、これがなんなのかわからなかったけど、魔法を学んだ今ならわかる。
使い切った魔力が溢れてくるこの感じ、私はまだ戦うことができる。
私は、魔物たちの方に視線を向けた。
あれ、おかしい。
さっきまで、統率を組んでいた村を襲ってきていた魔物たちが仲間割れしている。
オークが棒を振って暴れ、ベアウルフが容赦なく同種族以外の魔物を鋭い爪で切りつけて、ゴブリン同士は統率を組み周りを攻撃し、ホーンラビットが逃げ回る。
「魔物たちが仲間割れ……?」
「もしかして、可能性があるのか?」
「まだ、生きれる……?」
その光景を唖然とみんなは見ていた。
いや、あれが本来の魔物同士の関係なんだ。
やがて、魔物たちの争いの方向がこちらにも向いてきて、地上組が応戦を始める。
それを上から見ていた人たちは、また弓と銃を構えた。
「まだ、生き残れる可能性がある。やってやるぞ!」
――おおおお!
それぞれが戦意を取り戻した。
だったら、私も!
今なら、水魔法で攻撃できるかもしれない。
そう思えるくらいに、力がみなぎっていた。
手に魔力を集中させて、魔法陣を作る。
頭の中では水の球体を想像した。
魔力が掌に溜まっていき、熱くなっていった。
――今だ!
「ウォーターボール!」
掌を魔物の群れに向けて、魔法を放つ。
あれ……違う。
なぜか、ウォーターボールではなく、月のように丸く光る球体が魔法陣から作り出され、魔物たちに飛んで行った。
飛んでいくスピードは普段使うウォーターボールと変わりない。
やがて、それが魔物の群れにぶつかり、閃光が煌めいた。
あまりの光の強さに目を細めた。
一度、目を擦り見開くと、光に包まれたはずの魔物の群れの一部が消えていた。
周りにいた魔物も、光に当てられた体の一部が消えている。けど、草や木は消滅せずに、そのままだ。
ただ、魔物が消滅していた。
「ティアラ! 今の魔法どういうこと?」
空を飛んでいたルークが気づくと傍にいる。
「わ、わかりません。でも、わかったことがあります」
私は掌を見た後、強く握る。
「私も、戦えます。今なら、今の魔法を無限に放つことができる気がします!」
「よし、それなら一緒に行こう!」
「はい!」
私は、ルークにしがみつくように掴まった。
すると、足から炎を吹き出しルークは飛び出す。
「ティアラ、本当にやれる?」
「やってやりますよ」
私は笑みを浮かべながら、また手に魔力を溜めて、さっきと同じ要領で魔法陣を作る。
次は水の球体ではなく、満月の想像しながら。
お父さんは言っていた。
弓を撃つときに必要なのは集中力と、狙った獲物をどれだけ真っ直ぐに捉えるか。
私は、魔法陣を浮かべる掌を森から姿を現すオークに向ける。
指の隙間から、オークを真っ直ぐに捉えて、叫ぶ。
「ウォーターボール!」
また、半球体状に光が煌めき、オークの周りにいた魔物はすべて消滅する。
ウォーターボールじゃないけど、詠唱しないと発動しないと思ったから仕方ない。
その後、私は同じ魔法を空から何度も放ち続けた。
森から出てくる魔物が、私の手によって簡単に跡形もなく消滅していく。
自分の力の正体が、わからないが、そんなの今考えても仕方ない。
私は、今村を守るために全力で戦うだけだ。
☾ ☾ ☾ ☾
気づけば、森の中から姿を現す魔物の姿はなくなり、残った魔物は森の中へと姿を消していく。
そうして、ようやく村から声が上がった。
「よっしゃー!」
「村を守ったぞ!」
「生きた。生き残ったぁ!」
そんな声が聞こえてきて、私は胸を撫でおろすような気持で、肩を上下する。
「はあはあ……よかった……」
「ティアラ大丈夫?」
「はい……少し、疲れただけで……す」
だんだんと弱まる光と共に、ゆっくりと瞼を閉じる。
村の歓喜の声が遠のいて、私は意識を手放した。




