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夢見る少女は世界を旅する  作者: フォッツ
一章 奴隷少女
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13/19

奴隷少女はお肉を食べる

「いらっしゃい!」


 スリグラ村の中心地、日が暮れても人が集まる飲み屋に私とルークは、宿に荷物を置いた後、足を運んだ。


 店内では、仕事終わりの人たちがお酒を飲んで、騒がしい。

 私たちは、なるべく静かなカウンター席の真ん中あたりに、腰を下ろした。

 席を一つ挟んだ隅に、襤褸で顔を隠す人が座り、ルークの横の隅では、お酒を飲むおじさんが座っていた。


「なにを食べますか?」


 カウンターの奥で、数人の女の人がせかせかと働いている。その中の一人の優しそうに笑顔を作るお姉さんが声をかけてきた。


「えっと、なにがありますか?」


「そうですね。ここでは、店主のダリルお母さんの作る物なら、なんでも美味しいですよ」


「そうじゃなくて……なにが食べられるのかなって」


「あ、すみません。勘違いしてしまいました。そうですね……ハンバーグとかどうでしょうか」


「ハンバーグ……では、それを頼みます。ティアラはどうする?」


「あ、私もそれでお願いします」


「ハンバーグ二つですね。了解です。少々お待ちください」


 注文をするとお姉さんは、奥の方に入っていく。


「いいよなぁ……あの姉ちゃん……少し天然を混ぜているのが良い。この店で一番の顔だと思わないか? そこの魔法使いさん」


 突然、ルークの横に座るおじさんが話しかけてきた。

 帽子を深く被り、黒いマントをひらひらと揺らしていた。


 ルークは困ったように返事を返す。


「そ、そうですね……」


「だろ! 俺もこの村に来て七日目なんだけどよ。姉ちゃんの可愛さで三日しかいるつもりがなかったのに、この村に七日もいるんだぜ!」


「そうなんですね」


 気のない返事を返すルークに、おじさんは席を一つ横にずれて、近づいた。腰に下ろした黒い銃が揺れていた。


「俺は、姉ちゃんに一目惚れしちまった。あれは、将来良いお嫁さんになるぜ。だから、お前なんかに渡さないぞ!」


「いや、僕は興味ないですよ」


「そっか、それはよかった! がはははは! お前とは仲良くなれそうだな! 名前はなんていうんだ?」


「ルークです」


 一方的に肩を組んでくるおじさんは、がはははと上機嫌に笑う。

 すると、私の横でご飯を食べていた襤褸を被った人が立ち上がり、硬貨を置いて店を出ていく。


 それをじーっと見つめる酔っ払いのおじさん。


「今日、初めて見たけどあの子も良い体してるな……」


「え、あれ女の人なんですか?」


 ついおじさんの言ったことが気になり、口をついて聞いてしまう。


「そうだぜ、気づかなかったのか? いい尻してるのに」


「は、はい……」

 

「そっか、そっか、でもあの子じゃこの店の看板娘には勝てないな」


「あ、そうですか……」


「てか、お前たちも、今日ここに来たのか?」


「はい。さっきここに着きまして」


 ルークがそう答えると、おじさんが背中を叩く。


「そっか、そっか! なら、七日間ここにいる俺に村のこと質問あるなら聞いてくれ!」


 たった七日間だけなのに、謎に態度が大きいなこの人。

 すると、ルークが真剣な表情をする。


「一つ聞いてもいいですか?」


「なんでも質問するがいい」


 ルークが両手を机の上で組み、真剣な眼差しで聞く。


「なら、一つ。この森ってゴブリンの群れとか、ベアウルフとか危ない魔物がいるはずですよね?」


「そのはずだが、それがどうした?」


「僕たち、七日間この森を歩いたんですけど、ホーンラビットと単体のゴブリンしか会わなかったんです。その理由かなにか知らないですか?」


 さっきも言っていたが、ルークは森になにか異変を感じているのだろう。


「確かに、ホーンラビットとゴブリンしか俺も見てないな……特に、なにも知らないけどな」


「そうですか……」


「他に質問はあるか?」


「は、はい……」


 次に私が手を上げる。

 今の話しを聞いて、一つ気になったのだ。


「お、なんだ?」


「危ない森と言われてる場所で、どうしてこの村は大丈夫なのかなって、気になります」


 この森には、ルークが言うなら群れで統率の取れたゴブリンと二本足で歩く凶暴な魔物ベアウルフがいるはずだ。

 それなのに、この村はみんな笑顔で楽しそうに生活している。


「それ――」


「それは、獣人族がこの村を守ってくれてたからだね」


 おじさんが話そうとする前にカウンターから両手にお皿を持ったおばさんが声をかけてきた。

 白いエプロンをつけ、年齢を感じるが、それ以上に声が大きく元気なおばさん。

 そうなんですねと私は返事を返しながら、丁寧に前に置かれたお皿を見る。


「わあ~!」


 お皿の上で、丸く形どられたお肉から、白い湯気が立ち上り、それが鼻を包んだ。

 食べる前に匂いだけでお腹の中を満たしてしまいそうだ。

 私の口からは、自然とよだれが垂れる。

 もう、私はハンバーグの虜になっていた。


「絶対、うまいですよ、これ!」


 ルークからもごくりと唾を呑む音が聞こえた。


「どうぞ、特性ハンバーグ。ゆっくり食べてね」


 もしかして、この人がさっき言ってたダリルお母さんかな。


 目の前に置かれたナイフとフォークを両手に握る。

 ナイフで、ハンバーグを四分の一に切り、一つをフォークで刺す。

 少し大きめの一口を、私は精一杯に口を広げて、食べた。

 目がパッと開き、私はすぐに口からわーっと口から白い息を吐く。


「おいひい!」


 お肉の汁がぶわっと溢れて、噛めば噛むほど口の中にお肉の味が広がる。


 なにこれ……。


 すぐに、もう一口を口に運ぶ。


「うますぎる! 手が止まらないです」


「そうかい、そうかい。そう美味しそうに食べられるとこっちも嬉しいね」


 ダリルお母さんがニコニコと子を見守るような表情で、私の食べっぷりを見ている。

 ルークも隣で、うまいうまいと呟きながら、バクバクと食べていた。


 お皿の上のハンバーグを食べ終わった頃、私は思い出したようにダリルお母さんに気まずく思いながら、声をかけてみる。


 ハンバーグに夢中で忘れてた。


「あの……さっきの話……もう一度詳しく聞いていいですか?」


「全然いいよ」

 

 にこっと笑みを浮かべて、ダリルお母さんが話し始める。


「この村、というかこの森自体が、獣人族の国、ビスタリア大森国の領土なのよ。だから、私たちは日々、魔物から獣人達に守ってもらっているのよ」


「へえ……そうなんですね」


「えー! そうなのか!」


 隣で興味深そうに聞いていたルークが口を開く。

 さらに、隣で大袈裟な声を上げておじさんが驚いていた。


 このおじさんは、なにに、驚いたんだろう?


「そうよ。だから、魔物たちは警戒して、この村を襲いにこないのよ」


「へえー、だから……」


 ルークはそれを聞いて、難しそうな顔で顎に手を置いた。


「でも、最近はその獣人の人たち、見ないのよね。いるなら、ここでいつも美味しくご飯を食べていくはずなんだけど……」


「ちなみに、おばさん。女の獣人も来るのか?」


 おじさんが、ニヤニヤにと笑みを浮かべながら聞いた。


「来るわよ。腰に剣を下げてるから、あの子たちも戦うのね」


「やっぱ、そうか! 獣人の女もこの目で見てみたいな……」


 このおじさん、変なことしか考えてないな。さっきの驚きの声も、獣人の女に会えるかもしれないという驚きの声だったのか。

 

 顔の筋肉がなくなったかのような緩み具合でニヤけるおじさんに、私は白い目を向けた。


「そんな目で見て、どうした可愛いお嬢ちゃん」


「いや、なんでもないです」


「ふーん。もしかして、俺に惚れちゃったかな?」


 ルークがそれに気づき、割って入る。


「やめてください。この子は……」


「なんだルーク、もしかしてその女、好きなのか?」


 おじさんはルークに、睨むように見てから、ニヤッと笑う。

 ルークは少し、頬を掻きながら顔を赤く染める。


 すると、ルークが答える前におじさんが声を上げる。


「わかる!」


「へ?」


「俺もその子の青い髪と青い目可愛いと思うぜ! だから――」


 ボンッ――とおじさんがそんなことを言い切る前に、頭にげんこつが落ちる。

 突然のことに、私とルークは目を丸くする。


「いった!」


「あんた、女の子に迷惑かけるんじゃないよ!」


「いたた……おばさん、もっと優しくしてよぉ~」


「この七日間、ずっと優しくしてきたよ。これからは、厳しくするからね」


「そんなぁ~」


 情けない声を上げて、おじさんは自分の頭を手で擦った。

 

 その後、ご飯を食べて私たちは宿へと戻った。

 ルークはなにか、難しい顔でずっと考え事をしていた。

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