奴隷少女は安心する
大きな木壁が囲う、この村は名はスリグラ村。
頑丈そうな太い木で作られた木壁が村を囲っている。
村の出入り口である門の下で、監視の人に持ち物とか確認された後に、中に入って行く。
魔物がきても、この大きな木壁があれば、安心安全だ。
今日はぐっすり眠れるだろう。
「お腹すきましたね」
「そうだね。でも、とりあえず、集めた魔石を売りに行こう。その後に、ご飯だ」
「はい!」
雑貨屋と書かれた看板が置いてある建物を見つけて、ドアを開く。
からんと鈴の音が鳴り、いらっしゃいませと元気な声が奥から聞こえてくる。
髪を後ろで一つ結びにしている女の人が顔を出した。
お店の中は、服や、ナイフ、日常品や旅に使えそうな道具がばらばらに置いてあり、なんだか、今まで見たことがないくらい部屋の中は、物で溢れている。
商業都市ウェルトの物数は越えられないけど。
物と物の隙間を通り、女の人に近づきルークが声をかけた。
「あの、魔石を売りに来たんですけど」
「あ、わかりました! 見せてもらってもよろしいですか?」
ルークは、ぎゅうぎゅうに詰めたバックパックの中から、魔石が入った小袋を取り出した。
不思議だ。
見た目はそこまで大きくないのに、ルークが背負っているバックパックにはたくさんの荷物が入っている。
旅に出る時に、師匠からもらった魔法のバックパックらしい。
たくさん物が入るし、重くもならない。
けど、中に入れられる量には制限があるらしいけど、まったくそれを感じない。
無限に物が入ってしまうんじゃないかと思ってしまう。
ちなみに、バックパックには魔石以外にも、狩った魔物の皮や角の素材が入っている。そういう素材は、ちゃんと必要としているところに売るとルークは言っていた。
「ホーンラビットとゴブリンから取れた魔石です」
「おーたくさんありますね。とりあえず状態を見てから硬貨の計算に入るので少しお待ちください」
「わかりました」
店員の女の人が魔石を持って、奥に入っていくのを見た後、私は力を失ったようにルークに寄りかかった。
「ど、どうした?」
「なんか……疲れちゃったみたいです」
「そ、そっか、ゆっくりしな」
上ずったようなルークの声に、安心して目を閉じてみる。
匂いが、温かさが、声が、すべてがベッドのように心地よい。
「私、思いました」
「なにを?」
「私たち、友達みたいな関係じゃないと思います」
「それって、どういう意味?」
聞き返してくるルークから、ドクドクと心臓の音が響いてくる。
「だから、ルークが冒険始める時に言っていた、助け合う関係なら私たち、友達じゃなくて、仲間みたいな関係だと思うんですよ」
「あ、そういうことね……少し勘違いしちゃった」
「何を勘違いするんですか?」
私は、首を傾げてルークに聞き返す。
「あ、いや、別に気にするようなことじゃないよ……」
「そうなんですか?」
見上げると、ルークは困ったような表情で頬を掻く。
私は、今の言葉の意味が全くわからないから、さらに問い詰めようとするとルークが話を戻す。
「そ、それに僕は、ティアラのこと仲間だって思ってるよ」
「え?」
話を逸らすためにルークが言った言葉に、また、首を傾げる。
「ど、どうしたのティアラ?」
「だって、ルークさっき友達だろって言ってたじゃないですか」
確かに、ルークはこう言っていた。
――――それでも、師匠呼びは流石に、僕とティアラの関係に合わないよ。だから、呼び捨てがいい。僕たち、友達だろ……。
私はその言葉で、ずっとモヤモヤしていたから、今の話しをしているのに、ルークは今とさっきで言ってることがまるで違う。
「そ、それは、その……ちょっと勘違いしていたというか……なんというか……」
「ふーん……」
ルークはなにを勘違いしていたのだろうか……?
「お待たせしました! 硬貨の計算終わりました!」
「あ、ありがとうございます」
ルークは、私の視線から逃れるように硬貨の受け取りに向かった。
☾ ☾ ☾ ☾
雑貨店を出ると、空はすでに色を変えて、暗くなり始めている。
村の子供たちがまたねと手を振って自分の家の中に入って行ったり、大人たちはそれぞれの仕事を終えて家に帰っていく姿が目に入る。
今日の終わりが近づく光景に、私はなんだか安心する。
ここ最近、危険と隣り合わせの環境にいたからだろうか。
「よし、これだけあれば、とりあえずご飯も食べられるし、部屋も取れるな」
七日間で集めた魔石を売った結果、貰った硬貨の金額は銀が二十枚と銅が十枚だった。
「たくさん稼げましたか?」
「ティアラも一緒に手伝ってくれたからたくさんだよ」
「やった!」
私が頑張ってホーンラビットを倒して、得た硬貨だから、そう言われるのは純粋に嬉しかった。
「でも、これからもっとティアラが魔法を上達すれば稼ぎも、もっと増えるから、頑張ろう」
「はい、頑張ります!」
私は、掌に魔力を持っていくために集中する。
頭の中では、丸い水を想像した。
魔法陣が浮かび、水が出てきて想像通りの水の形を作りだしていた。
けど、魔法陣は消えて水は形を失い地面に落ちた。
「ダメでした……」
「ティアラはまだ、無詠唱をする段階じゃないから仕方がないよ。まずは、さっき言った水魔法を覚えるところからだよ」
私の魔法は今、水を出し、丸く変化させることしかできない。
だから、次はルークに言われた水滴のように細かい水を飛ばす攻撃魔法を覚える段階にいる。
ルークはゆっくり上達していこうと言っているが、一緒に旅をするなら、早めに魔法を上達して、ルークの役に立ちたい。
「焦る必要はないよ。徐々に上達すればいい」
「そうですね。魔法は一つ一つが重要なんですもんね」
「そう。ティアラなら、一つ一つ積み重ねればすぐだよ」
「頑張ります。ルークと助けになるように」
ルークは苦笑いをしながら言う。
「僕はティアラと旅をするために、魔法を上達したから甘えてくれていいんだよ?」
「それもそうですけど……」
私は多分、ルークがいなくなったら、なにもできない人間だ。
それを、ウェルトで迷子になった時に存分に味わった。
ルークみたいに綺麗な魔法を覚えたいという理由も本心だ。
けど――
「私、一人になっても抵抗できるような強さが欲しいんです」
もう、奴隷だった時みたいに弱い自分に戻りたくない。
自然と手に力が入り、固い拳ができる。
その時、ぽんっとルークが私の頭に手を置いた。
「そっか、わかったよ。覚悟は伝わった。けど、僕も簡単にティアラを一人にさせないよ」
そう言う、ルークからも覚悟のようなものが伝わってくる。
ルークの言葉が、優しく心に響いてくる。
「それは、安心ですね」
力が抜けて、私は屈託なく自然な笑顔を浮かべた。
ぐう~……。
安心したせいか、お腹の虫が大声を上げた。
「お、お腹すきましたね……」
私は、顔に熱を感じながら、上ずった声で言う。
「そうだね。これから、いっぱい食べよう!」
「は、はい……」




