第17話:『心の声は、誤魔化せない』
【放課後・図書室】
家族会議と「堂々交際宣言」から数日。
二人は図書室の隅で、並んでテスト勉強をしていた。
周囲には付き合いたてのカップルらしい、初々しくも穏やかな空気が流れている。
(……つばさくんの横顔、やっぱりかっこいいな。鼻筋とか、意外と綺麗だし)
「っ……!?」
突然、隣に座るつばさがペンを落とした。
真っ赤な顔をして、震える手で耳を塞いでいる。
「ど、どうしたの? つばさくん」
「……いや、なんでもねえ。空耳か……?」
つばさは深呼吸をして、再びノートに向き合った。
(……でも、あんなに近くで自分のことを褒められるなんて、照れるわ。ひなたも可愛い顔して、結構大胆なこと考えるんだな)
今度は、ひなたがガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。
「……え? い、いま……つばさくん、喋った?」
「え? いや、一言も」
二人は確信した。
入れ替わりは解けたはずなのに、ふとした瞬間に相手の「心の声」が、自分の脳内に直接響いてくるようになっていることに。
【帰り道・夕暮れの土手】
「……これ、ヤバくない?」
ひなたが頬を赤らめながら、少し距離を置いて歩く。
「ああ。隠し事が一切できねーってことだろ。……プライバシーゼロかよ」
口では文句を言いながらも、二人の頭の中には、相手への愛おしい感情が濁流のように流れ込んでくる。
(手、繋ぎたいな……)
(……繋げよ、バカ。俺だって繋ぎたいわ)
声に出していないはずの会話が、脳内で成立してしまう。
つばさが観念したように、ひなたの手をギュッと握りしめた。
「……聞こえてんだよ、ひなた」
「……つばさくんの心の声も、筒抜けだよ。私のこと、可愛いって思ってるでしょ」
つばさは「うるせー!」と叫びたい気持ちを抑え、逆にひなたを自分の方へ強く引き寄せた。
「……ああ、思ってるよ。お前が隣にいるだけで、心臓が爆発しそうなくらいにな。……これもお前に伝わってんだろ?」
ひなたは、つばさの胸に顔を埋めた。
心拍の音、温もり、そして脳内に直接響く、つばさの真っ直ぐな愛情。
隠したくても隠せない「本音」が、二人の心の距離を、もはや物理的な距離以上にゼロにしていく。
「……もう、逃げられないね」
「逃げる気なんて、最初からねーよ」
後遺症がもたらしたのは、どんな言葉よりも確実な、二人の「魂のシンクロ」だった。




