第16話:『宣戦布告の登校路』
【リビング・深夜】
正座するつばさとひなたの前で、両家の親たちが顔を見合わせ、ふっと吹き出した。
「……やっぱりね。あんたたち、最近やけに距離が近かったもの」
ひなたの母が呆れたように笑う。つばさの父も腕を組んで頷いた。
「つばさが珍しく必死な顔で『幸せにする』なんて言うから、よっぽどのことかと思ったぞ」
「……じゃあ、認めてくれるの?」
ひなたがおそるおそる尋ねると、親たちは真剣な表情に戻り、人差し指を立てた。
「ただし! 条件があるわ。一つ屋根の下とはいえ、節度は守ること。部屋のドアは開けておく! 夜中の連れ込みは厳禁! いいわね?」
「「……はい」」
二人は顔を見合わせ、真っ赤になりながら返事をした。
嵐のような夜が明け、ついに「自分自身の体」で迎える朝がやってくる。
【翌朝・通学路】
玄関を出る瞬間、つばさは隣を歩くひなたの「本当の手」を、迷わずギュッと握りしめた。
「……つばさくん? 外だよ?」
「いいんだよ。昨日、あんなに噂になってたんだ。今さら隠しても意味ねーだろ」
つばさの大きな手が、ひなたの指先を包み込む。入れ替わっていた時に感じていた自分の手の感触とは違う。温かくて、少しゴツゴツしていて、守られている安心感。
「……うん。そうだね」
ひなたも、その手を強く握り返した。
【学校・教室前】
廊下に出ると、昨日にも増して野次馬たちが集まっていた。
「おい、今日も一緒だぞ!」
「昨日の『優しいところ』発言、あれマジだったのか?」
教室のドアの前で、二人は一度足を止める。
「……準備はいいか、ひなた」
「……うん。つばさくん」
つばさが勢いよくドアを開けた。
繋いだままの手を、クラス全員に見せつけるように高く上げる。
「お前ら、昨日から騒ぎすぎだ!」
つばさが教室中に響く声で宣言した。
「噂じゃねえよ。俺たち、マジで付き合ってるから。文句あんのか?」
静まり返る教室。
次の瞬間、地鳴りのような歓声と冷やかしが爆発した。
「うおおお! ついに認めた!」
「つばさ、男前じゃん!」
「ひなた、顔真っ赤すぎ!」
席に着くまでの間、二人の手は一度も離れなかった。
入れ替わりという奇跡がくれた、最高のプレゼント。
それは、嘘偽りのない「好き」という気持ちを、自分の体で伝える勇気だった。




