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【8巻4/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第10巻 打ち出の小槌

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286話 姫松の再演

 視界が白く染まり、やがて周囲の景色が浮かび上がってきた。

 周囲には竹藪が広がり、山道が緩やかに続いている。


「戸上山の麓か」


 周囲を見渡せば、姫松に化けた香苗と、おとんに化けた伊代が立っている。

 以前と比べると、亀太郎と藤内が居ない。

 そして場所も、竹藪ではなく細道だった。


「ここは、大名行列が歩いていた場所だよ。今回は、あたしが出すから、ここに居るの」


 姫松の姿をした香苗は、まるで姫松が乗り移っているかのように、人懐っこい笑顔で話した。


「妖狸達は、前に隠れていた場所に居るよ」

「それを総泉寺の老狸どもに、見せつけるわけだな」

「そうそう、説明無しで連れて来たし、絵馬の中では霊体じゃなくて、身体も戻っている。おとんの幻術に掛けられたと、思うかもね」


 一樹と香苗は、おとんに化けた伊代を見た。

 おとんは、滝にやって来た長兵衛に対して、長い幻術を掛けた。

 従兄妹と子供に化け、叔父の家を訪問して、正体を暴こうとした長兵衛に熱湯を掛けさせた。

 だが赤子は人の子のままで、叔父が長兵衛を殺そうとしたところに僧を通らせる。

 僧が諭して、長兵衛に出家を決意させ、剃髪したところで幻術を解いたのだ。


 この場に居合わせる伊代は、おとんのようにクスクスと、小さく笑って見せた。

 その様子を見ながら、香苗が力説する。


「あのとき、おとんも居たでしょう。しかも斬られて、すぐに狐火で焼かれて、復活したばかり。同じ場所で身体が戻っていたら、これまで幻術を掛けられていたと思わない?」

「絵馬に引き込まれたと知らなければ、幻術だと思うかもしれないな。」


 人は理解不能な事態に陥ったとき、自分の持っている知識で状況を把握しようとする。

 老狸が幻術だったと思い込む可能性は、皆無ではないだろう。


「あの時に戻ったと思い込んだほうが、きっと騙し易いよね」

「それは確かに」

「それじゃあ準備が出来たら出発するから、2人は行列の最後に付いてきて」

「あい分かった。姫松に任せるとしよう」


 一樹が応じると、香苗は手元に、黄の狐火を浮かび上がらせた。

 それが一つ、また一つと増えていき、やがて蛍火のように、山道を漂い始めた。

 風が吹くたびに、狐火が揺らめいて、幻想的な光を放つ。


「香苗、感覚を覚えておいて。あたしは小さい頃から、何でも出来た。見た術は、模倣も改良も、思いのままだった。だから、あたしを継承した香苗も、出来るよ」


 香苗が化けた姫松の口から、香苗に対する言葉が紡がれる。

 同時に黄色だった狐火が、五行の五色に輝き始めた。

 木行の青、火行の赤、金行の白、水行の黒、土行の黄。

 それらが円で結ばれて、循環を始める。


「五行相生図を作っているのか」

「これは基礎。あたしが使うのは、土行」


 五つの光は形を変え、土行を中心として、残りが東西南北に分かれた。

 それは戦国時代の土王説で、土行を核として、中心に脾・胃を配当するものだ。

 また北西の水行と金行、南東の火行と木行が結ばれて、狐火に陰陽を持たせた。

 身体と陰陽を持った狐火が、人の形を成し、細部が作り込まれていく。


「狐火をそのまま変化させるんじゃなくて、紙や人形のような形代にしてから、化けさせるのか」

「そうそう。土行を核にして、そこから繋げるの。練達すれば、地脈の力も使えるよ」


 狐火から生まれた人型に、顔が浮かび上がった。

 身体には、着物が浮かび上がって皺が刻まれ、草鞋の紐が結ばれる。

 腰には刀を差して、手には長い槍を持って、背筋は真っ直ぐに伸びる。黒い陣笠を被り、紺地の羽織を纏い、精緻な槍持ちが生み出された。

 ほぼ同時に、槍を持った8人の男達が現れる。


「あなた達は、槍組ね」


 並んだ男達は、顔立ちから年齢まで、全員が異なっていた。

 若く精悍な男は、堂々と背筋を伸ばして槍を立てている。

 壮年の柔和そうな男は、微笑みながら槍を担いでいた。

 槍持ち達は、それぞれが自然な姿勢で立っており、微かに体重を片足に掛けていたり、槍を肩に担ぐ角度が違っていたりする。

 生きている人間が持つ、細やかな個性まで再現されていた。


「打ち出の小槌も使おうか。あたしは術でも出来るけど、こっちのほうが楽だし」


 香苗が手を振ると、打ち出の小槌が現れた。

 その持ち手を握った香苗が、虚空で小槌を振る。


『変化』


 小槌が淡く輝くと、槍持ち達の装備が変化した。

 槍が伸び縮みし、木肌が滑らかになり、小さな傷が刻まれる。

 刀のほうも、鞘の蒔絵の模様が異なり、柄糸の巻き方にも差が生じた。

 陣笠の形も、縁の反り具合や笠の深さが、一人一人異なっている。


「そこまでやるのか」


 一樹は、感心に呆れを混ぜた声を上げた。

 細かい傷や、刀の柄糸など、一体誰が見るだろう。

 すると姫松の顔をした香苗が、一樹を質した。


「料理、舞台、大工、陰陽師。どんな仕事でも、拘りが無い人の技って、底が浅いよね?」

「おう、悪かったな。続けてくれ」


 拘るにしても、

 一樹が降参すると、香苗が術を再開した。


「次は、小槌を呪力に溶け込ませたまま、手を振るだけでやってみようね」


 小槌を消した香苗の右手が、サッと振られる。

 すると新たな炎が浮かび上がり、弓を持った4人の男達に化けた。

 弓組も、やはり全員が別人だった。

 背負った箙の大きさや年季、擦れた跡、さらに矢の本数や矢羽根の色までも異なっている。


 立て続けに手が振られて、今度は火縄銃を抱えた5人の男達が、続々と姿を現す。

 男達の容姿や年齢はバラバラで、火縄銃の装飾や細かな傷、手入れの具合も異なっていた。


「次は、犬だよ。細かい姿ではなく、知っている犬を思い浮かべながら、それを狐火に籠めるの。その犬は、どんな動きをするかな」


 そう言いながら手が振られると、今度は3人の犬追者が現れた。

 その足元には、7頭の犬が、尾を振りながら主人の傍に寄り添っている。

 犬達の毛色、毛並み、大きさは、それぞれ異なっている。

 時折鼻を鳴らしたり、耳を動かしたりして、完全に犬の動きをしていた。


「まるで本物の犬だな」

「うん。籠めた呪力が尽きるか、核を消すまで勝手に動くよ。慣れてきたら、こんな感じ」


 今度の香苗は、手を振らなかった。

 香苗の視線の先に、一瞬だけ狐火が生まれる。

 そこから仕掛け網を担いだ網持ち4人が、一瞬で現れた。


 網持ち達が所持する網は、それぞれ異なっている。

 新しく編まれた網は、縄が白く、編み目が整っていた。

 古い網は、縄が灰色に変色し、所々に綻びがあった。

 担ぎ方も、慣れた者と、やや重そうにしている者と、違いがあった。


「まるで召喚術だな」

「まだまだ。もっと早くやってみようか」


 今後は、狐火すら見えなかった。

 網持ちの後ろに、いきなり5人の荷運びが現れた。

 大きな荷物を背負った男は、やや前傾姿勢をしている。

 小さな荷物を背負った男は、背筋を伸ばして立っていた。

 荷物を縛る縄の結び方も、一人一人違っている。


「今は、どうやったんだ」

「あはは、どうやったんだろうね。ねえ、後ろを見てみて」


 一樹が道の後ろを振り返ると、そこには3頭の馬が並んでいた。

 毛並みの色は、栗毛、黒毛、芦毛とすべて異なっている。

 馬の背に積まれた荷物も、それぞれ異なっていた。


「ねえ、ほら、今度は前を見て」


 振り返った一樹の前に、馬に跨がった侍が現れていた。

 立派な陣笠を被り、腰に刀を差している。

 その刀は、見事な拵えで、鞘の蒔絵が美しく輝いていた。

 そして香苗が化けた姫松の姿は、どこにも居ない。

 一樹が周囲を見渡すと、馬上の殿が、姫松の声で話し掛けてきた。


「こっちだよ。もう馬に乗っているよ」

「はあっ。姫松自身が、殿に化けたのか?」


 殿を見上げた一樹が、呆気に取られた声を漏らした。


「姫松。お前、ここまで変化が上手かったのか」

「二尾のあなたが驚くなら、総泉寺の老狸も化かせそうだね」

「そうかもしれん。しかし驚いた」


 狐狸の戦いで姫松が落命していなければ、どうなっていただろうか。

 いずれ三尾となり、豊川りんの後継者になっていたかもしれない。

 彼女の才能を惜しんだ一樹は、だから香苗に魂を継承させて、後に繋いだのかと納得した。


「それじゃあ、行きましょうか。2人は、荷物持ちに化けてね」


 自分の呪力で生み出した狐火ではないからか、香苗は打ち出の小槌を出した。

 それを振りながら念じると、一樹と伊代の格好が、荷物持ちへと変わる。


「ごほん、皆の者、出立せよ」


 口調を改めた馬上の香苗は、かつて大名行列で聞いた殿の声で、号令を発した。

 すると整然とした30人の隊列が、山道を進み始めた。

 槍組が続く。槍を肩に担ぎ、足並みを揃えて歩いていく。

 弓組、鉄砲組、犬追者と犬達、網持ち、荷運び。

 全員が自然に振る舞ってで、大名行列を成した。


「どうせなら、路傍で平伏する農夫も出したいのう」


 馬上の香苗が、殿らしい口調で宣った。


「ここは狩人くらいしか通らない山道だけどな」

「それが問題じゃ。街道であれば、出すのじゃが」


 行列が進むと、やがて道の両脇に、竹林が広がり始めた。

 竹の葉が風に揺れて、さらさらと涼やかな音を立てている。

 口を結んだまま、気を引き締めた視界の先で、竹林が動いた。


「お待ちください!」


 竹林から現れた老狸が、大名行列を呼び止めた。

 すると槍組が立ちはだかり、一斉に矛先を向けた。

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― 新着の感想 ―
姫松は超天才だったんだなぁ。その魂を継承した香苗のこれからが楽しみ。 さてさて狸はどう反応するかな。
狸は本物にまでケチつけてた時点で、どんだけ上手に化けても絶対に認めない気がする
行きつけの本屋、今日売ってたので買ってきました 狐と狸さぁ……動画配信サイトに投稿して勝負しろよ
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