第42話 形の中身[ドラン]
ドランが理人という男を最初に見たとき,妙な客が来たと思った。
鍛冶場へ来る人間は,大抵二種類に分かれる。
欲しいものがはっきりしている者と,そうでない者だ。
前者なら話は早い。包丁が欲しい,鍬を直したい,荷車の金具が壊れた。用途と予算を聞けば,あとは職人の仕事になる。
面倒なのは後者だった。
軽くて,丈夫で,切れ味がよくて,安い剣が欲しい。
何に使うのかと聞けば,何にでも使えるものがいいと言う。
そんなものがあるなら,自分が先に作っている。
理人が持ってきた紙も,最初は似たようなものに見えた。
「肉挽き器です」
そう言って差し出された図には,筒らしいものがあり,横から棒が伸び,先には穴の開いた板のようなものが描かれていた。
ドランは何度か向きを変えて眺めたが,どう見ても使える道具にはならない。
「これは何じゃ」
「肉挽き器です」
「どこが?」
本人も自信がなかったらしく,少し困った顔をした。
話を聞けば,もっとひどかった。
中には螺旋のような部品があるらしい。
どこで支えるのかは分からない。
刃があるらしい。
どう動くのかは分からない。
穴の開いた板から細かな肉が出てくるらしい。
どうやって切れるのかは,やはり分からない。
普通なら,そこで腹が立つ。
知らないなら作れるわけがない,と追い返して終わりだった。
だが,理人は違った。
「分かりません」
聞くたびに,そう認めた。
使ったことはあるが,中までは知らない。
それらしい形は覚えているが,仕組みは説明できない。
変に取り繕わなかった。
ドランは,そこだけ少し気に入った。
知らないものを知っているふりをする客は,職人にとって面倒だ。こちらが無理だと言えば,自分の記憶の方が正しいと言い張る。作って動かなければ,今度はこちらの腕を疑う。
理人は最初から,自分の知識が足りないことを分かっていた。
だからドランも,話を続ける気になった。
「お前が欲しいのは,これそのものなのか?」
そう聞くと,理人は少し考えた。
「肉を細かくしたいんです。できれば,同じくらいの大きさに」
なら,話は別だった。
見たこともない道具を再現する必要はない。
肉を細かくする。それだけなら,今ある技術でも方法はいくらでも考えられる。
何枚かの刃を枠へ固定し,梃子で押し下ろす。肉の向きを変えながら何度か切れば,包丁一本で刻み続けるより早い。
理人は,その説明を聞きながら明らかに嬉しそうな顔をした。
「それなら,できそうですね」
妙な男だった。
欲しがっていたものとは違う道具を提案されたのに,不満そうな顔をしない。
自分が知っている形を再現することより,やりたいことができる方を選んだ。
道具を見るなら,そちらの方が正しい。
形には理由がある。
昔から同じ形だから使っているような道具にも,長く残っただけの理由がある。力を受ける場所は厚くし,手で持つところは扱いやすくする。切る場所には刃が要り,曲がってはいけない場所には支えがいる。
見た目だけ真似しても,道具にはならない。
そのことを,理人は一度言えば理解した。
もっとも,その後で材料代を聞いて固まったところは,普通の若者だった。
◇
次に持ち込んできた妙なものは,道具ですらなかった。
狸だった。
正確には,狸の姿をした魔獣で,名前はぽんた。
以前から話だけは聞こえていたが,鍛冶場へ連れてこられたとき,入口から中を覗き込みながら,
「やっぱ怖い」
などと言っていた。
聞こえていると返したら,本気で一歩下がった。
口ばかり達者で,分かりやすい狸だった。
その日,理人が頼んできたのは,道具を作ることではなかった。
「こいつに,道具を見せてもらえないかと思って」
最初は何を言っているのか分からなかった。
聞けば,ぽんたは《物質変化》で鍋や箱,刃物のようなものへ変われるという。そのうえ,最近は一度変わった道具の一部分だけを変えられるようになってきたらしい。
理人は,その理由を「道具がどう使われるか分かってきたからではないか」と考えていた。
面白いと思った。
魔法の細かい理屈など,ドランには分からない。
だが,道具なら分かる。
ぽんたが肉を細かくする器具へ変わってみせたとき,まず目についたのは,全部を同じような厚さで作ろうとしていることだった。
「何でも均一にすれば丈夫になるわけじゃない」
縁は支える。
中央は肉を通す。
役割が違うなら,厚みも違っていい。
そう教えると,ぽんたはその場で形を変えた。
最初は薄くしすぎた。
少し戻させる。
今度は全身を一度狸へ戻すのではなく,必要な場所だけを変えた。
器用なものだと思った。
だが,それ以上に気になったのは,ぽんた自身が考え始めていることだった。
古い鋏を見せたとき,ぽんたは少し眺めてから,
「俺,これ無理かも」
と言った。
「なぜだ」
「二つ動かすの,よく分かんねえ」
その答えを聞いて,ドランは内心で頷いた。
話に聞いていた,以前のぽんたなら,形が分かるというだけで変わろうとしたかもしれない。
だが,今は止まれる。
分からないものを,分からないまま真似しない。
「それでいい。分からん道具になるな」
横で理人が少し笑っていた。
あのとき,ドランは思った。
似た者同士なのかもしれない。
理人も最初に,分からない肉挽き器を持ってきた。
だが,分からないと認めたところから前へ進んだ。
ぽんたも同じだった。
形だけを真似するところから,中身を考えるところへ移り始めている。
理人が教えたのか,ぽんたが勝手に覚えたのかは知らない。
おそらく,両方なのだろう。
◇
そのぽんたから,ハンバーグを食べに来いと言われた。
最初に聞いたときは,何の料理か分からなかった。
「肉を細かくして丸めて焼く」
そう説明されても,なお分からない。
肉を細かくするところまではいい。
硬い肉なら食べやすくなる。
だが,なぜ細かくしたものをまた一つへまとめるのか。
鍛冶屋で鉄を砕き,また塊へ戻すと言われたら,まず理由を聞く。
だから,理由を聞いた。
煮込み鹿亭へ着いたとき,理人はすでに肉をまとめ終えようとしていた。
ぽんたは,今日の自分は前より役に立ったと得意げに言った。
理人も否定しなかった。
聞けば,肉を全部同じ細かさにしたわけではないらしい。
粗い部分を多く残し,一部だけを細かくする。
そこへ脂やほかの材料を混ぜてまとめる。
話だけ聞けば,余計に不思議だった。
「なら煮込めばいいだろ」
そう言うと,理人は,
「それでもおいしいです」
と答えた。
「じゃあ何でこっちにする」
「焼いた方もおいしいからです」
結局,理由はそこだった。
ドランには,少し可笑しかった。
もっともらしい理屈をいくら積み上げても,最後は食いたいから作る。
道具も似たようなものかもしれない。
必要だから作る。
使いたいから工夫する。
理由など,案外そのくらいで十分なのだ。
鉄板へ置かれた肉から,脂の弾ける音がした。
焼けた肉の香りに,涙玉の甘い匂いと黒香子の刺激が混じり,鍛冶場の昼飯で食う単純な焼き肉とは明らかに違う香りが食堂へ広がった。
見ていると,肉は崩れないまま少し膨らんでいく。
「焼いただけで,ずいぶん膨らむんだな」
「中の水分や脂もあると思います」
「崩れねえのか」
「今のところは」
ドランは腕を組みながら眺めていた。
道具を試すときと同じだった。
どこへ力がかかるのか。
何をしたら壊れるのか。
どの部分が働いているのか。
料理を見る目として正しいかどうかは知らないが,ほかの見方を知らなかった。
焼き上がっても,すぐには食わないらしい。
少し待つという。
面倒な料理だと思った。
だが,皿の上の肉から立つ匂いは,待つ時間を長く感じさせる程度にはうまそうだった。
◇
ナイフを入れたとき,まず気になったのは中身だった。
表面にはしっかり焼き色があるのに,刃を入れると中は思ったより柔らかい。押したところから崩れることもなく,切り口には細かな肉の中へ少し大きな粒が混ざっている。
そこでようやく,ぽんたが変えていた穴の大きさを思い出した。
粗い肉と,細かい肉。
わざと分けていたのだ。
一口食べる。
最初に広がったのは焼けた脂の濃さで,すぐに涙玉の甘さが重なった。そのあとから黒香子の香りが鼻へ抜ける。
肉を細かくした料理なら,もっと均一な食感になると思っていた。
実際は違った。
舌で押せば柔らかいのに,噛めばところどころで歯へ肉が当たる。粗い粒を噛み切るたびに,角猪らしい強い肉の味が出てきて,その周囲を細かな肉と脂が埋める。
それだけなら,粗い肉をそのまま焼けばいいとも思える。
だが,噛み進めると違いが分かった。
粗い部分だけなら,口の中でばらばらになる。
硬い部分だけなら,いつまでも噛むことになる。
細かな肉だけなら,今度はこの歯応えがなくなる。
それぞれ単独では足りないものが,一つへ組まれることで補われている。
ドランはもう一口食べた。
今度は意識して,断面を見る。
粗い肉が全部を支えているわけではない。
細かな肉だけで形を保っているわけでもない。
脂だけがうまさを作っているわけでもない。
違う役目のものが,同じ塊の中にいる。
どこかで見た話だと思った。
鍛冶場でぽんたへ教えたばかりだった。
支える場所と,肉を通す場所。
役割が違えば,厚みも違っていい。
全部を同じにする必要はない。
目の前の料理も,同じだった。
全部を同じ細かさにしないから,食感が残る。
一部を細かくするから,まとまる。
脂を混ぜるから,硬い肉が食いやすくなる。
肉挽き器を作れと曖昧な図を持ってきた男が,ずいぶん遠回りをして,同じところへ戻ってきたような気がした。
形ではない。
役目だ。
「……なるほどな」
思わず口に出た。
すぐにぽんたが身を乗り出す。
「何が?」
「黙って食え」
「俺が呼んだんだから感想聞いていいだろ!」
うるさい狸だった。
だが,今日は少しくらい答えてやってもいい気がした。
「硬い肉を細かくするってのは分かった。だが,ただ柔らかくなるだけじゃねえんだな」
理人がこちらを見る。
「といいますと?」
「粗いところは噛ませる。細かいところはつなぐ。脂も混ざってるから,硬い肉だけ食うより口に残らねえ」
言葉にしてみると,やはり鍛冶の説明のようになった。
それでも,理人には通じたらしい。
ぽんたはもっと分かりやすかった。
「それ,俺が変えたやつ」
「ああ」
「ちゃんと役に立ててる?」
さっきまでの勢いが,その一言だけ少し弱くなった。
ドランはぽんたを見る。
鍛冶場で見たときより,肉を細かくする道具として確実に良くなっていた。
部分ごとの役割を考え,自分で形を調整している。
それによって変わった肉を,今まさに食っている。
「道具としては,前よりずっとましだ」
「まし?」
「十分使える」
ぽんたが動きを止めた。
次の瞬間,太い尻尾が大きく揺れた。
「聞いたか,リヒト!」
「聞いたよ」
「クウも!」
「聞いてたよ」
「もう一回言ってくれ!」
「調子に乗るな」
そう言いながら,ドランは三口目を口へ運んだ。
うまかった。
それだけなら,一口目で分かっていた。
だが,食べるほど面白い料理でもあった。
粗い肉へ当たるたび食感が変わり,脂の多いところでは味が丸くなる。涙玉と黒香子の香りも,肉を邪魔せず後ろからついてくる。
同じ一枚を食べているのに,噛む場所で少しずつ違う。
均一に作らないことが,欠点になっていない。
むしろ,それがこの料理の良さになっている。
職人としては,少し悔しいくらいに納得できた。
◇
理人が王都へ行くらしいという話は,そのあとすぐ耳に入った。
驚きはしなかった。
最後のハンバーグを食べたあとで,もっと知らない食材を見たいと言っていた。アルカにはないパンや乳製品があると知れば,行ってみたくなるのも分かる。
ドランが気になったのは,理人よりぽんたの方だった。
理人が町を出る。
あの狸がどうするのかは,まだ聞いていない。
そんなことを考えていた日の午後,ちょうど当人が鍛冶場へ顔を出した。
「ドラン」
「何だ」
ぽんたは入口から中を覗き,今日は「怖い」とは言わなかった。
「聞きたいことある」
「珍しいな。飯じゃないのか」
「ここ飯ないだろ」
「分かってるならいい」
ドランは作業中の金具を水へ入れた。小さく蒸気が上がり,火照った鉄の匂いに湿った空気が混じる。
「何が聞きたい」
ぽんたは少し迷ってから,壁へ掛けてある道具を見た。
「もっとすごいのになるには,どうすればいい?」
「雑だな」
「前に,分かるやつからやれって言っただろ」
「言った」
「じゃあ,その次は」
ドランは手を止め,ぽんたを見る。
以前なら,剣になりたいだの,大きな鍋になりたいだの,形の話をしただろう。
今日は違った。
次に何を理解すればいいかを聞いている。
そこは悪くない。
「動く道具を見ろ」
「動く?」
「今のお前が分かってるのは,ほとんど動かん物だ。鍋,箱,刃物,槌。肉を細かくするやつも,形を変えはするが,中で何かが勝手に動くわけじゃない」
ぽんたが耳を立てる。
ドランは作業台から古い車輪の金具を取り,床へ置いた。
「例えば荷車だ。見た目だけなら箱に車輪がついてるだけに見える」
「違うの?」
「車輪が回るには軸がいる。軸をどこで支えるかで回り方も変わる。曲がるなら前も後ろも同じ作りじゃ駄目なことがあるし,荷が重けりゃ支えるところも強くする」
ぽんたは金具の周りを回りながら眺める。
「じゃあ,俺が馬車になったら走れる?」
「今のままなら知らん」
「ええ」
「だから考えるんだろうが」
ドランは鼻を鳴らした。
「車輪の形になれたところで,回せなきゃ意味がない。回せたとしても,右と左を好きに動かせなきゃ曲がれん。そもそも何の力で前へ進むのかも考えろ」
「俺が走る」
「狸の足でか?」
「……馬車の中に足?」
「気色悪い物を作るな」
ぽんたがむっとした顔をする。
ドランは少し笑った。
「だが,いつか自分の一部分を別々に動かせるようになったら,話は変わる。軸を回す。留め具を動かす。刃を一定の向きで動かす。そういうことができれば,今よりずっと道具らしい物になれる」
「じゃあ,いっぱい動くの覚えればいい?」
「順番にだ」
ドランは近くの蝶番を持ち上げた。
「まずはこれだ。一か所だけ決まった向きに動く。次に車輪と軸。そのあとで,鋏みたいに二つを合わせて動かす。いきなり複雑な物へ行くな」
ぽんたは蝶番を前脚で押し,開いたり閉じたりさせる。
「地味」
「地味だから分かりやすいんだ」
「もっと格好いいのない?」
「お前はすぐそれだ」
少し考え,ドランは壁に掛かっていた細身の剣へ目を向けた。
「なら剣はどうだ」
ぽんたの目が輝いた。
「剣!」
「ただし,剣の形になるだけなら今でもできるだろ」
「できる!」
「じゃあ,それ以上だ」
ドランは剣を鞘ごと外し,作業台へ置いた。
「もし剣の姿のまま,自分で走ったり跳ねたりできるなら,いつか地面から離れることも考えられるかもしれん」
「飛ぶ?」
「できるとは言ってない」
「飛ぶ剣!」
「人の話を聞け」
もう遅かった。
ぽんたの頭の中では,かなり立派な何かが飛び回っているらしい。
「ただ飛べばいいわけじゃないぞ。刃をどっちへ向ける。どう止まる。どう曲がる。重い側がどこかも知らずに飛べば,剣じゃなくて回る鉄の塊だ」
「……危ないな」
「今気づいたか」
「じゃあ,ちゃんと分かってから飛ぶ」
「飛べる前提にするな」
それでも,ドランは否定しきらなかった。
普通なら,そんな道具はあり得ない。
馬なしで走る荷車も,自分で飛ぶ剣も,鍛冶の技術だけで作れと言われれば無茶な話だ。
だが,目の前にいるのは,道具そのものへ変わる魔獣だった。
形を変えるだけだったものが,今では一部分だけを調整できる。
道具の役割を理解すると,変わるのも楽になるらしい。
なら,この先どこまで行くかは,ドランにも分からない。
分からないものを,できないと決めつける必要もない。
「覚えとけ,ぽんた」
「何?」
「すごい物になりたいなら,すごい形を見るだけじゃ駄目だ」
ぽんたがこちらを見る。
「何で動く。どこが支える。どこに力がかかる。壊れたらどこから駄目になる。その中身まで見ろ」
「うん」
「分からんところがあったら,分からんままにするな」
「聞けばいい?」
「聞くか,触るか,動かしてみろ。それでも分からんなら,今はなるな」
ぽんたはしばらく黙っていた。
やがて蝶番をもう一度動かし,小さく頷いた。
「分かった」
以前,鋏を見て「無理かも」と言ったときと同じ顔だった。
できないことを嫌がっている顔ではない。
どうすれば分かるかを考えている顔だ。
ドランには,それで十分だった。
◇
「リヒト,王都行くんだって」
ぽんたが不意に言った。
「ああ,聞いた」
「遠いんだろ」
「近くはないな」
「王都には,道具いっぱいある?」
「アルカよりはな」
ぽんたの耳が動く。
「動くやつも?」
「荷車もある。大きな店なら,ここにない道具もあるだろう」
「ふうん」
返事だけ聞けば,いつもと変わらない。
だが,視線はまだ蝶番へ落ちたままだった。
ドランは何も聞かなかった。
理人についていくのか。
森へ戻るのか。
アルカに残るのか。
それは狸が決めることだ。
ただ,一つだけ言っておく。
「外へ行くなら,よく見てこい」
ぽんたが顔を上げた。
「何を?」
「道具だ。王都へ行くにしても,別の町へ行くにしても,ここにない物があったら形だけ見るな。どう動くかまで見ろ」
「……うん」
「戻ってきたときに,見た目だけ立派な物になってたら叩くぞ」
「なんでだよ!」
「中身がないからだ」
「じゃあ,すごいやつになって帰ってきたら?」
ドランは少し考える。
「そのときは,使えるか見てやる」
「褒めろよ!」
「使えたらな」
ぽんたは不満そうに頬を膨らませたが,尻尾は少し上がっていた。
やはり,分かりやすい狸だった。
理人が初めて持ち込んだ肉挽き器の図を,ドランはふと思い出した。
形だけは知っている。
だが,中身が分からない。
あのときは,道具にならないと言った。
今なら,少し違う見方もできる。
形だけしか知らないなら,そこから中身を知ればいい。
理人はそうした。
ぽんたも,今そうし始めている。
ハンバーグという料理も,最初は何をしたいのか分からなかった。
それでも何度も試し,肉の粗さ一つにまで役割を持たせ,最後にはドランがもう一度食いたいと思うものになった。
道具でも料理でも,最初から完成した形を知っている必要はないらしい。
分からないところを一つずつ埋めていけば,前とは違うものになる。
「ドラン?」
「何だ」
「今,俺すごくなると思った?」
「思ってない」
「絶対思っただろ」
「帰れ」
「分かった! また来る!」
「帰れと言ったんだ!」
ぽんたは笑いながら鍛冶場を飛び出していった。
その後ろ姿を見送り,ドランは作業台へ戻る。
しばらくすれば,鍛冶場はまた槌の音だけになる。
だが今日は,鉄を叩き始める前に一度だけ,床へ置いた車輪の金具へ目を向けた。
馬なしで走る荷車。
自在に飛び回る剣。
今なら馬鹿な話だ。
それでも,あの狸ならいつか本当にやりかねない。
そのとき形だけ立派な代物を持ってきたら,まず中を見せろと言ってやろう。
道具というものは,外から見える形より,見えないところの方が大事なのだから。
本日の更新はここまでです。
第41話,第42話は,少し視点を変えて,ガルドとドランから見た理人を描いてみました。
本人が思っている自分と,周りから見た理人は,少し違うのかもしれません。
ここまで読んでくださり,ありがとうございます。
明日も更新しますので,引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。




