↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】完璧な従者から自立したい!  作者: かたたな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/70

エリクとして(エリク視点)

 主人の気配が教室の奥へと消え、重厚な扉が静かに閉まる。その音を合図に、従者の顔を維持したまま、ゆっくりと踵を返した。

常に背筋を伸ばし、一分の隙もない歩調で回廊を進む。


「あれが公爵令嬢の地味な従者か」

「もっと見目の良い相応しい者がいそうだけど、何故あのような…」


 雑音が少々多いけれど、特に気にはならない。彼らがお嬢様の側に仕えるなど到底あり得ないと分かっている。彼らには一生理解できないだろう。お嬢様が求めているのは、磨き上げられた宝石ではなく、ただの地味で人間らしい人間なのだ。


 人のない回廊の影に身を置いた瞬間、肺の奥に溜まった熱を吐き出すように、長く、重いため息をついた。今だけは許されるだろう。お嬢様の発言はそれほど心臓に悪いものだった。



「自分の子を残す未来など、冗談ですらも考えたことがなかった。」



 土まみれの私を、お嬢様が傍に置いて下さったあの日から。お嬢様に寄り添い、世話をする。それが使命と思って生きてきた。


 これからも変わることはないと…。


 貧しい家に生まれ、商家の働き手として売られるように出稼ぎへ出された。

 物置が寝床で、食事は主の残り物。急な客人が来ても振る舞えるようにと、多めに作られた料理の残りはあったが、自分のような下っ端に回ってくる頃には鍋の底に少し。あとは主人達の残した歯型がついた食べかけくらい。


「主人と同じ料理が食べれるなんて羨ましいな!」と嘲笑うように目の前に残るそれ。食べ残しに、メインの肉は残るはずもない。彩りとして添えられた野菜と、メイン料理に掛けられたソースくらいだ。


 だけど、居場所はここしかない。それに、貧しい自分の家よりはご飯が食べれた。


 八つ当たりをされるけど、生きることは出来る。言われた仕事を必死でやって、生きることだけ考えるようにしていた。



 ある日。



「今日はお貴族様のお屋敷に依頼品を運ぶ。粗相の無いように水浴びをしてから向かうぞ。」



 年長者に頭から水を浴びせられ、ガシガシと痛いほどに体を洗われた。服も、支給された中では一番まともなものが与えられた。


(今日は、良い日かもしれない)


 新しい支給品は、まるでご褒美を貰った気分だった。

 そう思いながら、荷物と一緒に豪華なお屋敷へと足を踏み入れ、荷物を運ぶ。敷地内に植える木や花の苗と種を運んでいた時。「タラタラ歩くな!」という怒鳴り声と共に衝撃が走った。

泥の中に転がり、膝を擦りむく。それもいつものことだと荷物を拾い集めた。


 その後だ。人生が一変したのは。


 積んである荷物を指定の場所へ運ぶ。それを繰り返していたら、上質な服を着た年配の女性が近づいてきた。


「お嬢様が、子供を連れて来なさいと。こちらで働く子供は、この子だけかしら?」


 周囲の大人たちは「何か粗相をしましたか!」と慌てふためき、俺を迷わず差し出した。連行される手首に伝わる力に恐怖を感じた。


「なんと説明したらいいか、…とにかくこの子を連れて行きます。責任者には後ほど連絡いたします。」そう言って手を引かれた時「折檻でもされるんじゃないか?」「おもちゃにして捨てるつもりだろう?」背後から投げられた心ない言葉に震え、奥歯を鳴らした。


(今日、死ぬのかも知れない。良いことがあったから…)


 本気でそう思った。

 無慈悲と名高い商家の主が、最大限に気を遣う相手だ。この屋敷の人たちは恐ろしい人間に違いないと。


 重厚な扉の向こう側へ押し込まれると、猛獣が居ることを覚悟すらした。

 しかし、そこにいたのは想像したものと真逆の存在。見たこともないほど美しい、けれど震える仔鹿のような瞳をした少女がいた。


「お願い……私の側にいて欲しいの」


 彼女が泥まみれの袖を必死に掴んだ瞬間、この人を助けたいと思った。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。