オマケ・迎えた初夜2
私はそんな仕草を分からず屋に強い口調で挑む。
「黙りなさい。従者としての本能とやらが本当に存在すると言うなら、今のは私からの命令でしょう?」
「今はもう従者ではございません。理不尽な命令に従う義務はございません。……どうしてもとお仰るなら、貴女から、不埒な私を罰するように触れてくだされば良いのです」
初夜にそんなプレイは求めていない。そして都合がいいときだけ夫面をするな。
薄く笑いながら、エリクはわずかに顔を近づける。睫毛が触れ合うほどの距離まで詰めるけれど彼から動く気配はなかった。
「貴方、ここまで来て何を考えているの?」
「………」
ふいっと視線を逸らすエリク。そんな子供みたいな仕草に訳が分からなくなる。
「測りかねているのです。ロザリアナ様にどこまで許して頂けるのか。一本踏み出してしまえば……きっと際限なく貴方を求めてしまうでしょう」
「あそこまでしておいて何を言っているの?」
エリクは、もうとっくに………まぁ…色々としたと私は思っている。これから本当に初夜を迎えて、それで終わりではないのだろうか。
「エリクが私を求め色々した後、嫌われるのが怖いってことかしら?」
「簡単に表現するならば……そうですが、そんな簡単な話では…」
自ら小さく背伸びをして、エリクの薄い唇に自分の唇を押し付けた。
触れるだけの、まるで子供のような、淡くて不器用なファーストキス。
のはずだった。
「っ……、ん、」
少し触れるだけで離れようとした身体が、強固な力で引き戻される。
気がつけば、エリクの両手が腰と後頭部を逃がさないように囲い込んでいた。
一度境界線を越えてしまった瞬間、エリクが長年張り巡らせていた何かがなくなったのだろうか。
「エリ、く……んっ、」
優しく触れるだけだったはずの唇が、一転して、息をつく隙もないほどの激しい口づけへと変わる。
何度も角度を変え、深く、深く、存在を確かめ合うような口づけの最中、エリクの手が背中を、苦しいほどに強く抱きしめた。
「はぁ、っ……、ふ、」
ようやく唇が離されたとき、ベッドの上で完全に彼の腕の中に収まっていた。
乱れた呼吸を整えながら彼を見上げれば、エリクの瞳は見たこともないほど爛々と輝いている。
「……貴方は、私の全て……世界なのです」
エリクは溜息を漏らすように呟き、その大きな掌で、私の肩から腕、そして腰の曲線へと、まるで宝物をなぞるように滑らせていく。その指先が触れるたびゾワゾワと不思議な感覚が駆け巡る。小さく身体が跳ね、ポカポカと熱くなってくる。私はただ、彼が何をするのか…どんな表情をするのかを眺めた。
「お嬢様のすべてが、私を狂わせるほどに愛らしい。この滑らかな肌も、細い腰も……世界の全てを手にしてしまったら、貪欲な私は更に欲に塗れるのでしょう…」
世界の全てを手に入れたなんて、最近の小説に出てくる魔王でも言わない言葉だ。
エリクは私の肌へキスを落としていく。「愛しい」と必死で刻み込んでいくように。
キス一つで豹変したエリクに驚きはするものの…。私はそんな彼を見ることが出来て心底嬉しいと感じてしまう。
この長い夜は、夫のそんな仕草を見逃さないように…取りこぼさないように必死になった。
◇ ◇ ◇




