オマケ・迎えた初夜。
「もう!!なんで結婚式で手にキスをしたのよ!」
「落ち着いてください、ロザリアナ様」
結婚式を終えた私は、夜の寝室で怒りを爆発させていた。それは到底『初夜』という雰囲気ではない。
「落ち着いてくださいじゃないわ!私は、口にそれがあるのだとばかり思っていたから身構えていたのよ」
キャンキャン騒ぐ私と、それを静かに元気な私を眺めるエリク……そんな私たちを見守るようにベッドサイドのテーブルにはエリクから贈られた生花が一本飾られていた。
そんな罪もない生花に怒りが飛び火する。
「それに!毎回毎回!なんで花の日に貴方だけ『生花』を一本贈ってくれるのよ!造花じゃなければ枯れてしまうじゃない!!」
あの日エリクが贈ってくれた生花が枯れないように、せっせと世話を焼く日々。今ではエリクが当主として治める土地まで持ってきたのだ。今も見事な美しさを保ったまま……わざわざ新しく用意された夫婦の寝室まで持ってきたというのに。
「それは……」
彼は、薄暗い部屋で立ち尽くす。何か悪戯がバレて怒られる事を覚悟した子供のように。
「造花は、貰えば飾って興味をなくしますが……生花を渡すとお嬢様は毎日、その花を気遣われ元気か確認されるためでございます。」
「私が生花を受け取って、枯れたら落ち込むのを見てきてソレなのよね?もはや嫌がらせだわ」
「……左様でございますね」
「左様じゃないわよ!」
私は体を清め、ガウンを身に纏う彼の襟元を掴み揺さぶる。エリクは大人しく揺れていた。
「お嬢様が、私の贈る花を永く見つめる事が……嬉しかったのです」
大人しく私の揺さぶりに揺れてたエリクが観念したように言葉を漏らした。それを聞いて手を離す。
「初めは、従者になったばかりで用意できる花など庭師からこっそり貰った花くらいのものでしたので」
「貴方、私が生花だから気にかけていると思ってたのね。愚かだわ」
私は生花を慈しむような性格をしていない。そうなら庭に出て花を愛でるのが日課になっているはずだ。しかし、そんな趣味はない。
「エリクがくれた物だから大切にしていたと何故考えが至らないの?」
そうして彼の顔を見上げれば「それは考えもしなかった」と言うような表情を見せた。
「エリク。貴方は私の夫になるの。私が望んで貴方に用意した『夫』としての役割よ」
「はい。とても光栄に思います」
「なら、私にキスをしなさい。口に!」
妻から、こんな脅すような初夜があってたまるか……と思うがこの男はそれでも動こうとしないのだ。こうするしかない。
「……それは、できかねます」
エリクは穏やかに、しかし明確に拒絶した。その瞳の奥には、底知れない熱がゆらりと揺れている。
「はぁ!? 妻が夫に求めるのは、当たり前のことでしょう!」
「ええ。ですが、ロザリアナ様。私はまだ、貴女という絶対的な存在を、この手で汚す覚悟ができていないのです。従者としての本能が、お嬢様の唇に気安く触れるなと、私の理性を厳しく咎めておりますので」
従者としての本能だなんて、そんな元から人間に備わったもののように言われても。そんな後付けの本能を早く捨ててしまえと言っているのだ。
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