自立とは。◆本編終わり◆
気がつけば、ポロポロと目から涙が溢れていた。
「エリク……その隠した花はいったい誰に渡すつもり!!」
「お嬢様……これは…」
持っていた花を無理やり護衛に押し付けると、既に沢山の造花を持っていた護衛がボロボロと造花を落とした。それはいい。そんなのを気にする余裕もなく、走ってエリクの胸に飛び込みしがみついた。
「エリク……ひどいわ……私にそれを贈ってくれるのではないの!?裏切り者!!」
「落ち着いてください……お嬢様への花でございます。ですが……お嬢様があまりにも花を持って帰ってきたものですから、私の用意したものなど…」
「誰よりも貴方からのものが欲しいに決まってるじゃない!そんなことも分からないなら貴方は相当の愚か者よ」
エリクは信じられないものを見るように、目を見開く。
「貴方は、私の婚約者よ。私を尊重し『夫』として、私を幸せにするのが義務というものでしょう!!」
「………お嬢様を、私が幸せに…」
「そうよ……、私は貴方が従者という役割から出てこないものだから、あんなに花を貰えるほど交友関係を深めたのよ。美しい人に慣れ、従者などいらないと示す為に……。私の傍に残るのは『夫』としての席しかないわ。その為に……あんなに頑張ったの……壊してやったのよっ、従者としての席を。」
そこまでまくし立てると、ただ、彼に対して願うように言葉を続けた。
「っ…お願いだから、っ…、私の夫になりなさい……身も心も、ちゃんと…夫に」
そう言うと、私の背に手を回し強く抱きしめてくれた。それは少し苦しいほどなのに温かくて…。
「ついに壊されてしまいましたか……従者の席を。自立されたのですね」
「そうよ。自立……したの」
私は…その後、エリクの声さえも聞こえないほど声を上げて泣いた。自立なんてほど遠いのは自分がよく分かっている。こんなにも心が疲弊しているのだから。
でもエリクは、無粋な指摘などしなかった。
………
エリクに自室へ連れられると、落ち着くまで彼の腕の中にいた。
「すぅ~~~~はぁ~~~~」
「お嬢様…あまり吸われますと……」
「黙りなさい。婚約者を永く放置した者に文句を言う権利などないわ」
婚約者として、権利を得た私は思う存分に彼を吸っていた。
「それにお嬢様ではないわ。『愛しいロザリアナ』でしょう?」
「…………………愛しい…ロザリアナ?」
その慣れない言いように、ムカムカする気持ちと嬉しくてムズムズする気持ちが入り乱れる。
だから最高の笑顔を作り、言ってやった。
「なに?最愛の旦那様」
そうして半分意地悪で甘く言う。さあ!どんな完璧な答えを返してくれるのかしら?答えを楽しみにして彼を見ると、ただ顔を真っ赤にして固まっていた。
それは、あまりにも珍しい姿だった。
「エリク?」
「お嬢様…いえ、ロザリアナ。本当に私を夫の席に座らせて、後悔しないのですね」
「どう後悔するというのよ」
エリクは酷く心配そうに表情を曇らせてから、こちらを見て言う。
「私は、貴方に悪影響となる存在かもしれません。従者だった頃……『望まぬ結婚が嫌なら、私と共に逃げましょう』と、何度言ってしまいたいと思ったことか…」
「あら、それもいいわね」
そう言って笑うと、何故か今にも泣きそうな表情を見せた。酷く傷ついたようなその顔を、私は両手で挟む。
「でもダメよ。私は公爵令嬢だもの。そんな誘いには乗らないわ。そして、貴方も言わなかった」
「ですが…」
「こうして、叔父様の息子として地位を得たじゃない。今では領主なのよ?ここまでしてくれる人……なかなかいるものではないわ。貴方は立派よ」
そう言って微笑めば、今度はエリクが泣いてしまうのではないか?と言うほどに瞳がキラキラと潤いを増した。
「不思議ね、貴方に宿る輝きは素直に美しいと思えるわ」
「ロザリアナ…」
彼は、私を抱きしめる。その腕には色々な気持ちが詰まっているような気がした。
「ねぇ、エリク。何かして欲しいことはないの?妻となった私に」
いつも我儘を言ってしまっているから、こうして少し弱気な彼を少し甘やかしてあげてもいい…と、考えた。すると、子供が何かを強請るようにその言葉がやってきた。
「もう一度…私の名を呼び『最愛』と言って下さい」
「ふふ、何度でも。エリク。貴方は私の世界の最愛だわ。愛しているの……貴方に愛して欲しくて、こんなにも苦しい事を進んでやるほどに」
私達は、互いの存在を確かめるように抱き合った。離れたくないと思う私は、やはり自立とはほど遠い。
「ねぇ、エリク。貴方は従者ではなく夫なのよね?」
「はい」
抱きしめていた腕を緩め、彼の頬を両手で挟んだ。
「私の依存する相手が『夫』に変わった……としても、妻が夫に甘えるのは当たり前のことよね?そうでしょう」
「左様でございます」
「従者ではないのだから…『従者からは自立出来た』……と言っても過言ではないわ」
そう言えば、彼は可笑しそうに笑った。
「はい、ロザリアナ様は…従者から自立いたしました」
この人は、どこまでも私に甘やかす。
笑ってしまうけれど、それを私達の事実として心に刻んだ。
優秀な従者から自立に成功した!と。
そして、私の目の前には従者の時にはあり得ない笑顔を見せて笑う『最愛の夫』がいる。
◆終わり◆
次からは、初夜などのオマケを投稿します。




