花の日
「エナ、今回もありがとう。私だけではこうも人脈を広げられないわ」
「いいのよ、ロザリアナ様。親友として、こうして交流の手助けできるのは嬉しいものよ」
もうすぐエリクが帰ってくる。私はエナの手助けもあり、着々と人脈を増やし交流を深めた。エナは卒業してすぐに婚約者と結婚。子供を授かる日を今か今かと待ちわびているそうだ。
そんな話を心穏やかに聞けるのも婚約者がいるお陰だと思う。それも私にとって怖い存在ではない、安らげる婚約者。嬉しくて仕方ない。
エリクは、領地の事で色々あるのだろう……なかなか会う日取りが決まることはなかった。叔父様が、リハビリしつつ「まだ治らない」と言いながら治癒院から出てこない。という報告書だけは届いた。治癒院で日常の世話をさせるために雇った女性が大層気に入ったらしい。治癒院を出てしまえば、その女性からお世話される日々がなくなってしまう……と入院を伸ばしているそうだ。
エリクの人選は叔父様を恋の沼にハメたようだ。叔父様の純粋な恋心を利用しての幽閉?は、誰も犠牲にしないものだった。
そうして会えないまま、王都の花祭りの日がやってきた。
私は、トラウマから初めて参加する事になるそのお祭り。感謝する人、愛する人に花を送る。孤児院へ行く道すがら王都の街を眺めると、街は花で溢れていた。大昔では、生花だけだったそうだけど、今では造花を贈る方が主流となっているそうだ。造花は感謝や愛が残るから。
「エリクは、この日になると庭のお花を毎年贈ってくれたのよね……」
今年はそれがないのか……と思うと悲しい。
そうして、孤児院へ訪れると。
「「「ロザリアナ様」」」
孤児院と街の子供達が私の元へ駆け寄り、小さな紙で作った小さな花を渡してきた。小さな手で頑張って作ったのだろう。院長がカゴを渡してくれて、そこに紙の花がいっぱいになった。
「まぁ、ありがとう」
普通なら、こんな紙の花は喜ばない。しかし、この子達にとってこの色紙が宝物で貴重だと知っている。だから、その宝物を分けてくれたのだと分かった。今度は綺麗な色のついた紙を注文しておかなければね……と、考え眺めると自然と頬が緩む。
すると、今度は孤児院のお風呂の利用者から綺麗に作られた紙の造花が手渡された。戸惑いながら受け取ると、護衛に持つように手渡す。すると、その護衛からも、侍女達からも造花を貰った。
みんな……何を企んでいるのかしら?
少し怖くなった。
すると、せっかくだから……と、護衛がその造花で馬車を飾り始める。
「そんな……これ見よがしに……」
「貴族ではこれが当たり前になっているのですよ?こうして愛され支持される者が乗っていると示すのです」
「なんて傲慢なのかしら。悪趣味だわ」
「しかし……これをやると子供達が喜びます。自分の花が飾られた馬車にお嬢様が乗ってくださるのですから」
そう護衛に言われ、周囲を見る。すると子供達が「あれは僕の作った花だよ!」「あれは私の!お嬢様嬉しい?」と次々と話してくれた。
喜ぶなら……仕方ない。
私は飾り終わるまで、石鹸の香りがする子供達と話していた。そうしていると、どこからともなく顔見知り程度の貴公子が続々とやってきて「私からも麗しい貴方に花を贈らせてください」と渡しに来る。
ここは花渡し会場か何かなの?理解に苦しむわ。
しかし、私は交友関係を広めようとしている公爵令嬢。イマジナリーお兄様に一喝されながら笑顔を作って次々と受け取った。
なんて面倒な儀式なのかしら。
ゲンナリする気持ちをイマジナリーお兄様で刺激し、なんとか乗り切る。
いらないものを貰うってこんなに疲れるのね。
自分でも酷い事を考えているの自覚はある。だが、子供達はともかく大人からのものは社交辞令のような意図が見えて素直に喜べるものではなかった。特に、顔見知り程度の貴公子からは「良ければ食事でも」とか「庭園の花が美しく咲き誇りました」など下心が漏れるものもある。
そんなだから、この日はイマジナリーお兄様に罵倒され怒りをパワーに変えすぎた。
お花渡し会が終わった頃にはさっさと馬車に乗り込み、両手いっぱいの花を抱えて項垂れる。
あぁ…なんて日なの。
疲弊した心で公爵家の屋敷に着いた時。私はヨロヨロと抱えた造花を持つだけで必死に歩いた。
そうして屋敷の扉を侍女が開いた時。
「…お嬢様」
その声にパッと顔を上げた。
そこには紛れもなくエリクがいた。
「エリク……」
幻覚ではなく、本物だ……。
本物だわ!!
呟くと、彼は手に持っていた生花をさっと後ろへ隠したように見えた。その仕草に、私は絶望した。
◇ ◇ ◇




