従者などいなくとも…。
私は、その日から護衛を引き連れて孤児院へ足繁く通った。孤児達への対応は勿論、教育にも力を入れ、その場所は庶民の小さな学校のようになり始めていた。
子供達を、孤児院に預けた親達は仕事へ向かい、仕事を終えたらお風呂に入り帰ってゆく。その流れが習慣となり安定した収入が手に入った孤児院。子供が増えた分、仲裁は大変そうだが、子供達の人脈も自然と広まり孤児院を出てからも社会に溶け込めるだろうと院長が満足げにしていた。
そして、今まで避けて通ってきた夜会。
イマジナリーお兄様をフル活用し、次々と対応してゆく。相手の容姿が怖くとも、イマジナリーお兄様が「あれくらいで怯えるなら屋敷のホコリにでもなっていればいい」と頭の中で囁く。
イライラするわ!!
「体調は、もうよろしいようですね」
「はい、もうすっかり」
「ならば!我が息子ともう一度縁談を…」
孤児院の改革で、一気に支持を集めた私。最近では新たに縁談の話が舞い込むようになった。
「まぁ、私には婚約者が既におりますの。大々的な発表はまだ日取りが決まっておりませんが、パーティの際はぜひいらしてください。」
「あぁ、なんと…。一足遅かったのですね。そのお相手はどちらのかたでしょうか」
「今まで従者として傍に仕えてくれたエリクでございます。」
夜会で人脈を広めようとしているけれど、私は最良の相手を見つけたのだと自慢したかった。
惚気たい!!
まだ従者の枠から出ようとしない婚約者ではあるけれど、婚約者は婚約者。惚気る権利が私にはある!と、私にはこれ以上ない相手だと隙あらば惚気た。しかし、そう話すと十人が十人、驚いた表情を見せる。今、私の目の前にいる紳士もだ。
「あのお方と?地味な公爵令嬢の従者と有名だった?」
「はい」
「それはなんとも嘆かわしい。貴女に縁がなかったのは体調の心配があっての事だったと皆が話しておりました。それがあの者と婚約する羽目になるなど…。」
彼は私をとても哀れんでいるようだ。
「悲しい事などございません。エリクは私を長年支えてくれた従者。私にとってはこれ以上ない婚約者でございます」
そう笑って見せれば紳士は口元に手を当てて目を潤ませた。
「な、なんと……公爵令嬢が、見目を気にしない…そこまで心が美しいお方とは……孤児院への支援、そして改革も聞き及んでおります。なんと慈悲深い」
なんでよ!!
ただ、エリクと婚約者になれて嬉しいと本音を言っただけなのに、目に見えて私の評価が上がってゆく。エリクの華の無さはそれほど致命的なのだろうか。私から見れば人形みたいな人間よりよほどいいというのに。
あんなにも素敵なのに。
そうして話していると、ワラワラと紳士達に囲まれ始めた。いくら婚約者がいると話しても、叔父の隠し子(設定)であること、エリクの見た目が世間からすると華がない事が甘く見られているらしい。
夜会に参加すればするほど、誘いの手紙が増える状況になっていった。
おかしい。
世の中っておかしいわ!!
婚約者のいる相手に、こうもあからさまな誘いをかけてくる人間はどうかしている。
「お父様!!この数々の手紙を送ってきた家は即刻ブラックリスト入りを!!」
「ロザリアナ……そう怒るな」
「怒りますわ!!エリクはこんなのの足元にも及ばないほど素敵なのに腹立たしい!!」
屋敷に帰るとお父様の執務室へ突撃し、デスクに乗せた手紙をバシバシ叩き訴える。
そうして、お父様の執務室で怒りをぶつけていると、お父様は困った顔をするのにどこか嬉しそうだった。
「ロザリアナ、エリクが近いうちに戻ってくる。婚約者として準備を整えておくのだよ」
その言葉に、ギャンギャン悪口を言っていた私の口はスンと閉じた。
「本当ですか!?では…成功したのですね!?」
「ああ、エリクは弟の養子として正式に書類が交わされた。」
そして、お父様が珍しく笑いを堪えるように言う。
「弟は、娼館設立に向けて準備と言わんばかりに夜の街へ出かけたそうだが……酒場で寄ってきた娘と余りにも楽しみすぎたらしい。腰を痛めて真夜中に治癒院へ送られたそうだ。悪い痛め方をしたそうでね、まともに仕事の席へも就けないだろう……と」
「それは…!!」
「実権がエリクに移された。治療から戻ったとしても弟の居場所は無いだろう。良かったなロザリアナ」
私は、エリクの優秀さに驚きながら喜びがこみ上げた。私達の共にいる未来は確定したのだから。
後は、私の婚約者を『従者の枠』から引きずり出すだけだ。
今後の活動に、更に熱が籠もった。
◇ ◇ ◇




