その証明。
ベッドに優しく沈み、エリクの手が私の頬から首筋へとゆっくりと這う。彼の瞳には、かつてのように、あくまで従者として律するだけの距離感ではない。
これが、婚約者として私を求める男の顔なのだと突きつけられる。
しかし、従者の領域から出たがらないエリクがどう証明するというのか。
「……お嬢様。心臓の音が、ここまで聞こえてきそうでございます」
「あ、貴方の心臓ではないの?聞き間違いよ」
彼は耳元で低く囁くと、そのまま私の額にそっと自身の額を預けた。吐息が肌にかかり、背筋がゾクリとする。その感覚は、完璧な容姿の人物を見た時の恐怖とは違う。
どこか先を期待している、気持ちいい感覚…。
「本当に……覚悟はよろしいのですか?」
その問いかけに、私は言葉を詰まらせた。
目の前に迫る彼の唇が、そして触れられた肌から伝わる温もりが、返事をする余裕すらなくしていく。
「……っ、証明、そう、……証明は、必要だわ」
私がなんとか絞り出した言葉に対して、エリクは喉の奥で小さく笑った。私をバカにしているの?と睨めば、エリクのその表情はどこまでも優しかった。
「承知いたしました。今夜は、お嬢様を安心させることに専念いたしましょう」
彼は私の服に指をかけると、ためらうことなく丁寧にそれを下ろしていく。肌がエリクの目の前で露わになるたびに、冷たい空気が触れるはずなのに、彼の視線がなぞる場所が火照っていくのを感じる。
「ちょ、ちょっと待って…証明は貴方がするものじゃ…」
「証明するために必要なことでございます」
これまで、どれだけ彼の手入れを受け、身体を知り尽くされてきた。しかし、今この瞬間に彼が向けてくる意識は、それまでとまったく別物だと分かってしまう。
その手の熱さと、少し荒くなる彼の息遣い。バクバクと私にまで聞こえてくる鼓動が物語っている。
この距離だから、きっと私の鼓動も聞こえてしまってるだろうか。
私は逃げ出すことなど考えもせず、瞳を閉じた。
「お嬢様、目を閉じていては証明ができません」
そう言って、エリクの指先が優しく顎を滑り持ち上げられる。
「お嬢様の『夫』という座を手に入れた私が、お嬢様を前にしてどうなってしまうか。よく、ご覧ください。」
言い終えると、エリクは鼻先で私の首筋に触れ、肌に小さく音を立てて唇を寄せる。
その感覚で、また瞼を閉じてしまう。
「エリク……そんな触れ方をされたら、貴方を見れないわ…」
「可愛らしいお嬢様ですね。その表情を見る事が許されるのは、私だけでありたい」
するとエリクは、私の手を自身の胸元に導き押し付けた。
「お分かりいただけますか?私の変化を。男が、魅力的な女性に向ける本能を…」
何も言えない私の手を、更に自身の体に滑らせて一つ一つ、その変化を教えてくれる。
「ひっ、エリク…それは…」
「とても初々しい反応でございますね。今まで不浄なものから遠ざけ、大切に守ってきたお嬢様を、私自身が壊してゆく日が訪れるとは。夢にも思いませんでした」
私の手は、確かにその変化を感じ取っている。エリクは頬を染め、少し恥じるように視線を逸らす仕草を見せた。
「しかし、その資格を得られる可能性を見つけてしまえば……。誰かから奪えるなら……迷わず奪うでしょう。私をそうした人間に育てたのはお嬢様です」
エリクは私のせいにして現状を正当化している。そんなエリクの頬に私は触れた。
「ここまで来ても、従者の領域を出ようとしないのは予想外よ」
「左様でございますか…」
「……それでも、私の『夫』の立場を求め、得られる手腕があるのだから、とても優秀に育ったものだわ」
そのまま頬を撫でれば、どこか嬉しそうに目を細めた。
「主人の為に、自ら夫となる……そんな最善の提案ができるのは従者として完璧ね」
「はい、貴方の完璧な従者でございます」
静寂の中、互いの鼓動を確かめながら、重なる呼吸とベッドの軋む音が部屋を満たしていった。




