できるのか出来ないのか。
するとエリクは少し考えるように目を伏せてから私を真っ直ぐ見つめた。
「男として、女性を抱き、子を成す能力がないということでございます」
「!!」
私は言葉を失った。
「そんなフリが出来るというの!?男としてのプライドに関わる事柄ではないの?」
「普通の男ならそうかもしれません。しかし、私は長年のお嬢様の湯あみを『やり過ごしてきた』従者でございます。フリなど容易いとこです」
私が鍛えた…と言いたいの?
困惑する私に、エリクは静かに話を進める。
「あの領地には娼館がございません。その背景には、先代の公爵家当主様と現在の公爵様が、あの人が遊び呆ける事が分かっているからでございます。しかし、娼館が無い故に裏で取引が行われ初めている様子。娼館の設立は避けれないでしょう」
「………はぁ……そういうことだったのね。不穏な動きというのは。ならば、管理の行き届いた娼館を設立し、保護が必要なのも理解が出来るけれど……とびっきり高待遇にしてもらいたいものだわ。治安に貢献しているのだから」
私は、良くない妄想で頭が一杯になった。娼館を作るということは………合法的に女性と遊べる所が出来るということ。
「………ちゃんと、断れるのよね?」
魅力的な女性がいたとしても…本当に断れるのか。
「勿論でございます。私が最も恐れることは、お嬢様の傍へ行けなくなることでございます。ここまで拒否されているのに行く理由などございません」
「そう…。ならいいわ」
内心では全然良くないけれど、裏でごちゃごちゃされるのは確かに不衛生だ。正式な場所を作り、裏の危ない取引をするまでもない環境にする必要がある。
はぁ…とため息を出しつつ、まだ気になることがある。
「ね、ねぇ、エリク」
「はい、お嬢様」
「実は本当に女性を抱けない可能性は…?」
ここまで自信満々に宣言するのだ。もしかすると、本当に不能な可能性がある。
以前、私という最高の存在の手入れをさせたから『その感性を奪ったのでは?』と聞いたことがある。その際は『しぶとく残っている』と話した彼だったが…私に気を使っていたのでは。
「お嬢様」
「何よ」
私が額に手を当てて哀れんでいると、エリクから声をかけられる。その瞳はいつもの従者らしい眼差しで感情が読めない。
「その心配には及びません」
「………だけど」
「試してみましょうか?」
「試す?」
「男として、お嬢様を抱けるか…証明しようかと思いまして。私達は今や『婚約者』でございます。公爵家当主の許しを得たのですから」
そう言って近付いてくるエリク。私はそんなエリクを見据え、納得した。
「確かにそうね」
そう言うと、なぜかエリクがピタリと動きを止める。
「本気で言ってらっしゃるのですか?」
「貴方が言い出した事じゃない。何を驚いているの?」
「いえ…少し意外でしたもので……」
エリクは口元に手を当ててなにやら考える。
「私の発言で、夫婦という関係を現実のものとして想像して頂ければ……と考えておりました。お嬢様はきっと、まだ実感がわかず困惑しているからこそ計画の手助けをするのだろうと……」
「貴族社会において子を残すことは重要なことよ?貴方がちゃんと能力を備えていると証明出来るなら確認して安心したいわ」
「左様でございますか。お嬢様がそこまで現実的にこの婚姻をお考えであるならば、私も夫としての義務を果たす用意がございます。それを証明いたしましょう」
彼はそう言いながら、自らの衣服を淡々に緩め始めた。その仕草を確認して、急にバクバクと心臓が騒ぎ始める。
待って。
子供を残せることを証明して貰う……その確認するだけよね?
この広い部屋で、道を完全に塞がれた訳でもない。なのに、逃げ道は無いかのような錯覚に陥る。正面から捉え「どこまでするつもり?」と確認する間もなく。
「こちらへ」
気がつけば、体がフワリと持ち上げられ、背中に柔らかな感触が伝わってくる。エリクは私の身体をベッドへと押し倒し、自らの体で私を完全に覆い隠すように圧しかかってきた。
この体勢は以前、エリクが男の強さを教えてくれた時のものに似ている。それは夜を共にする誘いだと…。
………するのかしら?その…夜を共にするような事を。
バクバクと騒がしい胸を、なんとか落ち着けようと呼吸をするけれど「するかもしれない」という状況に落ち着くわけもない。




