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【完結】完璧な従者から自立したい!  作者: かたたな


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幸運の代物

 

 変な執着を見せるこの完璧な従者。本当に困ったものだ。どうやって引きずり込んでやればいいのか…。


 考えながら、彼の顎に添えていた指をゆっくりと離す。



 すると跪く彼は私から離れ、ガラスの棚へ向かう。そこは、私のお気に入りの品を飾る場所。


 そして、あの破廉恥な瓶を隠した場所だ。


「!!」

「お嬢様がそこまで仰るなら。世の中の恋人のようにデートをしてみるのはいかがでしょうか。私を引きずり込んでくださるのでしょう?」


 まさか、まさかね、バレないわよね?と背筋が震え上がりながら彼の行方を見守る。ここで慌てては何か勘ぐってしまう。まさか帽子に触れようなんて思うはずないわ…。


 そんな祈りに近い考えを巡らせた。それなのに彼は、無情にもその帽子へと手を伸ばす。


「この、お嬢様お気に入りの帽子。お嬢様はご自身に似合わないとおっしゃいますが私は……………?」

「わっ!!待ちなさい!」


 その中に忍ばせていた、瓶の入った箱が「あら?見つかってしまいましたね」とでも言うように登場した。


 まずい…まずいわ……。


 エリクの表情が硬くなったように見える。


「……やはり、お嬢様がお持ちになっていたのですね」


 その声は、いつもの淡々とした調子とは違う。

 しかし、それを見て思い出したことがある。


「エリク…違うの…それは…」

「私は、これがどういうものかと説明したにも関わらずお嬢様は、以前お話していた『誰か』に渡すおつもりで?」

「ねぇ、エリク。お説教は後にして……………聞いて欲しいの」


 慌てて手を振り、机の引き出しに手をかけた。そこには手紙を仕舞っていて、開いたと同時に何通もの手紙が揺れた。その一番上に無造作に置かれた一通を、お説教モードの彼に差し出す。


「これを買った店からね、極秘で私に手紙が来たのよ」


 私の言葉を遮ることはせず、差し出された手紙を開いた。破廉恥な瓶の入った箱はしっかり小脇に抱えて。


 私はなんとか話を逸らそうと、説明も交えて最もそうな話題を探す。


「何でも、これを使って夜を楽しんだ四十代の男性が、余りにもお盛んになってしまって体を痛めたとか。だから、四十過ぎの方には使わないほうがいいという念のための警告だったわ。」


 私の説明を、エリクは微動だにせず、静かに聞き入っている。その表情からは何を考えているのか読めないが、私は必死に今思いついた『提案』を投げかける。


「娼館を新設する許可を出し、叔父様が進んで自滅するのを待つより『これ』を与えてみてはいかがかしら。きっと、自分は大丈夫!と適用量を超えて使用するわ!!多分ね!!」


 叔父様は、自分がまだまだ若いと考える傾向にある。しかし、お父様の弟と言えど四十は遠に越えている。そんな人にこの破廉恥な液体を渡したら?きっと、取り扱いの注意など読まず…若しくは読んでも「自分は平気だ」と思い込み使うのではないだろうか。


「試す価値はございますね」

「でしょう!!」


 エリクは、手紙の内容を隅から隅まで目を通している。そして、箱を開封すると、中に入っていた取り扱いについての紙も読み出した。


「これは、エナの占いを参考に買い出しに出た幸運を呼ぶ贈り物よ…きっと良い方向へ事が進むわ。娼館なんかよりずっと」


 その言葉に力を込めて伝える。するとエリクは、手紙から視線を上げて私を見た。


「お嬢様は、娼館を作る事が不満なのですね」

「当たり前よ。女性がそんなところで身を売るよりも前に、働きたい女性が胸張って働き、稼げる環境にしなければならないわ。」


 私は少し…言い難くなりながらも言葉を続ける。


「娼館なんて新設計画をして、叔父様に『お前も遊べ』と言われたら…貴方は叔父様の信頼を得ようと事に及ぶかも知れないわ。それは容認できないの。絶対に」


「お嬢様……」


 その表情には、ほんの少しの驚きと、それ以上の深い情動が滲んでいる。

 私が何をそこまで拒絶しているのか、彼は正確に理解したのだろう。


「私が他の誰かを抱くかもしれないと……そうお考えになったのですね」

「……そうね、叔父様からの信頼を崩さない事が重要だもの。むしろ、そういう状況になれば抱かなければ不自然だわ。」


 私は腕を組み、わざと冷ややかな視線を彼に投げかけた。


 エリクは受け取った瓶を恭しく上着の内ポケットへと仕舞い込むと、再び私との距離を詰めた。今度は跪くのではなく、真っ直ぐに私の目を見下ろしてくる。


「お嬢様、どうかそのご懸念はお捨て置きください」

「口先だけなら何とでも言えるわ」

「従者として、そして……お嬢様の夫となる者として、生涯をかけて証明いたします」


 彼は静かに、けれど、だいぶ重みのある言葉を並べて言う。


「私はお嬢様だけのもの。私の心も、この身体も、他の誰かに分け与えるような真似は決していたしません。」

「…なら、叔父様に『お前も楽しめ』と言われたらどうするつもりか言ってみなさい」


 組んだ自らの腕を指先でトントン叩く。想像しただけでもモヤモヤする。


「簡単でございます」

「…?」

「私は『不能』だと答えましょう」


 ……


 …不能とは?


 それは何が不能と言うの?主語を言いなさい、主語を。


 と首を傾げた。


◇ ◇ ◇


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