従者のまま?
私たちは確かに心を通わせたはずだった。
…けれど。
エリクが見せた態度はあまりにも「いつも通り」
「貴方のその態度。どこまでも完璧な従者ね、それで本当に私の夫になれるのかしら?」
思わず、そんな言葉が口を突いて出ていた。
私の視線を受け止めたエリクは、表情を変えない。ただ、いつものように洗練された一礼を返すだけだ。
夫として、私に甘い愛を囁くような姿は到底想像できない。この生真面目な男が、夫婦の寝室で一体どのような顔をするというのだろう。想像しようとしても、目の前に佇む完璧な使用人の姿しか浮かんでこない。
「お嬢様、私が夫という立場に変わろうと、お嬢様の従者な下僕であることは変わりありません」
「そこは変わるところよ?」
大真面目に、そして至極当然のことのように彼は言い放った。立場が変わっても下僕だなんて、そんな奇妙な婚姻関係があってたまるか。とてもじゃないけど対等な立場とは言えない。
「それは…ずっとなの?」
「ずっとでございます」
即答。
「……はぁ」
私は思わず、深いため息を漏らした。
椅子の背にもたれかかり、天を仰ぎたくなるのをどうにか堪える。
私が想像していた結婚生活といえば、もう少しこう……世の恋人同士のように、恋だの愛だのと言葉を交わし合う、睦まじいものを期待していたのだ。彼が言った「最愛のお嬢様」という言葉に、淡い期待を抱いた私が馬鹿だったのかもしれない。
「貴方って、こんな極上の妻を前にしてもそれなのね……面白くないわ」
拗ねていえば、エリクはほんの少しだけ、困ったような顔を見せた。
「お嬢様も、私を夫として愛そうなどとは思っていらっしゃらないのでしょう?」
エリクは私の溜息をどう受け止めたのか、淡々とした口調で言葉を継ぐ。さあ今日から婚約者です!なんて言われても、まだ想像はつかない。私達は今までとどう変わってゆくのだろう。
「お嬢様が私に求めておいでなのは、恋慕ではなく、人間らしい安らぎでございます。私はそれを、最も裏切らない形で生涯仕えようと誓っているのです」
私は机に肘を突き、頬杖をついたままエリクをじっと見つめた。
「あら、そうでもないわよ?」
彼より大人ぶって話を続けた。
「貴方…恋をしたことはあるかしら?」
「いいえ、ございません」
「でしょうね!」
ここは嘘でも「お嬢様に恋をしています」とでも言うものだ。しかし、彼の中には従者としての考えしかない。だから教えてあげるのだ。
先に『恋』を知った者として。
「私は、エリクが旅立ってから貴方のことを考えない日はなかったわ。エリク以外の癒しを見つけても、エリクのことばかり考えてしまうの。元気にしているか…怪我をしていないか、酷い目にあってないか…とにかく心配だったわ。…好意のある相手のことは…自然と考えてしまうものでしょう?」
どう?私の渾身の告白めいたこの言葉は!!ありがたいでしょう?
得意げに言うと、エリクは首を傾げた。
「それを言うのであれば、お嬢様専属の従者である私も同じでございます。お嬢様の事を常に考えております」
一瞬で私の恋愛論は、彼の従者論に論破された。
しかし負けないわ!!




