2人で書く手紙
インクが乾いたのを見届け、私は丁寧に手紙を折りたたんだ。
不気味な人形を贈りつけてきた叔父様へ、嫌悪感しか無いけれど…。今の私には、それ以上に「エリクを絶対に失いたくない」という強烈な執念があった。
お父様がエリクに課した試練は命がけだ。ならば、それを手助けするものが必要だ。
「ふふ、驚くかしら」
私は手紙を持ち、自室の扉を開けようとした。すると、コンコンと再び扉がノックされる。
私は咄嗟に身構えたけれど…。
「お嬢様、少しお話をよろしいでしょうか」
今度はちゃんとエリクの声が聞こえ、ホッと胸をなで下ろした。私は早速扉へ駆け寄り、部屋に招き入れると、すぐさま自信満々に、書き上げたばかりの手紙を彼の目の前に突きつけた。
「エリク、これを見なさい!」
「これは……?」
「貴方の計画を完璧にするための、私からの極上の贈り物よ。読みなさい」
さあ、驚きなさい。そして私を大層褒め称えるがいいわ。
エリクは不思議そうに瞬きをしながらも、手紙を受け取り、その切れ長の目を走らせた。
手紙の内容はこうだ。
『叔父様、ご無沙汰しております。エリクから、叔父様が私のことを想って酷く心を痛めていると聞きました。あのような愛らしいお人形を贈ってくださった優しさを、今になってようやく理解いたしました。私も、叔父様にお会いしたくて堪りません。もし、エリクとの結婚が叶ったなら、私は叔父様と共にあの素晴らしい領地で過ごせるのですね。今から楽しみで夜も眠れません』
どうかしら。
エリクが私に上手く取り入った証拠となる手紙だ。これでエリクの「お嬢様の弱みを握って婚約を取り付けた」という報告の信憑性は跳ね上がるはず。
私は胸を張って彼の顔を見上げた。
しかし。
「……」
手紙を読み終えたエリクは、感動に震えるどころか、得体の知れない無表情のままぴたりと固まっていた。それどころか、その綺麗な眉がピクリと不愉快そうに動く。
「お嬢様」
エリクは深く、それはもう重々しいため息を吐くと、手紙を持ったまま、あろうことか非常に冷ややかな目を私に向けてきた。
「気持ちは大変ありがたいのですが……添削いたしましょう」
「は、はぁあっ!?この完璧な手紙を添削ですって!?」
耳を疑った。
完璧な令嬢として学園を卒業し、卒業生の言葉まで述べたこの私にダメ出しを始めただなんて!
「何よ! どこが不満だって言うのよ!」
「まず、お嬢様はあの男を甘く見すぎです。あのようなお花畑な脳内をしている男相手に、ここまでストレートに『会いたい』『共に過ごせる』などと書けば更なるお花畑が広がり、お嬢様の身に危険が生じます。深刻なお花畑化現象が起こりましょう」
深刻な砂漠化…の反対だわ。
「お嬢様、こちらへ」
大人しくエリクに付いていくと、移動の末に机の椅子へと促してくる。納得はいかないけれど、あまりに自然な動作でエスコートされてしまい、私は釈然としないまま椅子に座る羽目になる。
新しい紙を広げてペンを握ると、エリクは私の斜め後方に静かに立った。
背後から近づく彼の気配と、耳元に届く静かな声は心臓に悪い。
「では、書き直しましょう。私が口頭で指示いたしますので、そのまま文字に起こしてください。……まず、冒頭は『叔父様、大変不本意ながら、この手紙をしたためております』から始めてください」
「え……? そんなに突き放した書き方でいいの?」
私が驚いて振り返ろうとすると、エリクは私の肩にそっと手を置き、前を向かせた。
「いいのです。あのお方は、自分がお嬢様に嫌われていることを自覚しています。……続けます。」
…
……
「コレで、本当にいいのかしら?」
書き終えた文章を改めて見つめ、私は目を見開いた。
そこには、私が最初に書いたような、叔父様へ会いたいという言葉も、好意を匂わせる甘い文面も、一切存在していなかった。




