変わらぬ気遣い。
彼は優雅に、完璧な貴族の礼をして見せる。そして、その表情は面白いものでも眺めるような眼差し。
「……何よ、その顔は」
「元からこのような顔でございます。お忘れですか?」
「私の知っているエリクは、もっと可愛気があったわ」
「可愛気?お嬢様こそ、可愛気をお屋敷に忘れていらっしゃいましたか?」
「なんですって?」
私は再会を喜ぶどころか、彼を猛烈な勢いで睨みつけていた。
「『代役』なんて、 随分と偉くなったものね。それとも、今は公子様とお呼びした方がよろしいかしら」
「どうぞ、お嬢様のお好きなように」
私達の間にはバチバチと火花が散っているような険悪な空気。彼へと歩み寄り真正面から見上げると、エリクは私の睨みなど気にもとめず微笑んだ。その笑顔が、気取ったように作られた雰囲気に腹が立つ。そんな笑顔でさっきまで素敵だと思っていた目つきを隠してしまうのだから、更に何とも言えないイライラがつのる。
なんなの。
なんなのよその態度!!
「私の隣に立つに相応しい振る舞いを心がけるのよ」
「もちろんでございます」
そうした険悪なムードのまま、卒業パーティーが始まった。
孤児院での活動が認められ卒業生代表の言葉を述べなければならない。そんな誇り高き私の隣に立つのがチャラチャラとした者では務まらないのだ。
イライラとした気持ちを隠さずにいるというのに、エリクは私に微笑み手を差し出してくる。
いい度胸しているわ。
「行くわよ!」
「はい、お嬢様」
そう言って足を踏み出した瞬間。一瞬だけ、従者だった頃の彼を思い出した。
そして、無事にパーティーを終え馬車に乗り込んだ。
「はぁ~~~」
長いため息は出たけれど、パーティーをやり切った。エリクはちゃっかり「実は公爵家当主、その弟の隠し子だった…」「身の危険があり、身分を隠してお嬢様に仕えていた」として私の隣で周知されるよう振る舞っていた。今まで私の傍に仕えていたのは親戚だからだった……などと、周囲をまんまと騙すその口は驚くほど滑らかに動く。
そんな嘘を、本当かのように言う彼にもイライラを募らせる。お父様との打ち合わせなのだろうか?分からないけれど、まるで私の知っているエリクとは別人のように思えて仕方なかった。
それなのに今。
目の前にいる彼は昔のような雰囲気でそこに存在する。わけがわからない。
「お疲れ様でございます、お嬢様。とても素晴らしい振る舞いでございました。」
「いまさら、従者みたいに取り繕ってなんなのよ」
「私は、お嬢様の従者を辞めたつもりはございません。」
「さっき挑発してきた癖に……よく言うわ」
そう言うとエリクは困ったように眉を下げた。
あぁ、懐かしい…本当にエリクがいる。
「お嬢様は昔から、怒ると周りが見えなくなり、人を直視する事ができますから。パーティーの緊張を和らげただけで御座います。」
「はぁ!?そんなの知らなかったわ!言いなさいよ!」
「言った所で…」
「不愉快だわ!」
そんな一見険悪な会話をするのに、話せば話すほどエリクが居ると実感が湧いてくる。
「エリク……帰ってきたのね…」
「はい、お嬢様」
「ちゃんと…エリクなのよね?」
「はい、お嬢様」
分かりきっている事を、何故か口にしてしまう。嬉しくて、でも、何を話したらいいか分からなくて。ただ、意味のない確認をしてしまった。そして、そんな意味のない確認を終えたら……エリクに何も良い報告ができない事が悔しくてたまらなかった。
彼が心配しないようにと、自分なりに努力したつもりだったのにこの結果……。
「私…頑張ったのよ…これでも。とても、頑張ったの」
「ええ、お嬢様の事です。そうだと思っています」
「でも、でも…ダメだったのよ…どうしても…どうしても…上手く行かなかったのよ。笑いなさいよ!もう!」
急に悲しみが湧き出てきた。もう自分の感情が分からない。任務を見事遂行したエリク。それとは違い、縁談は全滅の私。情けない、頑張ったのに悔しい、でもエリクに会えて嬉しい、パーティー緊張した。どんどん押し寄せてくる感情。そんな私に、エリクはエスコートするように手を取る。従者として最小限の触れ方で。
「笑いません。よく頑張りましたね、お嬢様。立派です」
「見てない癖に」
「ええ、見ていません。でも、分かります」
私は、そのまま涙を流した。
◇ ◇ ◇




