再会は卒業パーティで。
「貴族の義務」という建前で始めた孤児院のお風呂改革は、大きな成功を収めていた。
普通なら食料の提案が先だろう。しかし、清潔を保つ事も大切だと院長は嬉しそうに話してくれた。褒めて伸ばす院長だからこそ特待生が出たのか…と感心したものだ。
事が大きくなった今では、街の子供達も含め夕方から文字の読み書きや剣術を学び、迎えに来た両親と共にお風呂に入って帰る…という流れが出来ている。
それは、施設が安定した収入を得る流れとなっていた。
そして、お風呂運営を健気に手伝う子供達の姿を目の当たりにして、里親の申し出が増えている。
お風呂がここまで一人歩きしていくなんて…。
お風呂の方が私より自立している。
こうした活動が、支援者である私の功績などと言われ、かつて「群れのボス」とされていた私の立場は「慈悲深い女神」だの言われ始めていた。
世間の掌返しに呆れる。
だと言うのに!時というのは無情なもので……。こうして私の輝かしい評判が広まったのは、私の縁談が全敗し、卒業となってからだった。
今日。
私はついに隣に誰もいないまま卒業式を迎え、卒業生によるパーティーに出席しなければならない。
「はぁ……」
お父様が決めたであろう婚約者がやってくるのだろう。その人物も災難だ、相手が私だなんて。
………パーティーはこの世で一番嫌い。
あの美しい人形を思い出して足がすくむ。皆は楽しみにしていただろうけれど、私には恐ろしい悪夢の中に迷い込むようなもの。
私は震えそうになる唇に力を入れる。
学園の控室で一人、鏡に向かって気合を入れた……のは良いけれど、自分の美しい姿にも目眩がしそうだ。
「っ……気持ち悪い」
口元を押さえながら椅子に座る。
お父様が選んだ婚約者は…いったいどんな人物なのだろう。きっと、これ以上ないほど整った、感情の読み取れない、吐き気のするような美貌の男に違いない。貴族はだいたいそんな感じだから……。
その時、控室の扉がノックされる。
「…」
気分が悪く返事ができない。
声を出したらさっき食べたものが出てきそうだったから。しかし、そんな返事も待たずに扉は音もなく開いた。
「失礼いたします、お嬢様」
聞き覚えのある声。俯いていた顔を上げて、扉の方を見ると…
「エリク?」
「はい、お嬢様」
そこに立っていたのは、上質な礼服に身を包み、洗練された貴公子として身だしなみを整えられたエリクの姿だった。
地味な従者だったはずの面影はどこへやら。上質な衣装に身を包み、垢抜けた佇まいをしている。
控えめに言って、これまでに出会った誰よりもカッコいい。
華やかな者が好まれるこの世では、より華やかに見せようとキラキラの宝飾品は当たり前。しかし、今のエリクは宝石などではなく、美しくもシックな刺繍の施された服を身に纏っていた。それは、完璧な人形には選ばないデザイン。それでいて、長身の彼に馴染んでいる。それはこの場に相応しいものだった。
大人びた雰囲気?というのだろうか。以前より目つきがキリリとしている気がする。人形には丸みの強い形の目の形が好まれるけれど、その視線の鋭さは人間味が溢れている。
素敵……と口から出そうになった言葉を手で押さえた。
あまりの変貌ぶりに、ドキドキと胸が騒ぐ。けれど、彼が口を開いた瞬間、私の感動は別の感情へと塗り替えられた。
「お聞きしましたよ。卒業までにどなたとも縁を結ばれなかったと。……ですので、本日のエスコート、および『最後のお相手』の代役として、私が参りました」
「……代役?」
「ええ、慈悲深い我がお父上の気遣いでございます。公爵様の用意した人物にもお断りされたそうで、お相手のいない可哀想なお嬢様へ…。」
その言い方には、明らかに私をからかうような音が感じられた。
◇ ◇ ◇




