エリクの初仕事。
彼は、異性である私の肌を拭き、髪に触れるという大役に、顔を林檎のように真っ赤にしていた。
「……恥ずかしい?」
私が問いかけると、エリクは「ひっ!いいえ」と小さな声を上げて、さらに顔を伏せた。
「も、申し訳ございません。」
「いいの。エリク、貴方が私の救いよ。」
部屋に籠っていた間も、食事とともに置かれる濡れた布で体を拭いてはいた。しかし、まともに身なりを整えていなかった私の髪や肌に触れるのは嫌だろう。
「……ここに来て初めての仕事が、こんな薄汚いお嬢様の湯あみだなんて。災難ね」
自嘲気味に笑った私に、エリクは一瞬だけ、その震える手を止めた。
そして、今度は顔を上げ、くすんだ、けれど温かい瞳で私をまっすぐに見つめたのだ。
「そんなことあ…いえ、ございません。十分かわ」
「コホン、エリク」
そこまでエリクが言うと、扉の向こうにいる侍女から咳払いと彼の名を呼ぶ声が聞こえた。ふふっと笑ってからエリクに言う。
「エリク、貴方の事情も聞かず、ここで働く事を強要してしまったわ。申し訳ないとは思っているの、でも……貴方は、私の側にいてほしいの。落ち着くの。」
「……はい、お嬢様。」
それが私と、優秀な従者のエリクとの始まりだった。
その日から、私の遊び相手だったり身近な世話を彼が全て行うようになった。部屋を出る時は、エリクの背中にひっついて顔を埋めたまま移動する。
エリクも動きにくかっただろうと思うけど「ここは人がいません」とか「人が来そうなので背中に隠れてください」などと私の目になってくれた。
彼の背中にひっついた時の香りは、干したばかりのシーツのような香り。今でもその香りが好きだ。
そして、庭で遊ぶ時は「この草は面白い形ね、何という草かしら」と聞けば「名前は知りませんが、茹でるとヌメリがあり美味しい草です」と、彼自身の知識を教えてくれた。
それが妙に楽しかった。
「じゃあこれは?」
「これは食べれません、舌がぴりぴりします。」
「じゃあこっちは」
「まだ食べたことない草です」
「こちらは?」
「この葉は固くて食べようとも思いませんが、美味しそうな動物が好んで食べていました。」
そんなやり取りに、久々に笑ったのを今も覚えている。
そうして、エリクの背中から徐々に日常へと戻っていった。エリクは、私が読書や勉強の時間になると先輩従者の元へ行き、色々なことを学んで帰ってきた。
戻ってきたエリクはいつも、緊張した面持ちで学んだことを実行する。そして上手く出来ると密かに微笑む彼の表情がとても気に入っていた。
◇ ◇ ◇




