群れができてる。
無作法な女子生徒を前に立ち上がると、この国の正式な礼をしてみせる。
「ごきげんよう…………これが、近い家柄に行う礼よ。そして、これが……上の者に敬意を表す礼。この違いが分かる?」
「……っ、は、はいっ…大変失礼をいたしました!!」
「なら、やってみなさい」
「っぇ!?」
「理解したと言うなら、やってみなさい」
私の「やってみなさい」と言う指示に困惑している。それでも、上の者から命令されたようなもの。彼女は素直に礼をしてみせた。
「まだ不格好だけど、さっきよりはマシよ。その礼を心がけなさい。」
「はい!」
さっきまで絶望していた表情だった彼女は、背筋を伸ばしキラキラと美しい笑顔を見せた。あまり眩しいと私が倒れてしまう………私はすぐに読書へ戻った。
すると、私の周りに集まる生徒たちが続々と挨拶に来るようになってしまった。彼らは私をマナーの先生だとでも思っているの?それはあまりいい気分ではない。しかし、作法のなってない者を見るとムズムズする。だからチクチクと指摘して文句を言うのだけど、嬉しそうに挨拶を終えて私から離れる。そしてこの場を安心して利用し過ごしていくのだ。
更に…だ。
「ダンスのステップ…こうで合ってるかしら。このステップが難しいわ」
「俺も、そこで先生に指導を受けるんだけど…」
等と集まった生徒達でペアを組み、練習を始める日もあった。周囲でカツカツと靴の音を響かせ、ワイワイと談笑するのが煩かった。
「貴方達、いつまでそのステップを練習するつもりなの?うるさいわ」
「っ!!申し訳ございません!!」
「今、騒いでいた者はそこへ立ちなさい。すぐによ」
そう言って、中庭の真ん中へ見せしめのように立たせた。立ち尽くす彼らは羞恥心なのか恐怖なのか分からない表情をしている。
「いい?貴方達。夜会に参加するならば、もっと人の視線があるものよ。そんな怯えた態度では舐められて終わりだわ。どんな状況でも背筋を伸ばし、余裕で笑って見せなさい」
「はい!」
長年夜会を避けていた上に、エリクがいないだけで厳しい表情しか作れない私が言うのもなんだけど………、その立ち姿が余りにも見苦しかった。文句を言ってくれと言うようなものだ。
そして、その中の男子生徒一人に命じる。
「そこの貴方、一曲踊るわよ。女子生徒は、私の動きをよく見ておきなさい。」
そうして、彼女たちが困っていたステップを解説しながら一曲踊ってみた。しかし、相手の男子生徒も腹が立つほど酷かった。
「次、私が男性役をやるわ。男子生徒も1回で覚えなさい」
「は、はい!!」
そうして、先程ステップに困っていた女子生徒に手を差し伸べた。一流のエスコートをする男性の仕草で、男性になりきって。と言っても、エリクの真似なのだけど。指名された女子生徒は頬を染め「はい!」と良い返事をしてみせる。
私が、エリクの真似をしてエスコートをすれば、相手は私の仕草に見惚れるように表情を和らげるのが分かる。その瞬間だけは、エリクが褒められているような錯覚になり悪い気はしなかった。
皆、さっさと覚えて静かにして欲しいわ。
そんな場に、エナもたびたび来てくれていた。「やっほーボス」とか言いながら。まぁ、縄張りのボスと言われればその通りなのだけど。
それでも、この状況はあまりに滑稽だった。強い者の周りに弱い者が集まり身を守る。まるで野生動物だわ。
「公爵令嬢が平民や弱小貴族を従えて、自分だけの『群れ』を築いているのかしら」
「対等な友人が作れず、逆らえない者しか側に置かないなんて……」
「しかも、挨拶に来た者に文句を言ってイジメてるとも聞くわ」
「まぁ、なんて酷いのかしら」
私は端から見れば「弱い者を侍らせて悦に浸り、その者たちを叱りつける傲慢な女王」なのだそう。
何よそれ。
盛りすぎだわ。
笑ってしまうけれど、こうした噂のせいで更に縁談から遠ざかっている…………と、お父様から愚痴を漏らされた。
けれど、そこに後悔は無い。
こんな私の近くを安全な場所として認識し、訪れる生徒が沢山いたから。
安らぎを求める気持ちは、私自身がよく理解している。
◇ ◇ ◇




