見つけた男の子
床に転がった人形の手が、コロコロと足元に転がってきた。その手が、今にも自分の足を掴んでしまうのではないか…そんな恐怖が頭をよぎる。
「いや!怖い! 怖い、怖い、怖い!!」
私は泣きじゃくりながら、お父様とお母様を探した。
お父様とお母様ならこんな不気味な場所から助けてくれる。
私は必死に走り、大きな声で助けを求めた。
「ロザリアナ!どうしたの?可哀想に、こんなに泣いて。」
駆け寄って来てくれたお母様の姿を、涙が滲むぼんやりとした視界でなんとか確認すると、迷わず胸に飛び込んだ。
「お母様!!」
涙を拭ってもらい、お母様の顔を見て安心しようとした。しかし、お母様の瞳は、壊れた人形と同じ色をしていた。それは、あまりにもキラキラと、美しく輝きすぎている。
見慣れたはずの母の美しさが、その時の私には「壊れる直前の人形」の不気味さと重なる。
私は再び悲鳴を上げ、そのまま意識を失ったと後から知らされた。
それから数日、私は深い泥のような悪夢にうなされ続けた。それが私の恐怖をより深くしていったのだと思う。
夢の中では、周囲の人間が次々と人形のように崩れ、頭が落ち、腕がもげる。
「貴方は人間?それとも人形?」
悪夢の中、そうやって必死に生きた人間を探した。
やっと目を覚ましても、周囲の人間に悲鳴をあげて隠れた。両親や兄、使用人でさえもあの人形のような美しさをどこか持っていて、私の恐怖を呼び起こす。
誰の顔も見たくなかった。
そんな状態の私は、食事も思うように喉を通らず、眠るのも怖かった。扉越しに話す両親は常に私を心配していたのに、外へ出る勇気は出ない。
そんな時間が6日ほど過ぎたあたりだろうか。
私は窓から外を眺めた。人を視界に入れないように、木の葉が風に揺れ、雲が流れる様子を観察してみると、外は美しい。自然の美しさならまだ美しいと思える事に安心した。
次に小さく息を吐くと、恐怖心を抱えながら人がいるであろう方向に目を細くして視線を向ける。
私自身も、このままではいけないと分かっていた。だからこうして少しずつ慣れようとしていた。丁度、視線の先には屋敷へ荷物を運ぶ人達が見えた。大きな男達が荷物を運ぶ姿は、パーティーにいた人達とまるで違って少しは見る事ができると気がついた。
その中に1人背の低い子供の姿を見つけた。
私と同じくらいの子供が、荷物を手に大人に混じって運んでいる。あれは…木の苗だろうか。他にも何か抱えているようにも見える。
「重そう。」
呟いた時。
子供は、大人の一人に後ろから蹴られ転んでしまった。それは遠くから見ている私でも分かる八つ当たりだった。
「!!…なんてことを!」
そう思うのに体は怖くて動けない。
転んだ少年を助け起こす為に部屋を飛び出す事も出来なかった。
しかし、その子は大人に文句を言うことなく、荷物を拾い集め、泥のついた顔を上げた。
その姿をジッと見つめて気がついた。
「あの子なら、怖くないわ…」
理解した瞬間、私はベルの置かれるベッドサイドへ駆け寄った。早く、早く、あの子が行ってしまう。そう思う必死さがベルの音を大きくした。
「お嬢様、どうなさいましたか!?」
侍女が扉の向こうで慌ててやって来た事が気配で分かる。
「今、荷物を運んでいるあの子、子供!。あの子を連れてきてほしいの。あの子なら怖くないわ!早くして!」
早く、早く!と侍女を急かした為に、彼女たちを大変困らせた。
◇ ◇ ◇




