生き残った感性。
至近距離で見つめ合う私達。
さすがに照れてくるわ…。
「……お嬢様。それを、本気で私に問うておられるのですか?」
そんな私とは違い、何かを押し殺したような声が発せられる。それまで多少調子に乗っていた気持ちを、しょんぼりと萎ませた。
「あぁ…私が貴方の欲を殺してしまったのだったわね。」
「勝手に殺さないで頂きたい。」
今だにベッドに押し付けられている私。その両手首を掴む彼力は痛いほどではない。けれど、決して逃がさないという確固たる意志を持って、私をその場に縫い止めていた。
「……少し前の私であれば、そのような不敬、微塵も考えもしなかったでしょう。お嬢様を守り、生活を支えることこそが私のすべてでございましたから。……しかし……お嬢様は私に、あまりにも残酷な未来を想像させてしまったのです」
「残酷な……未来?」
「ええ。私にとっては、これ以上ないほどに分不相応で幸福な。……けれど、決して叶うはずのない未来でございます。お嬢様はご結婚されても相手を愛せなければ私との『子を宿せばいい』と申されました」
「………それは、本心よ?」
「だから…余計に苦しいのです。この醜い欲が」
彼の胸板の厚みが、私の体の重みに重なり、呼吸が少しだけ苦しくなる。
「…したいか、と問われれば。ええ、したいですよ。……貴女が想像もできないほど、汚らわしく、独占的なことを。」
その言葉は、あまりにも剥き出しの「人間」であり、私の知らないエリクの一面を表していた。湯浴みにも動じない、私が潰してしまったと思った感性は、確かにそこに存在しているようだ。
「その感性は生き残っていたのね」
「えぇ、しぶといものなのです。」
呟き、私の唇にその親指をそっと這わせた。白い手袋越しの少し硬い指の感触が伝わってくる。
「私は、お嬢様の幸せを一番に願いたいと…思っているのです。このような真似は未来の旦那様の為にもおやめください。」
エリクの地味な色をした髪が、サラリと落ちて顔に影を作る。前髪が顔にかかると、いつも幼い彼を思い出すのに今はそれができない。その端正な顔立ちを視界いっぱいに捉えることで精一杯だった。
「……お嬢様は無垢なままで良いのです。決してそれが子供なわけではありません。公爵家と私の意向で御座います。」
そう言うと、迷いのない動作で私を解放した。
ふわりと体から重みが消え、部屋の空気が二人の間に流れ込む。エリクは素早くベッドから降りると、乱れた衣服を何事もなかったかのように整え、深く一礼した。
「……少し、お節介が過ぎました。紅茶を淹れ直してまいります。冷たいものを。」
彼は背を向け、部屋を出ようとした。その歩調は、いつもの完璧な従者のものだ。
一人残されたベッドの上。
自分の手首に残った彼の重み…その感覚思い出し抱きしめた。
「出来る、のね?…私相手であっても」
彼に抑え込まれた手首には、まだ微かな痺れが残っている。それが恐怖ではなく、甘い充足感として胸に居座っていることに、自分でも呆れてしまう。
◇ ◇ ◇
明日から、毎日1話を19時頃に投稿していきます。(全年齢版修正の時間を考えて一日一話に変えました。あと漫画にも挑戦してみたい!)




