危機管理
「……お嬢様。そのように、面白がらないでください……」
私が何をしても「はい、お嬢様」と涼しい顔で受け流す彼が、今は視線を泳がせ、私の腕の中で硬直している。
なんて人間らしい生きた反応だろう。
もっとそんな反応をみたくなってしまうじゃない。
「私にされるのは、そんなに嫌?」
意地悪く首筋に鼻先を寄せると、彼の鼓動がさらに早くなったように感じて面白くなってしまう。
「……滅相もございません。ですが、限度というものがあります。私は従者として、お嬢様の尊厳をお守りしなければならない立場なのです。それを、主である貴女ご自身がこのように……」
「見ず知らずの業者に触らせたのに、私はダメなんて…。」
「いいえ、業者の品行をしばし見定めたまでで御座います。扱う商品は良いものでした。公爵家と付き合いを持つに相応しい業者なのか…」
「品行を見定めるためなら、その体を差し出すと言うの?別の方法を考えなさい。」
そう言って、まだ腕を緩めず反応を楽しむ私にエリクはそっと離す肩に手を添える。その力は強くない。それを良いことにそのままの体勢を保った。
「いいですか、お嬢様。貴方は少し男というものを知る必要があります」
冷静さを取り戻した声がする。その意図を知りたくて腕の力を抜くと真剣な表情のエリクがこちらを睨むように見ている。
「私がこれからする事は、あくまでも一般的な男性が思うことです。全てとは言いません。しかし、昨夜のような破廉恥な代物を貰うと殆どの殿方が想像することでしょう。」
そう言って、強い力で体が浮いたかと思うとベッドの上に押し倒されていた。
「……っ!?」
「お嬢様。……さぁ、全力で私の手を振りほどいてみて下さい」
至近距離で私を見下ろすエリクの瞳には、先ほどまでの動揺はない。いつも、あまり輝きのない瞳だなんて思っていたけれど、その瞳に私の姿が映って見えるのは気分がいい。しかし魅入っているわけにはいかない。ここから抜け出して「大したことないわ!」と言うためにもがいた。しかし、全く動けない。
「……無理だわ。動けない」
「そうです。悪意ある男の力は、たとえ年下であろうと貴女の自由を奪うことなど容易い。……先ほどお嬢様がなさった抱擁は、そのまま夜を共にする合図と受け取られても文句は言えません」
耳元で囁かれる声。
エリクは圧倒的な力差を見せつけ、恐怖に震える私を想像予想していたことだろう……。けれど、幼い頃から私を守り続けてきた彼への絶対的な安心感のせいか、私は恐怖を感じるどころか、少しの期待を抱いてしまっていました。
特に表情を変えず、動かなくなった私を不審に思ったのか、エリクがさらに顔を近づけて覗き込む。
「……ねぇ、エリク。こういう時って、このまま、キスとかするのかしら」
「キスだけで済むとお思いですか? ……甘すぎます。男が本性を現し、貴女をそのようにして捕まえたのなら。……もっと、際限のない欲深いことが起こるでしょう」
「……エリクは…したいと思うの?あのように誘われたら、それが例え、私相手であったとしても。」
エリクの瞳が、わずかに細められた。
◇ ◇ ◇
明日から、毎日1話を19時頃に投稿していきます。(別サイトで同時進行で投稿している内容に、そろそろコチラに載せられない内容が出てきてしまう為、全年齢版修正の時間を考えて一日1話に変えました。)




