更にエリクを追う。
翌日。
私は学園から部屋に戻るなり、彼の香りを堪能した。だって、いつもと違う行動しても怪しまれるものね?いつも通りに見せかけて、油断させるのよ!
「すぅ…はぁ」
はぁ、幸せ。
心置きなく吸えるっていいわ。
こうして素直に吸っていることに対してエリクは何も言わない。最近、自立を志して吸うのも控えめにしていた分、いつもより多めにエリクを吸っておいた。
「ずっと、こうしていたいわ」
「お嬢様が望むままに」
「やっぱりエリクは私に甘いわね」
クスクスと笑ってから、体温を感じ、その落ち着いた鼓動に耳を傾ける。
そして満足してからゆっくりと離れた。
「今日は授業の復習をするから、夕食まで一人にして頂戴。その時間まで下がってなさい。」
その言葉にエリクが意外そうにこちらを見てくる。
「贈り物はどうなさいますか?」
「それは、また今度。少し…反省してるのよ。冷静になる時間が欲しいわ」
すると、彼はなんだか嬉しそうに表情を和らげた。
「畏まりました」
深く一礼して部屋を出ていくエリク。
なによ、嬉しそうに。
…まさか!!
早速想い人をあの部屋へ呼ぶつもりかしら。夕食まで時間ができたものね…。
事に及ばないまでも逢引くらいはあるんじゃないかしら?
扉が閉まる音を確認し、私はすぐさま行動に移った。
足音を忍ばせ、エリクの後姿を追跡する。昨夜の資料室へ向かうのかと思いきや、彼は廊下でお兄様に呼び止められた。従者らしく壁に寄り礼をしたところでだ。
「エリク、夜に時間あるのかい?チェスの相手を頼みたいんだ」
「畏まりました」
「楽しみにしているよ」
……お兄様が、気安くエリクに話しかけている。私の事をワガママな妹だと、滅多に声をかけないお兄様がエリクとのチェスを楽しみにしている。
更に進むと、今度はお父様とお母様が彼の名前を呼ぶ。
「エリク、ロザリアナは今お勉強かしら?ロザリアナの体調はどう?」
「はい、大変お元気でございます。」
「そう、良かったわ。これからも頼みましたよ。ワガママを言ったら貴方が叱って構わないからね。」
「いいえ、我が儘などございません。無垢で麗しいご令嬢でございます。」
昨夜の惨劇を知っていて、よくそんなことが言えるものだ。皮肉を飲み込みながら、グッと堪える。それにしても、エリクが…お母様と談笑している。
そしてお父様も。
「ロザリアナの学園から届く知らせも公爵家として問題ない。あの状態でよくやっているだろう。今後も期待している。」
お父様が従者にこれほど言葉をかけるなんて。エリクは、私の知らないところで公爵家の中心人物たちから絶大な信頼を得ている。
エリクが廊下を歩けば、若いメイドたちが「エリクさん、お嬢様のお部屋のお掃除についてなのですが……」と駆け寄り、ベテランの料理長までもが「おいエリク、夕食の試作品ができたんだ。お嬢様が好きそうか試食を頼むぞ」と親しげに声をかけていく。
彼はその一つひとつに、完璧な礼儀と、それでいて壁を感じさせない絶妙な距離感で応えていく。
物陰からその光景を眺めていた私は、ふと、愕然とした。
……私より、屋敷で上手くやっているわ!!
私は、両親と軽い会話ができても顔をまともに見れない。彼がいなければ着替えも、湯あみもできない。
私の中に、また同じ言葉が浮かぶ。
自立…自立するの。エリクばかり大人になっていく。どうしようもない主だと思われてしまう。
「自立」の文字をしつこく頭に刻んだ時。エリクの名が呼ばれ、裏口へ回った。外の業者だろうか?何故かエリクが対応を任される。
彼の名が呼ばれたなら…エリクが呼び出した業者なのかしら?
建物の中から様子を窺うと、訪れたその業者の姿を盗み見た。その業者は若くて美しく、少し派手な女性。ガラス越しに様子を伺っても会話までは聞こえなかった。
しかし、妙に態度が馴れ馴れしい。
いくつかの品々を説明しているようだけど、距離は近く、胸を強調しているような気がする。
まさか、あれが恋人候補?
そう思った時、女性はエリクの首に手を回し、胸を押し付ける程に距離を詰めたかと思うと、内緒話をするように耳元へ唇を寄せた。
そこは私の安らげる場所。
私だけの場所なのに。
その瞬間に、私の中で何かがカッ!!と熱くなった。
「そこ、何をやっているのかしら」
人生で一番、低い声が出た気がした。
◇ ◇ ◇
ブックマーク・☆評価ありがとうございます!!もし少しでも良いな、と思う話が御座いましたらリアクション頂けますと次の創作の参考にしようと思います。読んで下さる皆様、感謝で一杯です!




