好物を知りたい。
今日のディナーは私の大好物。
しかし、エリクがもっと欲しいと言うなら更に分け与え、甘やかしてあげてもいい。今はとにかく、彼の本音をもっと引き出してみたくなった。
しかし、私の期待に反して、エリクは深く、深く頭を下げる。
「……滅相もございません。私には、今の一切れだけで十二分に過ぎたる光栄。これ以上を望むなど、罰が当たります」
その声は、いつもの冷静な従者のものに戻っていた。
それは「これ以上はいらない」と言うこと?私の胸はみるみるうちにしぼんでいった。
「これがあまり好きではないの……?」
あからさまにしょんぼりとした声が出てしまった。手元のフォークを少し下げて彼の反応を見る。彼は「美味」だと言ってくれたけれど、それは、主である私を傷つけないための優しい嘘だったの?
「お嬢様、それは誤解でございます。決してそのようなことは――」
「じゃあ、遠慮していたの?もっと食べるかしら?」
私はパッと、エリクの言葉を遮るように顔を上げた。
先ほどまでの落ち込みが嘘のように、胸の奥から再びワクワクとした期待が湧き上がってくる。
嫌いではないのなら、話は別だ。
私は手早くナイフを動かし、皿に残っていた肉をさらに切り分けた。先ほどと同じ、いや、それ以上にたっぷりと艶やかな特製ソースを肉の断面に絡め、自身のフォークで突き刺す。
「ほら、エリク」
私は期待でいっぱいになりながら、再びフォークを差し出した。
私が「さあ!」とさらにフォークを突き出すと、彼はついに諦めたように息を漏らし、ゆっくりと顔を下げた。
どこか覚悟を決めたような面持ちで、彼は二切れ目の肉を、静かにその口へと含んだ。
品良く動く彼の顎を、私は満足感に浸りながらじっと見つめる。
ごくり、と二度目の喉の鳴る音が、静かな自室に小さく響いた。エリクはすぐにいつも通りの完璧な動作で口元を拭った。
その瞬間。
いつも冷静なエリクの口元が、ほんのわずかに、本当にほんのりとした優しい形に緩んだ。その地味なはずのブラウンの瞳が柔らかく細められる。
この表情…覚えがある。
エリクの「美味しい」という素直な笑顔だ。嬉しさが一気に込み上げてきて、思わず頬が緩んだ。
「ふふ、あの頃を思い出す表情ね。とても気分がいいわ」
私が弾んだ声でそう言うと、エリクは一瞬だけ目を丸くした。
「……あの頃……とは、何にございますか」
「エリクが屋敷に来たばかりの頃。庭園の花の蜜を私が吸って見せて…エリクにも勧めて、一緒に美味しいって笑ったわ。」
「水色と黄色のグラデーションが鮮やかな花でございましたね」
「そう。私、貴方の美味しいものを口にした時の…その表情が好きだわ」
手を伸ばせば、私の意図を理解した彼が更に近くへ顔を寄せる。肉が収まっていたであろう、その頬に指を滑らせると私も頬は緩みきってしまう。
まだ小柄だったエリク。あの日の無邪気な笑顔が、今の彼の顔に重なって見えたのだ。
◇ ◇ ◇




