近づく恋
恋について語るエナは饒舌になり、今にも歌い出しそうなほどウキウキしている気持ちが伝わってくる。こういう所が「生きた人間らしい」と感じて心地よい。
とは言え…。
私はエリクの隣に他の女性がいたらどう思うのか。今まで殆どの時間をエリクと共に過ごしていたから分からない。
だけど、話を聞けば聞くほど「恋」という答えに近づいて来ているようでならない。
「こんなに真面目に聞くなんて、ロザリアナ様も気になるお相手がいるの?」
「…それは、どうなのかしら?恋を実感したことがないものだから」
そう言ってから深く考えてみる。
そんな私の様子を見てニコニコと微笑む彼女はやはり人間味に溢れている。
「ロザリアナ様がついに恋ねぇ。お相手は誰か気になるなぁ」
「もぅ、からかわないで。恋と決まったわけではないわ」
こうして、エリクが迎えに来る夕方まで授業の合間にエナと話し込んでいた。
…
授業の終わりを告げる鐘の音が、重厚な石造りの校舎に低く響き渡る。
…
少しの休憩はあるものの、何時間もの授業を終えた私はクタクタだった。
疲れ切った心を癒すために、速やかにエリクを吸う必要がある。
私は手荷物を確認し、急ぎ教室を出た。その先の廊下には、主を待つ従者たちが壁際に整然と列をなしている。その色とりどりの制服の群れの中から、彼を見つけ出すのに時間はかからない。
余計な装飾を排した、落ち着いた佇まい。エリクは迷いのない足取りで側へと歩み寄る。彼が私の斜め後ろ、いつもの完璧な距離感に収まった瞬間、肺の奥に溜まっていた緊張がわずかに解けた。
「お疲れ様でございました、お嬢様」
「ええ」
短く答え、前だけを見て歩き出す。とにかく早く帰りたくて、挨拶をしてくれる生徒たちの前で足を止めることもない。
そうしてやっと馬車までたどり着いた。
馬車の扉が開かれ、ステップに足をかけようとしたその時だった。
「ロザリアナ様! 言い忘れてたわ!」
背後から響いたのは、親友エナの快活な声だ。先ほど教室で別れたばかりなのだけど、何をそんなに急ぐのだろう。
彼女は風のように駆け寄ってくると、周囲を気にするように私の耳元へ口を寄せた。美しい手が顔の横に添えられ、内緒話の形を作る。
「ロザリアナ様の気になるお相手の、お誕生日と星は分かる?今、街で流行っている占いの本を入手したの。明日占ってあげる」
「私は実験台かしら?」
「違うわ、私も当たったもの。婚約者との相性抜群って」
「ふふっ、占いまで貴方達の縁を保証したのね。」
エナの瞳が、悪戯っぽく、けれど慈愛に満ちて輝く。そんなエナとのやり取りをした後、ハッとした。主人の乗降をサポートする位置にいるエリクとの距離は、ほんの目と鼻の先。
今の囁きが、聞こえないはずがない。
「エナ、その話はまた明日ね?行きましょう、エリク」
「畏まりました、お嬢様」
返ってきたのは、いつも通りのエリクの声。
一方で、私を送り出したエナの周りには、瞬く間に他の生徒たちが集まっていた。
エナは馬車の扉が閉まる間際、取り囲む彼らに向かって「いいでしょー、ロザリアナ様と楽しくお話できるのは私だけ。親友の特権なんだから!」と、誇らしげに、けれど嫌味のない明るさで笑いかけている。
嫌味のない笑顔と、その見事な社交術で彼女の周りには、いつも多くの友人が溢れている。
馬車の扉が閉まり、私は向かいに座るエリクの顔を見ることができず、ただ熱くなった頬を隠すように窓の外を見つめるしかなかった。
気まずいわ。
◇ ◇ ◇




