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カナイチ・ホームズの好奇心ー冒険者ギルドの小さな名探偵ー  作者: 才練人
〜熊に喰われた男〜 1章 熊に喰われた男
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第3話 謎の男性

 アルベルト達が戻るが、森は静けさを取り戻しており、グラットンベアの死体もそこにあった。

「うっ……

 これは想像以上に酷いな」

「ここまで食われているのは珍しい」

 男性の悲惨な姿にベテランの職員も思わず顔をしかめた。

 新人である職員はあまりのグロテスクな姿を見てすぐに離れて吐き出してしまった。

「……ダメだな。

 ここまで顔が潰れたら誰なのか判別できないぞ」

「精々わかるのは男性だというくらいで年齢もわかりにくい……」

 ベテランのギルド職員は男性に近付いたが、それではわからないほどに食われていた。

「……ん?

 おい、ちょっと来い」

「何かわかりましたか?」

「少々グロいが、顔の近くまで寄ってみろ」

 ボードを使って記録していたマリナは職員の言う通りに近付いた。

「……これは……

 お酒の匂い?」

「ああ……

 血の臭いに混じっているが、間違いなくお酒の匂いだ。

 どうやら被害者はお酒を飲んでいたらしい。

 それによく嗅げばーー」

「……果物の匂い。

 ……これはみかんとかではなくて」

「……りんごだな。

 今旬の果物」

「被害者はりんごをおつまみにして飲んでいた?」

「あるいはすり潰したりんごを酒に混ぜて飲んでいたか、カルバドスのようなりんご酒を飲んでいたか……

 いずれにせよ」

「……そんな匂いを漂わせて森に入ったら」

「襲われるだろうな……

 グラットンベアは甘い果実は好物だし、アルコールにも敏感だ。

 嗅覚もあるからーー」

 ベテランの職員は被害者の手を持って顔を近付けた。

「……これでは指紋採取は不可能だ」

「グラットンベアが食い千切ってますからね……

 吐き出された指もこれではーー」

「カード照会もできないから冒険者か町民かすらわからん」

「気になるのは手にも酒やりんごの匂いがしている点ですね」

「……零したのでしょうか?」

「ここまでアルコール臭が強いと酔っ払っている可能性が高い。

 酔っていたら手に零していても気にせずに飲んでいた……

 そう考えても不思議じゃないが……」

 職員は次に被害者の服装を確認してから、周囲の地面を確認する。

「……アルベルト達を呼べ。

 確認したいことがある」

「わかりました」

 そして、マリナに呼ばれてアルベルト達が来た。

「あの、呼ばれたのですが……」

「……聞きたいことがある。

 戦闘中、キミ達、あるいはグラットンベアが“酒瓶”か“スキットル”を蹴飛ばしたりしたか?」

「え?

 そんなものはなかったような……」

「本当か?」

「本当よ。

 アタシ、動き回っていたけど、そんなものがあったら注意するし……

 グラットンベア相手にそれを踏んで転んだら危険でしょ?」

「……そうか」

「それがどうかしたのですか?」

「……おかしいんだ」

「おかしい?」

「この男性が酒を飲んでいた。

 それは事実。

 なのに、男性が持っていたであろう酒瓶もスキットルも目に見えるところにはないんだ」

「途中で捨てたのでは?」

「その可能性も考慮するが……

 男性の服を見てみろ」

「……そういえば……

 鎧とかじゃないな」

「冒険者の服は多少頑丈に作られているが、この服はそんな感じじゃない」

「……魔術師が着るローブでもないわね。

 ……これはむしろ」

「……町民とかが着る一般の服?」

 そのことに気付いたアルベルト達はざわつく。

「でも、ここって危険だから夜間の立ち入りは禁止にされてるんじゃないんですか?」

「ええ。

 そういうことになっています。

 冒険者はギルドが許可した者以外は依頼を受けることも町の外に出ることも禁止にされています」

「そうだよな……

 俺達がこの森を巡回できるのもギルドに許可されて、ギルドからお願いされたからだからな」

「はい。

 実力のある冒険者には毎年お願いしています。

 行商人のような外に出て仕事をするお方達も、冒険者の護衛を付けるように注意喚起してますし、夜間での移動も禁止にしてます。

 無理にしようとしても門番が止めてくれる筈……」

 それほど危険な森で酒を飲んだ一般男性がグラットンベアに喰い殺された。

「……この人、誰なんだろう?」

「わからん。

 簡単な手荷物検査をしたが、冒険者カードや町民カードの類はなかった。

 あったのは、これくらい」

 そう言って見せたのは、革の袋。

 中身を確認すると、鉄のコインと銅のコインが大小関わらずじゃらじゃらと出て来た。

 銀のコインも古びているが数枚ほど出て来る。

「……だいぶあるわね」

「デラルから見て、貴族のような金持ちではないだろうが、貧乏人でもないな」

 だが、それは職員達にとって困る内容だった。

「……これでは貧富から特定することも、仕事を特定することも難しいな」

「……肝心のカードもありませんでしたからね」

 どうやって調べても“男性が誰”なのか、一向にわからない。

 顔、指紋、カード、服装、所持金と手掛かりになりそうなもの全てが調べても精々わかるのが“冒険者ではない一般男性”くらいなものだ。

「……本来なら、グラットンベアの死体を回収して使えそうな素材を報酬金とともに渡すが……

 素材に関しては待ってくれないか?」

「え?」

「万が一……

 もしかすれば、グラットンベアが男性を食べている時に一緒にカード……

 あるいは身元がわかるものを飲み込んでいるかも知れない。

 解剖すればそれがわかるかも知れない」

 職員の言葉を聞いてアルベルトは頷いた。

「……仕方ないよな?

 ここまでわからないのなら」

「むしろ、そうしてくれないと不気味で怖いわ」

 そう言ってメリッサは被害者を見る。

 衣服はグラットンベアの爪や牙によってめちゃくちゃになっているが、汚れに関してはそれほどでもない。

 少なくとも、不労者の服のような黒ずんだ汚れもない。

 それがメリッサにとっては不気味に見えた。

「ご協力感謝します。

 ただ、報酬金に関してはボーナスが出ますので」

「わかりました」

 アルベルト達の顔は晴れない。

 ただのグラットンベアに襲われた男性と考えていたから、何も掴めない状況に気持ち悪さを覚えていた。

 まるで、被害男性から発した呪いの霧が綺麗な青空を覆うようにーー。

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