第29話 予告状と白骨化死体
「サトシ・ボーマンって……
さっき、ミレイが言っていた……」
「え、ええ……
亡くなった爆弾魔の名前よね?
やだ、不気味……」
その予告状を見て、少し不気味がるミレイ。
「これ、誰が書かれたのかわかりますか?」
「……指紋とか調べることができればよろしいですが……
まだ事件も起きていない時に伝えてもイタズラとして処理されるでしょう。
下手に言えば混乱の元になってしまいますし」
「そうですよね」
「ですが、これは脅しになり得ますよね。
ハルトマン財閥に恨みを持つ人か財閥の発展を面白くない人がやったのかしら?」
「……」
「どうしたの、カナイチ?」
「何か気付いたのか?」
「なあ、アドラン。
ミレイさんから聞くまでサトシ・ボーマンってどんな人物か知っていた?」
「え?
そういえば、知らなかったわね。
今日初めて聞いたような」
「……まあ、いくら友達でも私のひい爺様が死んだ原因を話す訳ないわよ」
「そうですよね。
普通、友達相手に自分のひいお爺さんが何で死んだのか教えることはありませんからね。
マリナさんとレナさん、アルベルトさんとティーナさんは?」
「俺達は……
聞いたこともなかったな。
大昔にそういう手配書や依頼書はあったかも知れなかったけど、積極的に捜そうとは誰も思わなかったな」
「カナイチくんみたいに犯人を捕まえる冒険者は少数で大抵は魔獣討伐を受ける冒険者は多いし……
歴史を調べるのが好きな人はいるけど、どんな事件が起きたのかを調べる人も少数よ」
「私達ギルド職員は知っていますよ。
確かに古くなっていますが依頼は依頼なので……
それにこういう事件が起きたのだと教えられて警戒するように教えられてもいましたから……
ただ、時効になって以降、それを語る人はいません」
「……サトシ・ボーマンに関してギルドに聞いておきたいことはまだありますが……
それは置いておきましょう。
今聞きたいのは……
そんな昔の爆弾魔の名前を語ったところで、それは脅しになりますか?」
「それは……」
「ハルトマン財閥ならそういう歴史を辿ったからと教えられたから脅しにはなるけど……」
「……普通なら“誰なんだ?”ってなりますね。
脅迫して金を盗るのなら今の爆弾魔の名前の方が印象が強いでしょう」
「そうですよね。
ハルトマン財閥から教えられない限り、誰も覚えていない爆弾魔の名前をこの予告状を書いた人はわざわざ使ったのです。
何で犯人はその名を使ったのでしょうか?」
「……実は病院で亡くなったサトシ・ボーマンは偽物で本物のサトシ・ボーマンが……」
「それはありません。
別の地方のギルド職員の報告なのですが、指紋、血液型などで本人だと断定されましたから」
「あ、そうなんですね」
「……調べたら白骨化した死体があったのは?」
「ええ。
パーティーで報告するものではないけど、聞きたい?」
「はい」
「白骨化したから確定ではないけど……
推定年齢は三十代前半で男性。
死因は後頭部の撲殺。
それも何度も」
「何度も?」
「多分、被害者が完全に死ぬまでに何度もこう振り落として殴り殺したのでしょう」
「誰なのかわかりました?」
「歯に治療痕があって根気よく調べた結果【メラカ・エーマン】。
職業はカメラマン。
エーマン写真館の館長だった人ね」
「カメラマン……」
「珍しいですものね。
まだ、カメラは広まっていませんし、その当時のカメラも知っている人は少ないですし」
「最初はびっくりしたもの。
今はギルドが使う魔道具でカードに刻みますが、昔はそのカメラで登録していたのよ」
「サガアさんが持っていて、今でもギルドにありますよ」
「へ〜」
「本当に最初はびっくりしますよ。
写真を撮るのに“バンッ!”って爆発したような光が出て、フィルムもガラス板なのよ」
「いわゆる湿板写真ね。
私のお婆様達もそれで写真を撮ったりするのよ。
ゴンゾウ・ハルトマンも撮ったから顔は知っているし」
「今ではカメラも進歩してフィルムもガラスではなくなっています。
カメラを持っている冒険者も少数ですが、います。
風景が良ければギルドで買取します」
「その人の遺体があった場所を知っているってことは……
サトシ・ボーマンの写真撮られたってことかしら?」
アドランがそう言うとカナイチは首を傾げた。
「……その昔のカメラってそんなにすぐに撮れるのですか?」
「……今のカメラなら可能かも知れません……
ですが、昔のカメラでは無理でしょう。
撮影するのに時間が掛かりますし、撮影場所も必要ですし」
「……だから、撮られたから殺した……
とは考えにくいんですね」
「それじゃ、その写真館で写真を撮ったけど見破られてーー」
アドランは思い付いたことを言うが、今度は首を横に振った。
「何で?
自分が指名手配されているのは知っている人が何でわざわざそうしないといけないの?
それで万が一、正体バレたら殺す羽目になるとサトシ・ボーマンもわかっていた筈。
そんな迂闊な人が時効どころか老衰で亡くなるまで正体隠せるとは思えない」
「あう……
でも、サトシ・ボーマンが犯人でしょ?
そうじゃないと何で死体が埋まっている場所を知っていたの?
そして、どうして死ぬ間際にわざわざ言わないといけないの?」
「……それはそうですね」
「……その後、エーマン撮影場は?」
「息子が引き継いで今でも写真を撮って欲しい人を撮っているわ。
ただし、カメラを持つ人が多くなった上に魔道具もありますから金回りはよくないらしいわ」
「なるほど……」
「……こういう状況だとカナイチくんは本当に頼りになるわね」
「……取り敢えず、現段階ではイタズラの可能性はあるものの本当の可能性も模倣犯の可能性もあるわ。
冒険者達に厳重に警戒するように伝えてきなさい」
「わかりました」
そして、アルベルトとティーナは敬礼した後で報告しにこの場を離れた。
「……私達もここで調査する必要がありますね。
だから、お酒はなしよレナ。
冷静になれる人物は必要になるでしょうから」
「わかっています、マリナ先輩」




