第20話 犯人はこの中にーー
「おい、まだ犯人は誰なのかわからないのか?」
「も、もう少しだけお待ちください……」
ウイズキが怒号をあげる。
何時間も質問攻めされてそろそろ我慢も限界になってきたのだろう。
「たく……
何であいつが死んでからもこうして迷惑を掛けられるんだ」
「……か、カナイチくん。
一旦、この人達を帰らせます?」
「……その前にウイズキさん、この家に訪れてから何日経ってますか?」
「あ?
そんなこと覚えてない。
あいつとは口喧嘩してそのままだったんだから……」
「なるほど。
それならコリモノさんはどうですか?」
「む?
それなら二日前だが……
それがどうかしましたか?」
「サクリスさんは?」
「わ、私ですか?
……私は昨日来ましたけど」
「そうですか。
それなら二人には少し確認したいことがあるのですよ」
「「確認したいこと?」」
「この家の……
この玄関付近で何かなくなっている物とかありますか?」
「え?」
「なくなっている物?」
そう言われてサクリスとコリモノは周囲をキョロキョロし始めた。
「いや、なくなっている物と言われても……
あそこにある本は無事のようだし……」
「……あれ?」
その時、サクリスは素っ頓狂な声をあげた。
「何かなくなっているの?」
「ええ。
あそこのぽっかりと空いた場所」
そう言ってサクリスはその空いた場所を指した。
「あそこに古い土像があった筈なのにそれがないの」
「ん?
ああ、本当だ。
あそこにあった土像がなくなっているな」
サクリスが指した場所を見たコリモノは確かにと言うように頷いていた。
「ああ、あの不気味な像か。
それがどうした?」
「不気味じゃないよ。
おじさん。あれは昔入った遺跡で手に入れた由緒ある像だって言っていたし」
「ふん。
そんな像興味ないね。
それにそれが本当だったら私は容疑者が外れることだな」
「え?」
「その二人は私の家に上がらせたがそんな像はなかっただろ?」
「た、確かにそんな像なかったような」
「仮に私の家に持ち込んで、どこかに隠したとしても雑巾などに汚れた跡を拭き取った痕跡も、この家の臭いも染み付いていただろうがそんな物なかっただろ?」
「確かにその通りですね」
「それ、見ろ!
つまり、私は犯人じゃないしこの事件にも無関係なんだよ」
と長時間拘束されていたウイズキは嬉しそうに、得意げな表情を浮かべた。
「……ええ。
この事件が物取りである可能性が浮上した時点で犯人候補からあなたを除外してました。
あなたの家に上がる前にね」
「え?
カナイチ、この事件の犯人がウイズキさんじゃないってわかっていたの!?」
「そうだよ、アドラン。
ただし、ウイズキさんはこの事件とは何も関係がないことはない」
「何だと?」
「あなたは利用されたんだよ、この事件の犯人にね」
「わ、私が犯人に利用された?」
「ちょっと待って、カナイチくん!
ウイズキさんが犯人じゃないのならもしかして犯人はこの二人のどっちか!?」
「え!?」
「そんな!?」
「それも違いますよ、マリナさん」
「ち、違う?」
「まずサクリスさんに関してはあり得ないのですよ。
僕がこの家でなくなっている物はないかと尋ねた時に正直に話してくれた。
もし彼女が犯人ならさっき、コリモノさんが心当たりはないと言った時に便乗して心当たりはないと言えば済む話でした。
ウイズキさんも知っていたようでしたが、彼女が言わなければ今でも“ああ、そういう物もあったな”と感じで誰かが言わなければ何も言わなかったでしょう。
ウイズキさんの話を聞けば彼が本当にキシヤさんのことに関して興味がないことはわかっていただろうし、自分から藪蛇なことはしませんよ」
「そ、それじゃあ犯人ってコリモノさん!?」
「なっ!」
「た、確かにコリモノさんはキシヤさんと知り合いみたいだったし……
隙を突いて殺すことなんて簡単にできるよね?」
「それにこの家の鍵の場所も知っていたし、この家に価値のある物を知っていたし」
「本だったら価値はわかると言っておいて、他の物の価値もわかっていれば」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
確かにキシヤさんとは知り合いだったし、この家に訪れたことも、本の価値もある程度わかるがそれでも私はやっていない!
本当だ!
信じてくれ!」
「そうだよ、アドラン」
「え?」
「コリモノさんは犯人じゃない」
「で、でも、この中に残っている容疑者はもうコリモノさんしか……」
「確かに、彼ならキシヤさんの家に忍び込んで殺害し、土像をぬ住めるかも知れない」
「それならーー」
「チャンスがあり過ぎるんだ」
「チャンスがあり過ぎる?」
「この事件は被害者の衣服に揉み合ったところや凶器が近くにあった棒から考えると、最初からキシヤさんを殺そうとしたのではなくて、予想外にキシヤさんが戻ってきて遭遇してしまった犯人が慌てて被害者をこっちまで連れ込んで撲殺した」
「あっ……」
「もし、コリモノさんが犯人ならそんなミスはしない。
彼ならもっと適したチャンスはあっただろうし、キシヤさんを殺す罠を仕掛けるチャンスもいくらでもある。
彼なら玄関に入っても、友人に会おうとしたらどこかに出掛けていたように見せ掛けることもできた。
ウイズキさんを利用したとはいえ、その方法も不確定要素が多いだろうし、そんな方保を使わなくてもコリモノさんなら別の方法が使える。
さっき、僕はサクリスさんが正直に話してくれたから犯人候補から除外したように見えたかも知れないが。こういう考えからサクリスさんも除外していた」
「で、でも、それを逆に利用して……
そういう場合もあるんじゃないのか?」
「そうだったとしても、キシヤさんを殺す必要はありませんよ。
彼らなら例え土像を持っていたところを見られたとしても。落ちていたとか気になり始めたとか言えば済む話ですから」
「そうか……」
「もちろん、キシヤさんとウイズキさんの仲が悪いことを考えれば、そんな事態になればもっと揉み合いになって殺害ではなく喧嘩になっていたでしょう」
「そ、それじゃ、犯人って一体誰なの?
キシヤさんの家の鍵って見つけたのはカナイチだけど容疑者以外でそのことを知っている人なんて……」
「いや、そのことを知り得た人物は他にもいる」
「え?」
「その人物はキシヤさんとは顔見知りだが、知り合いではない。
会う事があったとしてもキシヤさんがものを拾っている場面か、玄関で応対する程度」
「玄関で応対……」
「そして、相当の目利きの持ち主で土像の価値を知り得た人物」
「か、カナイチはその人が誰なのか特定できたっていうの?」
「そのためには……」
カナイチはそう言い止めると野次馬の方を見た。
「カナイチ?」
アドランが聞くとカナイチは不敵に笑い始めた。
「すみません!」
そして、カナイチは野次馬からある人物に話し掛けた。
その人物は太っていて、額に汗が流れていた。
「え?
お、オレに話し掛けているのかい?」
(あれ?
この人、どこかで見たような?)
「カナイチさん、どうかしましたか?」
「も、もしかしてこの人が犯人!?」
「い!?
ち、違いーー」
「違いますよ。
彼はこの事件の犯人ではありませんよ」
「それじゃ、何を?」
「すみません、ちょっと質問いいですか?」
「質問?
オレは野次馬で何が起きているのか何も……」
「僕が聞きたいのは事件のことではありません」
「え?」
「僕は一度、貴方が急いで走っている時をすれ違っているんですよ」
「急いで?
……ああ」
「何を急いでいたのか教えてくれませんか」
「え?」
「お願いします、彼の質問に答えてくれませんか?」
「じ、実は僕はとある冒険者パーティーのファンなんですよ」
「冒険者パーティー?」
「LNAのパーティーなんですけど」
「え、LNA?」
「綺麗だったり可愛かったりする女性冒険者中心のパーティーみたいなものですよ。
前に来たヴェン音楽隊のようなパーティーですよ。
歌だけではなくてダンスなどもしますけどね」
「へ、へぇ〜」
アドランは知らない世界のような気分になり呆然としていた。
「そ、そのLNAパーティーの握手会のチケットを手に入れるために必要な応募券が届いたのですよ。
そこでギルドの受付に渡せば受理できるので……」
「慌てていた理由は?」
「その応募券を受け付けてくれる時間が十二時までなんですよ。
列に並べば受け付けてくれますけど、ここから少し遠くて……」
「それで慌てていたのですか?」
「ああ、何せもう諦めていただけに」
「諦めていた?」
「だって、オレ、ここに住んでいて、その応募券が家に配達されるのは十二時を過ぎてからなんですよ。
だから、もう無理かと思ってポストを開けたらその応募券が入っていて」
「え?」
「これはもう神が与えてくれたチャンスだと確信して、だから急いで受付に……」
「ありがとうございました」
それでカナイチは確信を得たようにニヤリと笑った。
「お、おい!
さ、さっきの話で何がわかったと言うんだ!?」
「カナイチくん、もしかして……」
「ええ、そうですよ、マリナさん。
その上でマリナさん……
いえ、ギルドの人達にお願いしたいことがあるのですけど」
「……カナイチくんが何をお願いしたいのかわかります」
そう言ってマリナさんはキリッとした表情になりギルド職員がたくさんいる場所へ向かった。
「な、何だ?」
「もしかして、カナイチ……」
「ああ、わかったんだよ。
キシヤさんの命を奪った真犯人の正体がな!」




