第18話 被害男性と容疑者達
現場には大勢のギルド職員がやってきて、現場を調査していた。
「それでカナイチくん、君がここにきた時にはすでに被害者は亡くなっていたのね?」
「ええ、マリナさんは被害男性であるキシヤさんのことを知っているのですか?」
「もちろんよ。
彼、有名だもの」
「有名ですか……」
「彼のフルネームは【キシヤ・ジルミアゴ】。
年齢は五十六歳で元冒険者。
それで冒険者時代は収集家でもあったのよ」
「収集家?」
「ええ。
彼、昔、捨てずに取っておいたアイテムのおかげで命拾いしたことがあって、それが何度もあったのよ。
それが原因で物を捨てることが苦手になって……
冒険者時代の時はまだ売ったりすれば良かったけど、冒険者を引退した後もそれが改善することがなくて、町の人が捨てたゴミをまだ使えると言って拾って持ってくることが多くなったのよ。
それでこの家がゴミ屋敷になった訳」
「なるほど」
「ほら、この家って臭いじゃない?
だから住民の苦情が多いのよ。
それでもこの家はあくまで借り家ではなくて彼の家だし、ゴミがギリギリだけど敷地内に収まっていてギルドも注意喚起をしたけど、効果が見えなくて……」
「なるほど」
「マリナさん、解剖結果が出ました!」
「それで?」
「被害者の死亡推定時刻は大体今日の九時頃。
凶器はカナイチくんの推測通りあの棒で間違いないよ。
それに服には乱れた跡がある。
だから、恐らく被害者と犯人が揉み合いになってあそこまで被害者を引きずって……
そして、あの棒を思い切り振り落として撲殺したのでしょう」
「つまり、この家に侵入者がいたと?」
「そう考えるのが自然かと」
「指紋はどうなの?」
「それが……
あの棒にはベタベタと指紋が付いていて……
あの三人の指紋も検出しました」
「あの三人の指紋が……」
「マリナさん、あの三人の中に犯人はいるのでしょうか?」
「それはわからないわ。
疑おうと思えば誰だって怪しいもの」
「それはどういう意味なんです?」
「ほら、彼を見てよ」
そう言ってマリナが指した相手は太った中年男性だった。
「今、事情聴取を受けている人物は【ウイズキ・フレツキ】さん。
被害男性であるキシヤさんとよく揉めていたのよ。
理由は簡単でこの家の近所なのが彼の家なのよ」
「……多分綺麗好きなんでしょうね」
「流石ね。
カナイチくんの言う通り彼は綺麗好きでもあってそれがトラブルの原因でもあることが多いのよ」
「……あの人、僕が止めたから何処も触らなかったのですけど、それでもこの部屋に入って嫌そうにしてました。
それに彼の服はズボンも含めて新品同様に綺麗で皺一つもない。
靴も綺麗に磨かれていますし、今も手をゴシゴシと拭いてますしね」
「そうね。
だから、ウイズキさんはよくギルドに苦情を入れていたわ。
あいつがいるから臭くてしょうがないって」
「……殺す動機を持っていることになりますね」
「他の人はどうなの?」
「……あの細い男性は【コリモノ・イツカワ】さん。
この近くのマンションに住んでいるけど、職業は家庭教師でこの時間は暇らしいのよ。
彼と被害者が会っているところを目撃した人もいるらしいわ」
「でも、あの家ですよね?
内心では殺意で満ちているかも知れませんよ」
「……彼女は?」
「彼女は【サクリス・シイシタ】さん。
この事件の第一発見者で年齢は十五歳よ」
「まだ冒険者になれない年齢か」
「けど、第一発見者が一番怪しいって言いますし……
ダメだ。
誰が犯人かわからないよ」
「とりあえず、彼らに詳しい話を聞きましょう。
何かわかるかも知れないわ」
そして、マリナさんと一緒にカナイチも容疑者一人一人に話を聞くことになった。
「だから。私はやっていないって!
確かにキシヤとは何度も言い合ったり揉み合ったりしたけど殺してなんかいないって!」
ウイズキは焦ったような表情になり、ギルド職員に必死に弁明していた。
「だ、第一、君達がさっさとあの男を退去させたりすればこんなことにはなっていなかったんだ!」
「それよりも今日の九時ぐらいに何をしていましたか?」
「わ、私を疑っているのか!?」
「まあまあ、形式的な質問ですよ」
「……その時間帯は私は洗濯をしていた」
「家事をやられるのですね?」
「ああ……
特に洗濯とか掃除、食器洗いは自分でやらないとどうも落ち着かなくてな。
仕事も今日は休みで、家の大掃除をしようと思っていたのですよ。
まあ、近くにこんなゴミ屋敷があるから臭いはどうにもならないがな」
「それを証明してくれる人は?」
「それは……
私達は共働きをしておりまして……
この時間は妻は仕事に行っているのですよ。
資金が貯まればここを出てもっと綺麗な場所に引っ越そうと思って」
「なるほど……」
普通、誰が洗濯をしていて物を干しているのかを気にする人物はいない。
だから、彼のアリバイを証人する人物はいないことになる。
「ウイズキさんはどうです?
その時間帯におかしな物音を聞いたりとかは?」
「いえ……
洗濯用の魔道具、調子がおかしくて音が凄く響くのです。
試しに聞いてみますか?」
「はい、それは是非」
「それでは次の人に話を聞きましょうか」
次に聞いたのはコリモノ。
「それにしても、驚きましたよ。
まさかキシヤさんが亡くなっていたとは……」
「キシヤさんとは顔見知りだったのですか?」
「そりゃ彼の家は間違いなくゴミ屋敷だし、それに対して苦言を申すこともありましたよ。
ただ、収集家に関してはむしろ関心していたのですよ」
「関心していたのですか?」
「はい。
例えばあの本の山を見て欲しい。
彼は学生が捨てた教科書を拾ってますし、教科書に留まらない。
ですが勉強をする身からすると教科書はまだまだ使える物なんですよ。
あれほど置いておけば復習はし放題だし、同じのを買おうと思えばいくら掛かるかわかった物じゃない。
それに古すぎて買おうにもどこにも売っていない本もたくさんある。
正直におっしゃれば私は彼からめぼしい本を買っていましたよ」
「本を買うのですか」
「もちろん、互いに合意の上で……
彼は収集家であると同時に勉強熱心でもあるのでわからないところがあれば教えることも少なくなかったのですよ。
彼がこんな家に住んでいなければ良き友人になっていたものの、そこは残念です」
「……それではあの家にはまだ希少な本があったりするのですか?」
「その可能性は少なくありません。
彼はそうやって生計を立てていたようで」
「なるほど……」
「まあ、彼が汚らしい人物だと見ていた人も大勢いたので、ウイズキさんのような頭ごなしに避難する人物もいるにはいますけどね」
「……本以外で価値あるものがあればわかりますか?」
「私は鑑定人ではないので、そこまではさっぱり」
「そうですか」
「ちなみに貴方の九時ぐらいのアリバイは?」
「読書をしていました。
仕事までに時間はありますので……
一人暮らしですし、アリバイを証明する人はいません」
「……ついでに普段、キシヤさんはこの時間帯にどこにいたのかわかりますか?」
「ん?
彼なら普段、あの荷車を引きずって出掛けるよ。
大体八時くらいかな?
でも、彼はズボラな性格でもあったから確実に八時に出掛けるかわかりませんよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「最後はサクリスさんですね」
そして、職員に連れられてサクリスは少し怯えたような表情でやって来た。
「あ、あの……
来ましたけど」
「そう肩肘を張らないで。
少し話を聞きたいだけなの」
「……私も誰がおじさんを殺したのか知りたい。
だから、協力します。
でも、その前にお願いがあるのです。
私がここにいたことはどうか両親には内緒にしてください」
マリナさん達は顔を見合わせた。
確かに十五歳の少女がゴミ屋敷の男と仲が良いとなると周囲から変な噂が流れてもおかしくはない。
「わかったわ。
今回のことは外に漏れないように注意するわ」
「お願いします」
「それでキシヤさんと貴方の関係は?」
「……おじさんはよく私の相談に乗ってくれたんです」
「相談?」
「……私は他の人よりも……
その優秀じゃないから……」
そう言ってサクリスは暗い表情になっていた。
「冒険者になれるほど強くも才能もなくて……
将来に自信がなくて……
それで途方に暮れていた時に、私が落とした財布を届けてくれて……
その時も私、暗い顔をしていて……
それで相談に乗ってくれたんですよ。
勉強の仕方とか、物事の心構えとか……
この家に上がらせてもらうこともありました」
「……嫌ではなかったですか?」
「最初は驚きましたけど……
この瓶の話を聞いてから気にしなくなって……」
「瓶?」
カナイチはサクリスが指した方を見るとそこには空瓶が置いてあり、そのラベルは古びているが大事にしていたことがよくわかるほどだった。
「これは?」
「……おじさんが言っていたけど、この瓶に入っていたのはどこにでも売っているポーションで冒険者ならすぐに使わなくなるものだけど、このポーションを飲んだおかげで命拾いしたって」
「……サガアさんに聞いたことがありますね」
「あれ以来、どんな物にも誰かのためになれることもあるって……
だから、私にもどこかの誰かが必要になれるって言ってくれて……」
「……ちなみに九時ぐらいに何を?」
「……家族と一緒に朝食を食べていました。
図書館に行くっと嘘をついていつも通り来て……
この時間帯ならおじさんもいるってわかっていましたし……」
「そして、亡くなっていたに気付いて悲鳴をあげた」
「はい……」
「それじゃ向こうに行ってって。
何かあればまた聞くから」
「……わかりました」
そして、サクリスは奥に引っ込んだ。
親しい人の死にまだショックなのだろう。
「これで全員だな」
「内に秘めている動機はわからないとして……
一番わかりやすいのウイズキさんだな。
彼だけ被害者の悪口を言っていたし」
「でも、それはこの近くに住んでいる人が思っていること……
それだけで決めつけられないわ」
「犯人は誰で証拠はあるのか……」
カナイチは顎を指して考え始める。




