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カナイチ・ホームズの好奇心ー冒険者ギルドの小さな名探偵ー  作者: 才練人
〜熊に喰われた男〜 4章 苦しむ女性
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第16話 真実による解放

「そういえば、事件は殆どカナイチが解決したようなものだけど、報酬とか出るの?」

 アドランがそういうとギルド職員達は気まずそうな顔をする。

「……恐らく出ないと思います」

「え……」

「しょうがないよ。

 ギルドはまだ依頼として出してなかったんだ。

 犯人を現行犯で捕まえればまだわからなかったけど、その犯人は自首をした。

 ギルドに雇われたわけでもなく自首した以上、報酬がもらえないのは当たり前だよ」

「カナイチ……」

「……だがよ、カナイチ」

 どさっとカナイチの隣にメルヴィンが座る。

「お前はマコの魂を救ったんだ」

「魂を?」

「……確かにお前がいなければマコはいつまで経っても捕まらなかっただろう。

 しかし、死ぬまでずっと捕まるかも知れないと言う恐怖が彼女に付き纏うだろう」

「……捕まった時のマコさん、本当に嬉しそうだった。

 私、一度だけマコさんの馬車に乗ったことがあるのよ。

 マコさんは常に笑顔を心がけていたんだけど……

 いつも、どこか人生に疲れているような笑顔だった。

 本当は辛いのに、泣きたいのに、無理に笑顔を作っているような感じだった。

 でも、カナイチに見せたあの笑顔が本当の笑顔だったのよ。

 マコさんの旦那さんが愛した本当の笑顔……」

 女性冒険者がそれを伝えると、メリッサがポツリと呟く。

「あたし、本当にあの被害者に同情したし、犯人を許せない気持ちだった。

 いくら何でもあんな風に殺すのは酷過ぎるし、あたし達の目の前で死んだから余計に……

 でも、あの被害者がストーカー男で犯人が被害者でもあったと知った時、その同情は消えていった。

 こう思ったの、しょうがないって……

 それだけじゃない……

 もう追わなくていいんじゃないか、放っていいんじゃないかって……

 マコさんに同情するようになって事件を終わらせようと思って、もう関わらないように考えた」

 明るいメリッサが暗い表情を見せる。

 この事件の間、メリッサが特に暗くて濃い闇の中にいたような気がしていつものように笑うことはできなかった。

「メリッサ……」

「……でも、違ったのよね。

 あたしのその考えは自分が良い人だと自分で思いたいだけでマコさんのためでもなかった。

 メルヴィンの言う通り、あのまま捕まらなかったらマコさんは永遠に捕まらないことで苦しんでいた。

 周囲を信用できずに泣きながらずっと生きなきゃいけなかった」

 メリッサの肩は震えて涙が流れ始める。

 それを想像するだけでも辛くて、怖くて、でも誰にも言えなくて、どうしようもなかった。

 自分がそう思っていた以上、実際に体験したマコの絶望は想像を絶するものだった。

「……だから、マコさんを助けてくれて……

 ありがとう、カナイチ」

「……そう考えると、カナイチは俺達の心も救ってくれたようなものだな」

「ええ……

 これでやっと、あの事件で区切りがつけることができる」

「パーティーを代表して礼を言う……

 ありがとう、カナイチ」

 アルベルト達は微笑んでカナイチにお礼を言った。

「……感謝しているのはアルベルトさんパーティーだけではありません」

 そう言ったのはマリナを始めとするギルドの職員達だった。

「……証拠はもう出ないとわかって、我々は諦めていた。

 諦めていたのに、どうも気持ちが切り替えることはできなかった」

「……悔しくて、仕事をしていても不意に今回のことを考えてしまい、仕事に集中できなかった」

「それにマコさんが犯罪をしてしまったのは我々ギルドが不甲斐ないせい。

 そう思うと仕事をできたつもりだった自分達がどうしても許せなかった。

 カナイチのおかげでやっと救われたような気がする」

「……報酬は残念ながら出せませんが、それでも本当にあなたに感謝しているのです、カナイチさん」

「これからは同じことを繰り返さないように努めるつもりです。

 それが我々がマコさんに対する精一杯の誠意と共に、事件を解決してくれたカナイチさんに対するお礼だと信じて」

「本当に……

 君をギルド職員にスカウトくらいだ」

「今から勧誘しておきます?

 本来はギルド職員に勧誘される条件はDランクの冒険者ですが、カナイチくんは我々にとって大変貴重な人物になりそうです」

「それはいいな!

 どうだ?

 ギルド職員は給料たんまりだから生活には困らないぞ」

「おっ、低ランクでありながらギルドに勧誘は滅多に見られることじゃないぜ!」

 マリナさんは冗談半分本気半分混じりに笑いながら言って、ギルド職員達も笑う。

 カナイチは照れくさそうに頭を掻いた。

「そこまで感謝されると照れますね」

「おっ、カナイチ照れてるじゃん」

「あはは、元の可愛いカナイチに戻ったわね!」

「……でも、推理してる時のカナイチもかっこよかったような」

「え?」

 その時、ギルドの扉が開いた。

「ーー!?」

 全員が扉の方を振り返ると、そこにいたのは複数の男女でそれぞれ楽器を持っていた。

「あ、あなた達は……

 “ヴェン音楽隊”!?」

 そう、この事件において重要な役目を担ったヴェン音楽隊である。

「……風の噂で、せっかくの音楽を事件で暗くなったと聞いた。

 我々のモットーは音楽で明るくすること。

 すぐに暗くなった場所を放って次に行くことはヴェン音楽隊のポリシーに反するので戻ってきた」

「……音楽は力……

 我々の演奏で暗い雰囲気を吹き飛ばしてあげよう」

 そう言うと冒険者達は笑った。

「……ああ頼む!

 ちょうど事件が解決したんだ!

 だから、暗い雰囲気を掻き消してくれる音楽を頼むぜ!」

 それを皮切りに一週間ぶりのヴェン音楽隊による演奏会が始まった。

 町の人達は何事かと思い、確認した。

 すぐにヴェン音楽隊が帰ってきたと知ると町全体に伝わり、また演奏会が始まった。

「……本当にいい音色だ」

 その音色にカナイチもうっとりと聞いていた。

 そして、すぐにギルドを見た。

「……マコさんも聞いてるといいけど」

「大丈夫よ」

「アドラン」

「さっき、ギルドの人に言ってあそこでも聞けるようにお願いしたから」

 アドランも思うところがあったのかマコに対してそういう配慮をした。

「マコさんもこの音楽を聞けてなかっただろうし、仲間外れは可哀想もの」

「……ありがとう、アドラン」

「ほら、これ」

 そう言って渡したのは紅茶と紅茶に合うお菓子だった。

「カナイチ、夜はこれがいいんでしょ?」

「うん、ありがとう」

「……お疲れ様」

 カナイチは満足そうに紅茶を飲んだ。

「あっ、いちゃつき?」

 そう言って駆け寄ったのはメリッサだった。

 その顔はいつも通りのメリッサに戻っており、楽しそうだった。

「ち、違うわよ!

 今回はカナイチが本当に頑張ったからちょっとしたご褒美というか何というか……」

 メリッサに揶揄われ、アドランは頬を赤くして否定した。

「でも、ちょっとカナイチに惚れかけた子がいた時、少し動揺したような?」

「だ、だから違うって!」

「アルベルトさん達は?」

「アルベルトはティーナとデート中。

 もうあの二人さっさとくっつけばいいのに。

 ティーナがストーカーされたと知った後もアルベルトも気にするようになったし」

「へ、へぇ……」

「あの二人がすぐに付き合うか、まだかかるかこっそりと賭けているのよ」

「……冒険者はそういう話好きですもんね」

「そ、それで、め、メルヴィンさんは?」

「あの、親父は気分直しに酒飲みに行ったわよ。

 全く、二日酔いにならないで欲しいわ」

「は、ハハ……」

「……それにしても本当にいい曲ですね」

「カナイチくんは今のうちにのんびりしたほうがいいわね」

「……どういうことですか?」

「明日になればヴェン音楽隊のことと一緒にこの事件のこと広く知れ渡るわよ。

 もちろん、事件を解決したのがカナイチだってこともね」

「え!?」

「当たり前じゃない。

 あの事件は注目されていたし、ギルドもお手上げ状態だったのよ。

 それを解決したのがもの探しが得意なカナイチだって知ったら、色んな人に聞かれるわよ」

「……本当か~」

 カナイチはべちゃっと俯いた。

「あれ?」

「カナイチ、意外と照れ屋なのよ」

「あらあら、奥さんよくご存知で」

「だから奥さんじゃないって!」

「……ギルドの人が解決したことには?」

「……できないわよ。

 だって、ギルド職員はあれやこれやって迷走していたし、カナイチの活躍はバレバレよ。

 あたし達冒険者はカナイチほど推理できなかったし」

「あ、あはは……」

 以下、事件のその後である。

 マコの厩舎にいる馬達はギルドがしっかりと管理することになった。

 マコは確かに殺人の罪で逮捕されたが、後の捜査で被害男性がマコを狙っていたこと、マコの旦那を殺害したこと、少しでも遅れていればマコが襲われていたということが判明したことにより、正当防衛にはならないが情緒酌量された。

 その間もカナイチはマコさんと面会し、何気のない近況を話すようになった。

 マコは段々とカナイチと会話するのが楽しみになるようになり、出所したらカナイチを馬車に乗せる約束をした。


 こうして、エルニアに巻き起こされた熊型魔獣による恐ろしい殺人事件は静かに幕を下ろした。

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