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カナイチ・ホームズの好奇心ー冒険者ギルドの小さな名探偵ー  作者: 才練人
〜熊に喰われた男〜 4章 苦しむ女性
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第15話 解放と解説

 次の日の朝。

 マコは土に塗れた手をしながらギルドに来ていた。

 その手には、土塗れになっていたカードを握っていた。

「……これを」

 マコは躊躇なくそれを職員に渡す。

 それは探しても見付からなかった被害男性のカードであった。

「これは……!

 これを提出すると言うことはーー」

「はい。

 私があの男を酔わせてあの森に放置しました。

 グラットンベアに食い殺されることを賭けて……」

 ギルドがざわめく。

 中には冒険者もおり驚きを隠せないでいる。

 先日まで証拠はない。

 だから、事件は未解決として処理されていく。

 そんな事件に犯人が自首する筈がない。

 そう思ったからだ。

 しかし、マコの目には後悔も何もなかった。

「……受理しました。

 アナタを殺人の罪で拘束します」

 他の職員が丁寧にマコに錠をかける。

「……そして、申し訳ございませんでした。

 我々が至らないばかりにアナタに辛い思いをさせてしまった。

 これからあの事件の再捜査を行います。

 必ず真相を……」

「……遅い。

 私はあの男が犯人だと言っていたのに、結局逃げられてしまった」

 マコの言葉に職員は申し訳なさそうな表情を浮かべて黙ってしまった。

「……あの男はベラベラと喋りました。

 自分が私の大切な人を殺したことを、その動機も、何もかも……

 そして、私をずっと狙っていたことも」

「……っ」

「でも、もういいです。

 後のことはギルドに任せます」

「……はい!」

 マコは職員に連れられて奥の部屋に行こうとする。

 しかし、マコは止まった。

 安堵したカナイチの方を見ていた。

 その目は完全敗北して悔しがるものでも、怒りでも、悲しみでもなかった。

 遠い過去のように思えて、それでも心の底から信じている安らかな微笑みだった。

「……もしーー」

「もし?」

「……もし、カナイチ・ホームズのような子がいたらあの事件は証拠不十分で終わらなかった。

 必ず、あの男に証拠を突きつけて証明していた。

 だって、みんなが諦めたこの事件を……」

 そう言ってマコは遠くで見守っていたカナイチに優しく見る。

「あの子は僅か一週間足らずで私に決定的な証拠を突きつけてきたもの……

 あの事件が解決できない道理はないわ。

 あの子がいたから……

 私は心の底から救われた」

 それを聞いて殆どの冒険者はカナイチを見た。

 カナイチは恥ずかしそうに頭を掻くが、マコに対して優しく頷いた。

「……ありがとう、名探偵さん」

 そして、マコはカナイチに対して笑顔を向けた。

 解放されたかのような笑顔。

 その目には涙が流れていたが、それは絶望によるものでもなく、不安からでもなく、恐怖からでもない。

 胸がいっぱいで感謝してもし足りないくらいのものだった。

「っーーー!」

 それを見た女性冒険者は思わず泣きそうになった。

 いつもは人生に疲れて影のある微笑みしかできなかった彼女。

 そんな彼女が捕まって連行されているのに、解放されたかのような微笑みを残した。

 それは本来の、マコの旦那が好きだった笑顔に違いないと思うほどの……。

 その笑顔を冒険者の心に残したまま彼女はギルドの奥の部屋に入った。

 マコがギルドの奥に行った後は周囲はカナイチに詰め寄った。

「お、おい!

 どうやって彼女を説得した!?

 マコさん、カナイチの名前を出しただろ!?」

「あの事件、もう証拠はなかった筈だろ!?

 普通なら自首なんてしない!」

「そうです!

 ですから我々は悔しい思いを胸に職務を全うしようと思っていたのに……

 どうやって!?」

 それは冒険者に留まらず、諦め掛けていたギルド職員達も詰め寄るほど。

「……カナイチ、隣村で何に気付いた?」

 アルベルトは真剣にカナイチに聞く。

 それはアルベルトだけではなくメリッサもメルヴィンもティーナも同じ気持ちだった。

「……僕は犯人の気持ちになって考えたんです」

「え?

 犯人の気持ちになって……?」

「そういえばカナイチ言ってたわよね。

 犯人が戦えない人だったらすぐに気付かないといけないことだったって」

「すぐに気付かないといけないこと?」

「きっかけはあの行商人のおじさんでした」

「あの依頼の?」

「はい。

 あの叔父さん戦えなくなったからと言って魔獣に怯えていました。

 魔獣と戦ったことがあるから魔獣の恐ろしさは知っていた。

 だからこそ、あそこまで魔獣に怯えたんです」

「……ええ」

「その時、それじゃあ犯人はどうだったのかなと思いました。

 あの時点で犯人は戦えない人間だと推理できてました。

 そして、殺害方法から考えても犯人はグラットンベアが人を襲うように仕掛けもして、それに賭けていた」

「うん」

「アドラン、君が戦えない人の立場になって考えてみて?

 果たして自分から魔獣が出る仕掛けをした森を怖がらずに帰れるか」

「……あっ!

 普通に考えれば無理よね!」

「そうか。

 確かに夜に行けるようになった冒険者もまだ怖がるし、そういう冒険者は多い。

 冒険者でさえそれなのに、一般人が怖がらない筈がない!」

「……それもグラットンベアが襲い掛かりやすい仕掛けをした後では尚更、怖い筈」

「はい。

 だから、こう考えたんです。

 マコさんは最初からエルニアを出て男を置き去りにしたら、帰るのではなくて隣村に行くつもりだった。

 いくら指紋がつかない細工をしていても、男がベタベタと触った酒瓶はまだ残っている。

 その酒瓶を破棄するために隣村に言って処分する計画だった。

 でも、あの村では朝の七時にならないと破棄できない。

 それをしたら見回りの人に顔と行動を覚えられてしまう。

 だから、マコさんはあの夜は村にいたことになる」

「……それじゃ、マコさんはヴェン音楽隊のことを知らなかったのか!?」

「そうです。

 エルニアと村の間には森があった。

 いくら、賑やかに騒いだとしても町の明かりは隣村に見える筈はありませんし、音も聞こえない」

「ヴェン音楽隊は彼女の計画には何も関係のないことだった……!」

「でも、それっておかしいですよね?

 どうして、彼女は外に出て隣村に行かないといけないんでしょう。

 あそこは早朝に行っても朝には間に合う。

 夜にやる運搬の仕事も危険だからとギルドは禁止にしている。

 マコさんが出る理由はどこにもない」

「……確かにそう言われたらおかしいな。

 一般人が何故、あの森を通らないといけないのか……

 普通、怖がっていかないものだ。

 ヴェン音楽隊のことを知らない人も確かにいた。

 だが、それはギルドに許可を受けた冒険者とギルド職員に限られる。

 そのどちらでもない彼女が知らないのはおかしい」

「……朝ならまだ楽しい噂として聞けるけど」

「マコさんにそんな時間はなかった。

 被害者が誰なのか判明されるよりも前に不自然に見られないように掃除をしないといけなかった……

 そんな状態で町の噂を聞ける筈がねえ!」

「ヴェン音楽隊が来た話もグラットンベアの件で誰も話さなくなった」

「それがマコさんにとっては致命傷だった……

 あの時、町にいた人が知っていることを唯一知らなかったのだから」

「……この事件が難しく思えたのは僕達が何でもかんでも偶然を意図的なものだと勘違いしたからです。

 人は一度や二度偶然が重なったり、最初の偶然が連鎖的に起きた偶然をただの偶然だと受け入れやすい。

 けど、偶然が無数に重なって、都合の良い展開になればあの偶然も実はと全部意図的に組み込んだものと考えてしまう。

 マコさんにとって町がヴェン音楽隊によって賑やかになったのは本当に偶然だった。

 それに気付かずに僕達はヴェン音楽隊も利用したと勘違いしてしまった」

「……確かに門番の目が眩んだり、多くの酒を売ったから出どころが不確かになったりと犯人にとって有利なことばかりでしたからね」

 だから、多くの冒険者は全て犯人の計画の一つだと勘違いしてしまった。

「……犯人の立場になって考えでもしない限り、偶然が重なった結果だと思えないよな」

「……ヴェン音楽隊のことを知らなかったのが致命傷だったとはーー」

「……でも、それは一時的なこと。

 だから、カナイチくんはあの時焦ったのよ」

「どういうことだ、ティーナ?」

「私達はあの村で懐かしくヴェン音楽隊が来たことを思い出して話していた。

 でも、それは当たり前のことなのよ。

 恐ろしいことが起きてしばらくしたら人は過去の楽しかった思い出を語り出す。

 それは冒険者だけじゃなく町の人も同じ」

「……っ!

 つまり、いつマコさんがヴェン音楽隊のことを聞いてもおかしくなかったのか!?」

「……一日でも遅れていたら多分、町の人は懐かしみながらこう言ってたわ。

 “グラットンベアの噂が広まる前は楽しかったな”って」

「それがマコさんの耳に入ればーー」

「確実に入る。

 だって、マコさんは酔っ払ったお客様の送迎もしていたのよ。

 井戸端会議でもいつ聞いていたかわからなかったし……

 酔っ払ったお客がそんなことを言えば彼女は自分がいない日にそういうことがあったと知ってしまう。

 そして、その後でカナイチくんと会って聞かれたらこう答えるに決まっている。

 “ああ、ヴェン音楽隊のことね”って」

「それを言われたら嘘かどうかわからなくなる!

 人の記憶なんていつ薄れてもおかしくないし、町の人は聞いていた相手を覚えている筈がない……

 その記憶の隙間を利用して辻褄を合わせるに決まっている!」

「だから、カナイチくんは焦ったのよ。

 このチャンスを逃せば永遠に彼女が犯人だと証明できなくなる。

 カナイチくんの言った時間制限はこのことを指していたのよ」

「……ギリギリだった。

 もし、あのままカナイチくんがいなければ被害者が誰なのか判明できず、当然容疑者であるマコさんに辿り着けず、証拠も消えてしまっていた」

「一秒すら惜しいカナイチの気持ちはわかったわ。

 あの時、カナイチはギルドに報告する余裕なかったもの」

「……マコの最大の誤算はカナイチだったな」

「そうだな……

 カナイチがいなければ俺達はいつまでも誰が被害者か誰が犯人か分からずじまいでマコの狙い通り、事件は怪しい点があるものの事故として処理していたに違いない」

「言えてる」

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