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カナイチ・ホームズの好奇心ー冒険者ギルドの小さな名探偵ー  作者: 才練人
〜熊に喰われた男〜 4章 苦しむ女性
13/23

第13話 追い詰める想像

 カナイチの発言にマコは不意に止まる。

 だが、すぐに穏やかな顔に戻ると少し笑い出した。

「もう、何馬鹿なことを言ってるの?

 そんなわけないでしょ。

 第一、被害者は本当にその男なの?」

「ええ……

 今日までこの町誰にも彼が自分の友人や恋人といった相手からの行方不明届が出されていません。

 このことから被害者は誰にも相手にされない人物、例えば不審人物だったと言う推測ができます。

 そして、ギルドに調べてもらった結果、あなたの旦那さんを殺した男性がいなくなったことがわかったんです」

「で、でも、そんな怪しい人ならこっそりと町を出て行っても不思議じゃないのかしら?」

「門番に確認しましたが、そのような人物が出ていった痕跡はありませんでした」

「……町の人の噂だと顔はぐちゃぐちゃだったじゃない。

 顔もわからない人ならその人だと決定するのは早計じゃない?

 ましてや、私が殺したなんて……

 全部、ギルドやあなたの想像じゃない。

 そこまで言うのなら決定的証拠を出してください」

「……確かに僕の言うことは全部想像です」

「ほら、やっぱりーー」

「だから、一つ質問に答えてください」

「質問?」

「はい。

 もし、この質問に答えることができたのならもう二度と僕はあなたを犯人扱いにはしません。

 あの男も納得できないものの最終的には不幸な事故として処理されると思います」

「……質問に答えられなかったら?」

「ここで僕の想像の続きを聞いてもらいます」

「……その質問って何よ?」

「簡単な質問です。

 この町に住んでいる子どもやおばあちゃん、おじいさんに聞いてもすぐに答えてくれる簡単な質問。

 実はあの男が森に置き去りになった時、《《この町にはある賑やかしが起きていた》》。

 《《その賑やかしが何なのか》》、答えてください」

「!?」

 マコは大きく目を見開いた。

「そ、それはグラットンベアが人をーー」

「それとは全く無関係の賑やかしですよ。

 大丈夫、例え聞いてなくてもグラットンベアの事件が町に広がるまで町の人達が楽しそうに話し合っていましたから」

「ーーー!」

 マコは目を見開いたまま黙ってしまった。

 口ではぶつぶつと言っているがそれも自分の推測を立てている言い方。

 それも、小声でしかしとかそんなと言った自分の考えを否定するものばかり。

「……やっぱり、答えることはできませんでしたか」

「ーーっ!」

「それなら、僕の想像の続きを聞いてもらいますけど、構いませんね」

「こ、答えられなくても、それは証拠にはーー」

「あなたの行動はこうです。

 まず、あなたはストーカーしていた彼に声を掛けた。

 今日は寒いのでこっちで暖まらないかと」

「っ!」

「あなたを狙った男は喜んだ筈です。

 だから、何の疑いもなく家にあがった。

 そして、あなたはアルコールが強い酒を男に飲ませた。

 当然、断ることはしなかった筈だ。

 ずっと、狙っていたあなたが心を開いたと思って勝利の美酒のつもりであなたが注ぐ酒を飲み続けた。

 泥酔になって眠るまで……」

 カナイチはまるで暗記するまで読んだ物語を語るようにマコに語りかける。

「酔って動けない男をあなたは馬車に乗せた。

 その馬車にはさらにアルコールが強く匂う酒とりんごをすりつぶしたもの。

 そして、手紙付きの差し入れが入っていた」

「さ、差し入れ?」

「ええ。

 そして、門番前に来てその差し入れを門番達に渡したんだ。

 過酷な仕事をしていた門番達は喜んだ。

 身知らない人の感謝の気持ちだと信じた。

 そう油断している門番達の隙を突いてあなたはエルニアを出た。

 そして、あの男をあの森まで運んだ」

 マコは青い顔になり始めている。

 どうして誰も見ていないはずの部分を見ていたかのようにカナイチは言ってくる。

「そして、泥酔状態で簡単に起きない男にあなたは顔や手に酒とりんごを染み込ませた。

 グラットンベアが現れた時、そこを噛ませるために……

 そう期待して……

 仕掛けが終わった後、あなたは急いで隣村に向かった!」

「……っ!」

「馬を大回りにさせてエルニアに帰ることはできなかった。

 その間にグラットンベアが現れてあなたに襲い掛かる可能性もあった。

 それに酒瓶などの証拠品を処分する必要もあった。

 けど、あなたも知っている筈だ。

 あそこは月曜日の七時にならないと回収されない。

 それよりも前に捨てたら注意されてあなたがあそこにいたと証言されてしまう。

 だから村についたあなたはあそこの宿に泊まった。

 眠りにつけなかった筈だ。

 自分が仕掛けた罠がうまく作動してくれるか、冒険者に妨害されずに済むか罠がうまく起動してもそれがあなたに襲い掛からないか。

 不安で眠れなかった筈」

「……ど、どうして」

 その後に続く言葉はなかった。

 “どうして、そう言い切れるのか”。

 あるいは“どうして、そこまでわかるの”か。

「そして、グラットンベアの討伐されたことと男性が喰い殺された話を聞いて自分の計画がうまく行ったと確信した。

 けど、そこで安心しているわけにはいかない。

 あなたは急いで馬車を動かしてエルニアに帰った。

 その日からあの男がいた痕跡を掃除して消さないといけない。

 それにもし、門番の意識がしっかりして記録できる状態になってしまえば、あの時、エルニアにいた筈のあなたが隣村にいたことがバレてしまう。

 だから、一秒でも早くエルニアに帰り、被害者が誰なのかギルドが調べている間にあの男がいた痕跡を掃除して消した」

「だ、だから!

 それは全部あなたの想像じゃない!」

「いいえ。

 あなたはあの時、エルニアに出ていた!

 その証拠にあなたはあの時何があったのか答えられない!」

「っ!」

「それは何故か……」

「あの夜、あなたは隣村にいたから!

 あの時、エルニアの町でどれだけ賑わっていたとしても間に森がある隣村では聞こえる筈もなければ見える筈もない!」

「……」

「でも、それがおかしいことはわかりますよね?

 この時期、魔獣は活発になっていますし、ギルドも外に出る仕事は禁止にしている……

 そもそも、戦えない人が夜、あの森に出る必要性も理由もない。

 何せ、夜に出ればいつ魔獣に襲われるかわかりませんからね…

 グラットンベアの繁殖期なのはこの町に住んでいれば誰でもわかること」

「それは……」

「その賑やかしを知らないのは町の外で仕事をしていた冒険者くらい。

 けど、それでも噂を聞けば何があったのかわかる」

「!!」

「そう、あなたは噂を聞いている余裕はなかった。

 一刻も早くあの男がいた痕跡を抹消したかったから……

 丁寧に隅々まで掃除する必要があった。

 何があったのか聞く余裕はなかった」

「だ、だから……」

「隣村までの距離は短い。

 早朝に行っても朝の賑わいには間に合う。

 瓶を捨てたいのならエルニアでもできましたし、どうしても隣村に捨てたかったとしても先ほど言ったように早朝に行けば間に合う距離。

 あなたが危険を犯して夜に出て隣村に向かう理由はどこにもないのですよ」

「あっ……」

「それでも違うと言うのでしたら答えてください、マコさん。

 どうしてその時、戦う人でもないあなたが隣村に行かないといけなかったのか」

 カナイチが追求するとマコは黙り込んでしまう。

「そ、それでも、わ、私が殺したしょ、証拠にはならーー」

「……でも、十分怪しくなってきました。

 これならできますよ」

「えっ……」

「ギルドにお願いすれば許可は降りる筈です。

 あなたの庭、あるいは厩舎辺りの地面を掘る許可が」

「!!」

「事件が経ってまだ一週間です。

 必ずあなたの許可がなければ掘れない場所を探せば見付かる筈です。

 地面を掘り返した跡が!」

「そ、それはーー」

「その跡を掘れば見付かると思いますよ。

 被害者の身分証が!

 マコさん、あなたは聡明な人だ。

 そんなあなたが今、身分証を処分することはできない。

 何せ、今処分しようとすれば周囲の人に証拠を燃やしているのではと疑念を持たれてしまいますからね。

 少なくともほとぼりが冷めるまでは処分できなかった。

 そうでしょう?」

 それがトドメだった。

 マコは何も言えずに頭を下げて床を見ていた。

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